エセル総攻撃
「ゆけ!何が何でも公爵軍を蹴散らせ!エリーゼ・ライヒベルクを討ち取れ!」
軍を一気に右に振り向け突撃を開始する。
再編中の公爵軍は浮足立つことはなく淡々と防衛をととえていった。
「どこまでも舐めている!その慢心が貴様の危機につながる!あの世で後悔するがいいわ!」
「先鋒ラシー指揮下!公爵家に接敵」
「良いぞ!」
とにかくぶつかれ、傷を負わせろ!やつは逃げない!
「国王旗を掲げよ!エセル・ロバツはここにいる!この旗を見て逃げ出すのならそこまで!名誉を地に落とすが良い!戦略的に正しくても政略的に正しいか知っているだろう!」
「公爵軍前衛突破!」
「……何?」
「ラシー団長負傷!しかし団は進軍を止めません!」
「そうか、生きて戻れと伝えよ!勲一等もあるぞ!」
あまりにもあっさり突破したことに瞬間、罠か何かを感じるがラシーが負傷するほどの攻勢であればありうる。
それにあの女であればあえて通して届かせてみろと煽ることもあるだろうさ。
あの王太女旗につっこむ!
「へージン司令戦死!」
「な……」
「敵左翼崩れつつあり」
「やつの命では割に合わんな。親衛隊、突撃準備!」
「国王親衛隊です、国王陛下」
「……ああ、そうだった!国王親衛隊としての初陣だぞ!歴戦の猛者としての成果を!輝かしい栄光を!掴み取れ!」
「国王親衛隊、突撃します!」
「おう、存分に行け」
ここが正念場。
国王親衛隊は王女時代から私の親衛隊として戦場で長い付き合いがある。
戦場も、それ以外の粋も甘いもすべてをともにしてきた。スカケルよりも信用してると言ったら言い過ぎであろうか?
親衛隊が負ける時は私が負け、親衛隊が勝つ時は私が勝ってきたのだ。
親衛隊が消えた時、私が消えるかそれとも……。
「国王親衛隊公爵家の精鋭らしき部隊と交戦を開始!拮抗しています!」
「拮抗!結構ではないか!我らは前の戦争よりいけるということだ。予備騎兵隊を投入せよ!」
これで崩せればいいが……。
「公爵家前衛に我が軍騎兵隊が突撃!突破しました!」
「しめた!この戦い勝ったぞ!本陣を前進させろ!騎兵隊に続け!」
「敵の指揮官らしき人物を討ちましたが誰かは不明ということです」
「人材があって羨ましいことだ、我々も把握してない人物か。蛮族でも引き込んだのではあるまいな?あり得るが……奴らの流儀に乗る必要はない、ここは蛮族領でも国境周辺でもないぞ」
「この戦い勝てる!」
「さて、そろそろいいでしょう。旗を変えてくださるかしら?」
「はっ、王太女殿下の仰せのとおりに」
「ワタクシがでますわ、我が子達……ワタクシ達の得意なのはなぁに?」
「決闘です!」
「圧倒的武力による鏖殺です!」
「んー……そうですけども……誰か分かる子は?」
「人殺しですか?」
「物騒!」
普段どんな目でワタクシを見てるんですの!?
いや……ワタクシ達って言ったから別にワタクシだけがそうとは……ねぇ?
「確かに」
「ママが得意なやつだな」
「さすがは族長……」
「私もああなりたいです」
ウケはいい……。
いや、ワタクシが得意って……敵にしかやりませんわよ!
「そろそろドゥエインくんも厳しいでしょうし……」
「前衛が下がりつつあります」
「はい、全部下げて。公爵軍を出しますわ。ブランケット侯爵軍は道を開けるように、まずは寝返った家を捻り潰すとしましょうか。行きますわよー!」
「先陣は私に!」
「いえ私に!」
「そろそろ戦をしたいのです!」
血の気が多い!
「じゃ、あなたでいいですわ。一番最初に声を上げた……ゴールドン!寝返った連中は降伏を許さずぶっ潰して差し上げなさい!じゃワタクシたちは後ろからエセルを狙うとしましょうか。確実な勝利を狙うならもう少し慎重さを持つべきでしたわね」
「バルカレス軍、クラーク将軍に突撃開始!」
「アルべマー軍、クラーク軍に突破されかけましたがそのまま前衛と分断に成功したとのこと」
「レズリー軍より伝令!中軍指令官を確かに射殺したとのこと」
「中軍?要かしら?ウィス将軍とかそのへんだといいんですけどね。いざ、出撃ですわー!」
後衛にて控えていたエリーゼ・ライヒベルクはブランケット侯爵軍の旗を降ろし、王太女旗を掲げ、エリーゼ・ライヒベルク本人の旗を上げた。
寝返った国境14家はエセルの読み通り鎧袖一触で敗れた。
「前進、前進あるのみだ!」
「国王親衛隊!優勢に転じました!」
「よし、予備兵力を……」
「ブランケット侯爵軍の後方からエリーゼ・ライヒベルク軍が登場しました!」
「は?」
なぜそんなところに……。
ハメられたか!それとも……陽動か!?
「国境14家が敗退、当主死亡は6家!」
「クソッ!あっちが本体だ」
ハメられた!ブランケット軍を大人しく抑えておけば!旗を偽装するとは……どこまでこちらをたばかるのか!
「全軍総反転しろ!」
国王親衛隊を投入した後になんてことか!国王親衛隊投入まで待っていたのか?……いや、この位置は……。
我が軍がすべてブランケット侯爵軍から離れるのを待っていたのか!?
精鋭がいるということはエリーゼ・ライヒベルクを討ち取る計画は読まれていた。
いいや、読まれていたところで勝つかは別だ。
あちらが公爵軍ということか!?いや、だとしたらわざと手でも抜いていたとでもいうのか!?
あの強い軍がブランケット?それはない!断じてあってたまるか!
……突破が容易な所有はブランケット軍か、そうか部隊を入れ替えただけか。
つまりブランケットを抜けなかったのは公爵軍だったからではなくエリーゼ・ライヒベルクの手腕込みというわけだ。腹ただしい!
「伝令!クラーク将軍戦死!クラーク軍は依然として統制を保ちつつアルベマーへの攻撃を続行しています!」
「…………」
これはまいった。
公爵軍を指揮するドゥエイン「……ブランケット侯爵軍はあっさり抜かれたな」
公爵軍の実際の指揮を担当するモカン「……武漢ではないですし崩壊しないだけ大したもんです」




