明日への方針
「読めましたわ、私達は釣り出されました」
「一体どのように読まれたのですか?」
「まず大軍の集結地を考えたら限られます。ワタクシがロンドニで儀式をしたことを考え、そしてサミュエル街道を使わなかったこと、ベスが率いるアルベマー伯爵軍も側道を使い移動したこと、これらからロンドニに最も近く集結地候補になる場所はワタクシ達がここで良いかと考えたようにベジャハンだった。ここまではよろしくて?ドゥエイン君」
「はい」
素直で結構、姉ににてませんわね。
「なぜワタクシ達の集結を待つのか?いいえ、集結を待ったのではなく各個撃破する予定だったのです。ただ私たちがそろい踏みしたから。ワタクシの軍の到着のためこちらにしたことを想定してるはずでしょう。つまり公爵家の本体、キサルピナたちの到着前に動く予定だった」
「ではなぜ1日とどまっていたのでしょう?」
「もしもキサルピナが到着していればロバツを攻めたでしょう。この1日は増援待ちで有意義だったともいえるし、エセルが我々の戦力が揃っていないことを確信を持った戦術的な不利になったとも言えるわけですわね」
「なぜそう思ったのですか?」
「エセル自らが打って出たからです。あの女は自分の使い時をわかっています。考えられるのは士気を上げるため。この戦争の国境貴族寝返りと先手を打ったのに士気が下がることがあるのか?ないですわね、ワタクシなら士気がぶち上げイケイケで初日に攻めてますわ。つまりこれはない。次に出ざるを得ない強敵であると判断した。これはどう思いますの?ドゥエイン君」
「ありえないと思います、ブランケット侯爵家は戦では全く名を挙げていません」
「ええ、そうですわね。アーデルハイドが生きていたとしても軍自体は強くはないでしょう、少なくともエセルが警戒する強さではない。かといってドゥエイン君を恐れて出た可能性は……」
「ないです」
「ええ、そうです。つまりエセルの狙いは唯一つ。ワタクシを戦場で打ち倒すこと。これこそが逆転の一手であり、サミュエル王国を下すただ一つの手段……。今日の戦闘で確信を持ったのなら、明日は激戦でしょう。増援が来るのが先か同数の我々が押し切られるか、楽しくなってまいりましたわね」
「恐ろしくはないのですか?」
「なぜ?」
「なぜといわれても……負ければすべてを失うでしょう、生きてもどうなるか」
別に死ななければどうとでもなると思いますけど?
「生きていても急に失うこともあるでしょう?友人とか自分の命とか、姉とか……。もしもここで果てるならワタクシにはなにかが足りなかった、それだけのことですわ。これ以上打てる手がないのであればワタクシの慢心でないのであれば……ワタクシはその程度であった。それだけです。この首取れるものなら取ってみればいい」
「しかし……」
「それに、ドゥエイン君。わざわざ敵の女王がワタクシの首を取りに来たのですよ?答えてあげねば王太女として無作法というものでしょう?」
「女王?しかしロバツ国王は……」
「エセルの旗が本陣にあるのに軍を直接指揮してその旗を掲げている。そして国王旗といないはずの王女の旗が並ぶ。これが説明する状況はひとつ、あの女は女王になりましたわ。ただ話が入ってこないということは即位は秘密裏、もしくは市井に一切公開していない。女王就任という慶事にそこまでして挑まれるのであれば受けて立つのが当然。明日は真面目に対応して差し上げましょう……正々堂々とね」
それでこそワタクシというものでしょう?
そうでしょう?そう思いませんこと?アーデルハイド。
「敵の増援は明日来る。それだけは周知させろ、来なければラッキーだ。それこそ幸運がこちらに向いている。同数で脅威なのはライヒベルク軍、マッセマー軍弓兵、バルカレス軍重装歩兵……。まずブランケット侯爵軍を撃破する。ついでスペンサー、マルバッハ軍を撃破する」
敵の布陣図を見ながら指示を出す。
こちらから見て左からマッセマー、アレクサンダー、レズリー、バルカレス、アルベマー、公爵家。
レズリーの前方にスペンサー、マルバッハ、ブランケットの並び。
「ブランケット侯爵軍は私が担当する、ブランケットをに逃さぬようにしつつ公爵家を狙う姿を見せる。ブランケット侯爵軍に攻撃したあとはブース将軍がスペンサー軍を攻撃する。停滞するようならいたしかたない。クラーク将軍はマルバッハ軍を全力で攻撃せよ」
「「はっ!」」
さて、問題はブランケット軍と公爵軍の連携だ。公爵家の眼前ではなくアルベマーの陣の前にいる。これは見捨てるのではなく全力でサポートする体制だ。
つまりブランケット侯爵軍は今日の敗戦でいささか危機にあるのだろう。もしくは王太女が後見しているからこそ何らかの成果が必要なだけ。
どちらでもいい。ここは崩せるはずだ。
もしも攻めきれねば撤退、増援到着次第で立て直す。
だが行けるのであれば……。
「マッセマーはどう動くでしょうか?」
「アレクサンダー軍が実質的に右翼の指揮をするのだろう。あくまで護衛隊。逆にするなり前に配置すれば抜かれる可能性が高いという判断だろう。ブース将軍はスペンサー軍を撃破できたらアレクサンダーよりこちらを一度突け、強力であれば緩やかに後退せよ、だが横の連携は崩さずに」
「はっ!」
「クラーク将軍はバルカレスを数で押し切ってほしいが……レズリー、アルベマーが激しい迎撃をするだろう少なくとも敗退しなければ良い」
「はっ!」
「よし、早朝より攻める。明日は長いぞ」
ドゥエイン「(何と言う覚悟だ)」
エリー「(蛮族いて負けるなら前提条件で負けてるし仕方ないですわね)」




