エルティア伯爵の死
接敵から1時間、我が軍はすでにボロボロであった。
「左翼崩壊、兵が逃走を開始!」
「右翼弓射攻撃で崩壊寸前、至急来援を乞うと!」
「中央部また崩れました!」
基幹要員はともかく戦うべき兵の大半は臨時徴兵。
そのうえ本来でれば徴兵すら逃れられる能力持ちである。
戦場で文を読めても雪崩のような敵軍相手にはどうにもならない。本来であれば文官として起用するべき人間ですらも無駄に歩兵として使うありさま。
あくまで数合わせだったのだからさもありなん。
「クォゾチュ隊長が戦死、次席指揮官行方不明!兵は山へ向かって逃げていきます」
また一人、部隊を任せられる人間が死んだ。
「騎兵隊突撃、後方を突破しました」
「遊ばれておるな」
「エルティア将軍!いかが致しましょう!」
いかがも何も……統制も取れていないのにどうしろというのだ。
「防御に徹せよ、我々がどれだけ耐えるかで上も判断を変えるだろうさ」
ハーン将軍は救援に来るのだろうか?
あるいは見捨てること前提か?
陛下の救援のほうが近いが……。
「ハーン将軍より撤退の指示が出ました」
「どこへ?我々は挟まれているが?」
「山ではないでしょうか」
「まったく、細かく指示してほしいものだ。通常の軍とは違い撤退といえば突いてきてくれるわけではないのだぞ。まして山であればいっそと逃散するだろう。ハーン将軍はまだ山の上か……」
「依然動かず」
「致し方ないか、このような軍ではな。良いだろう、ハーンと陛下の間に布陣するとしよう、後退を開始する」
麓を抑えていたのにあっさり明け渡すとは。
これでは本格的に飢え殺しにされるぞ、こうしている間にも王国軍がオーランデルクを落とし、別働隊はロバツを落としているかもしれんというのに。
「前衛部隊は……」
「前衛崩壊いたしました!騎兵が突破しました!」
「落ち着け!速やかに撤退を……」
外の喧騒が大きくなると嫌な予感が大きくなる。
ここまで来たとでも言うのか?
陣外に出ると兵がこちらに向かってくるのが見えた、ロバツの兵だ。
「後退は整然とせよ!落ち着け!」
「うるせぇ!」
「どけ!」
本陣に乗り込んで逃げようとする兵士を部下たちが止めようとするが剣を抜いて陣を切り裂き去っていく兵を見て、流石に味方に殺されてはたまらんと止めるのをやめてしまった。
ああ、やはり臨時徴兵ではこんなものだ。
そもそもの頭脳労働をするようなやつや、免除されるであろう人間をここで使い潰すほうが間違いなのだ。
「我々も撤退をしよう。陣はこのままでいい、不利な書類だけ……」
陣の横を数騎の騎兵が書けていくのが見えた。
私の兵ではもちろんない。突破されたのだ。
「構わんすべてを捨てて逃げ出せ!基幹たる人材が残れば必ず軍は立て直せる!」
逃げてくる兵に背を向けて部下たちにそういい、兵の逃げる先と同じ方へ走り出す。
「将軍!横からも騎兵が突撃を!」
「ええい!キサルピナ軍は戦場を集団行動の披露の場だとでも思っているのか!正面と横に騎兵突撃してどうしようというのだ!」
「エルティア将軍!崩壊した左翼の兵が道を遮って逃げているため通れません!」
「ああくそ、押し通れ!」
「すでにやっていますが、その逃走する左翼の兵から攻撃も受けています」
「同士討ちとはな!」
「敵騎兵が!右翼から来ます!」
「くそったれ!」
迫る騎兵に剣を打ち合わせようとしたものの、速度の乗った騎兵の剣に弾かれ、次の攻撃であっさりと首元を刺された私はどうしてこうなったかと考えつつ意識が遠のくのを感じた。
「エルティア将軍、敗退、こちらに兵が向かってきます」
「兵を吸収しよう、それで少しはマシになるからな。それでいかほど?」
「わかりかねます」
エルティア軍を打ち破った、アルベマー軍とキサルピナ軍は軍を再編しこちらを睨むように麓に布陣した。
「逃さんというわけだ、たしかに丘の向こうに逃げるとしてもどれかが回り込むだろうな」
「エルティア将軍戦死とのことです!」
「何!もうか……再編を急げ」
麓を眺めながら情報を聞き続けると敗退、合流した兵は3000、あとはどこかで逃散したうえで戦場で散ったようだ。
パッと見ればアルベマーの弓射攻撃で2000くらいは死んでいそうだ、積み重なりっぷりではそのように感じる。
「ハーンはなんと?」
「流石に想定外であるとのことです。以降は国王軍が本陣となりますが……」
「弓ならこちらが有利といったところか、可といっても校舎に弓を飛ばす技能がないわけではないからな。威力が削がれると言うだけで十分恐ろしいものだ」
「ハーン将軍に陣地の交代を願い出ますか?」
「バカをいえ、そんなことをすれば連中は一気に丘を駆け上がるぞ。これでいい、猟師たちを動員しているのだ、弓で迎撃に重点を置け。本陣のみ後方に下げる直ちに実行するぞ」
「おかしい」
「キサルピナ族長代行、何がですか?」
「相手が弱すぎる気がする」
「よくあることでしょう?歯ごたえがあるようなのそれこそ大族長とか同じ族長などですよ」
「いや、そう単純ではない、被害がたった1000しかないのだ。ロバツ相手だぞ?相手は9000近い。それにあまり覚えがないとはいえ将軍だったのにこの結果だ。おかしくはないか?」
「使い捨てだったんじゃないですか?役に立たん兵を死地において口減らしするあれでは?」
「ならいいのだがな、昨日でも2000の被害があったのにたったの1000足らずであればこうも疑おうよ」
「考えすぎでしょう、アルベマー伯爵軍との連携がうまくいったからですよ」
「それもまた否定はできないのだがな……」
ベス「なんかあっさり……崩れたな……」




