エリー本陣
「さて、なかなか堅牢ではありませんの。ワタクシに時と余裕とすてきなもの全部あれば包囲して飢えさせるんですけどね」
「厳しいですか」
「そうねローズ、本来であればロバツ侵攻時にワタクシの軍勢と合流して万全で挑む予定でした。まさかのエセルの女王就任に王国侵攻で自国領土の防衛戦争となってしまった挙げ句の先を読まれた遭遇戦。全くままなりませんわね。かといって王国軍を動かすにはいささか不安と懸念がありましたの」
「それは……王都の反対派ですか?」
「それもありますわ、でも全軍を動かさないのは流石にやり過ぎというもの。ぶっちゃけると良い戦いはできても勝てるか、あるいは犠牲少なく勝てるかまではわからなかった。いくらアレクサンダー女伯爵が統率してるとしてあの軍務大臣といい国王派閥といい多少は生きてるでしょうからね。迂闊に功績を残されても困るし、かといって無能をさらして負けられても今後があるから困りますの。それにここで動く連中をきっちり潰しておけば後が楽ですしね。ロバツに勝てば終わりではなくってよ」
「ああ、先の先ですね」
「未来を見すぎて足元に躓いてしまったと言うべきかしらね。エセルもなかなかやるもの……」
「いや、先を読まれた時点で実質負けだろう」
「だから昨日負けたって言ったじゃないですの、アンは嫌なとこつつきますわね」
「まぁ……わかっているならいい。死んだ数は数字ではないからな」
「万全であればどれだけ犠牲が少なかったことか。できるなら包囲で終わらせたいんですわ」
「早めに終わらせてロバツを下す必要があるか」
「エセルを生け捕りにできれば最上、死なれればロバツ王都アーバサダーまで進軍して……。という感じですわね。問題はあの軍勢がどこから生えてきたことか……。無人の野を行く如く、ロバツを攻められるかは不明と来たものですわ。最悪の場合ワタクシがロンドニで改めて王太子の儀、もとい王太女の儀を行い、キサルピナにすべて任させざるを得ませんわね」
「ここでハーン将軍とエセル女王を討てればな」
「討てればいいんですけどね」
「追撃まではできますがどうしますか?」
「それはおいおいですわね、ローズはどっしり構えていてくれればいいですわ。ワタクシが焦るのは一目散に逃げられた場合。罠かどうかわからないし、やはりイルモー侯爵領要塞に籠城された場合は非常に厄介で面倒ですわ。恥も外聞もなくワタクシの軍か王国軍をギリギリまで呼び寄せて包囲戦せざるを得ませんわ。現状ではね。イルモー侯爵要塞に籠城しないということはこれで兵力が払拭した可能性もありますけど……そう思ったらハーン軍が生えてきましたからね。今亜展開なら昨日はああいうふうな戦いはしなかったんですけど」
本当反省ですわね。
人間が想像しうる出来事は起こり得るってブロンテ先生の小説にもありますしね。
そうなると墓からでてきたのかしら?いや、たぶん義勇軍とかそういうものでしょうね。
オーランデルクの懲罰戦争も必要ですし……。
まったくままならないですわね。
「ねぇ、あなたならどうしますのアー……」
ああ、そうだ。もういないんでしたわね。
全くこの大事なときにいないだなんて……特等席ですわよ。
「……私か?」
「ええそうですわ」
ものすごくいたたまれない表情でそういうアンはワタクシの、私のうっかりをなかったことにするためにそういったのでしょう。
ローズが困るから。
「それでアーちゃん、この戦況でまずすることは?」
「決めたとおりだ、まず麓の軍を撃破する、同時にブース軍を攻撃、ハーンに備え続ける」
アーちゃん自体には全く触れませんわね。
いや、いいんですけどね。
「後手ですわねぇ……」
「ハーン将軍相手に丘を登って攻撃か?」
「ですわねぇ……」
ちょっと無茶ですわね。相手を逆落としさせないと。
つまり絶好の機会を与えないといけない、隙を見せてなおかつハーンの軍がこちらを食い破らない程度の隙を。
難しいですわね、相手のそれを誘発させるのは。
「ドゥエインくんに期待ですわね。ジーナも補佐にいるしなんとかなるでしょう。約一万で地形的不利があるとはいえ押し切れますわね。それにしても……ハーン軍を分けたのかしらね。エセルに割くのはわかりますけど、そうね……4万、5万程度のほうがハーン将軍も指揮しやすいのかも知れませんしね」
あえて軍を分けて掌握可能範囲を絞るのはよくあることですわ。
将軍が将軍を率いることだって普通ならよくありますしね、戦争が続いて将軍の数が減ったせいで将軍にかかる地位の重みと負担が尋常ではなさそうですけど。
「アルベマー軍とキサルピナ騎士長の軍が攻撃を開始しました」
「ベスも手が早いですわね、遠距離に徹してキサルピナが隙をつく……平地であれば完璧な連携ですわ」
まぁあそこを抜いたら丘を攻撃しなければならないので結構難しいですわね。
弓は高所が有利ですもの、キサルピナの騎兵もどこまで使えることか。
「左翼は?」
「麓で対峙しています。まだ登らないかと思われます」
「まずは麓のあの軍ということね。まぁ撃破されたあとの方が向こうも焼けぼっくりに火が付くでしょう。固めるか、少し繰り出すか……。どちらに動いてもこちらは構いませんわ、攻め手のほうが有利になるでしょう。完全に出てこないようならまた面倒なことになりますけど」
まずは小手調べ、と言ったところでしょうか。
エルティア伯爵「これ無理じゃね?」




