エリーの反応
ほぼ同時刻、ロバツ軍本陣と王太女軍本陣で敵部隊発見の報告が伝えられる。
「なんでこんなところにいますの!」
「なんでこんな場所にいるんだ!」
奇しくも2人は同じ反応だった。
「イルモー侯爵領で防衛をするはずではありませんの!」
「これが現実っす」
「よくあることだ」
なぜ前進を?しかもこんなどうでも良さそうな場所で?
「ここ、相手から見てどうですの?」
「ベジャハンか?…………いや、別に要所でもないな」
「んー……別に抑えるほどでもないかな~」
「ロンドニを狙うなら……ありだけど……少し遠すぎる」
「シャーリー?商人的な、商業的な視点ではどうですの?」
「あらへんわ、こんな場所。主要街道でもないしな」
まったくわかりませんわね。
「他国の動向を探るため人手を割きすぎて後手に回ったっす。国王・エセル軍の動向はレズリーの諜報が万全でも近づけない偵察と防衛で大まかな動きしか把握できなかったっす。かといってここに来る理由が見えないっすね。たしかにまっすぐ移動すれば範囲内に入るっすけど……重要拠点類への進軍を予想していたので外していたっす」
「でしょうね、報告を聞いてもここに来るとは欠片も思いませんわ」
「ある意味ではそうせざるをえなかったとかか?(小声)」
「それもわかりませんわね。ローズ?一応聞いておきますけど……」
「お答えできることは私の知識ではないですね……」
イルモー侯爵領から移動してきたにしては早すぎる?目撃された部隊と別?
いや、先遣隊?そういえば目撃数が少なかった……。
1万程度の軍?
「ベジャハンの西部で偵察兵と鉢合わせたのですのよね?」
「ロバツ王軍直属っすね」
「ほう、では間違いないか」
「では1万程度でしょう、こちらも偵察を出して……いっそ各個撃破をしてしまうのもいいですわ。ロンドニ強襲を匂わせて兵を割かせる予定だったのかもしれませんわね」
「再度出してる最中っす」
「なるほど、王太女殿下はさすがです」
「あらあら、ドゥエイン君。後手に回り続けてるから容易に狂うこともありえますわ。もう狂っているんですけどね。まぁサミュエル街道にかかってはいないはず」
「かかってはいないっすね。連絡途絶もないっす」
「主要街道にはすべて網にかからず、大軍をわざわざ裏道を使う理由もどうか?」
「それこそ主要街道の網にかからないようにでは?(小声)」
「可能な限り察知させたくない理由か」
「奇襲だからそうだけどさー……目的は何なわけ?」
目的……。
奇襲……バカ王子との密約を利用してサミュエル王国を滅ぼす?だとしたら主要街道から王都直撃をしたほうがいいでしょうしね。
やはり国境貴族の切り取り、勝てそうなら王国軍を撃破。ワタクシが動いたら撤退とかそういうところでしょうか?
「北部蛮族国境線を突破して一気に南下してるっすね」
「ではライヒベルク公爵家を倒して……というわけではないでしょう。そのまま西進すればいいんですから」
「公爵家の油断を誘うためではないのか?」
「あーありえるね」
「王国が負ける分には……見てるだけでしょうし……ね……?」
「ああ、ワタクシを潰すために国に同士が手を結ぶというわけもありますの?それはそれは……貴族冥利に尽きますわね」
これ打倒したら歴史に名を残せたのではないかしら?流石に犠牲が多いですし許容範囲外ですわねぇ。
でも悪政国家を滅ぼしたって喧伝すればマシになるかしら?
うーん……?
「仮に王太女になっていなかったらどうしたっすか?」
「撃破して王太女推薦を確定させますわ」
「そもそも王太子選定会議に名乗りあげるって話は規定じゃないじゃないっすか。ロバツも知らないっすよ」
「ああ、そういうことですの。まぁ規定なら独立する予定でしたしね」
「エリーが王太女になること多分知らないもんねー」
「…………バカ王子が王太子になる可能性はない……ここでロバツが攻めて八百長でまとめたとしても……うーん……?」
まぁそもそもなぜこんな場所に布陣する必要があるかはまったくわからない。
当初の作戦がなにかわからない、南下は既定路線。
つまり公爵家を攻撃はしない、現状では。
どこでワタクシの王太女就任と出兵を知ったかで変わる。
どこでしょうね、グリンド侯爵軍撃破くらい?だとしても……。
なぜここに?
「えっ?…………ベジャハン東部に国王旗・エセル王女旗、ブース、クラーク将軍の旗があるとのことです。およそ8万」
「兵は予想どおりですわね、ハーン将軍旗は?」
「見えないとのことっすね」
「うんうん……で?なんでそこにいますの?」
「…………さぁ?」
何の作戦ですの?
「もしかして動き読まれてましたの?」
「だとしたら相手が上手っすよ、急遽決めたんで……」
「考えてみれば……我々のベジャハン以外の集合地点は限られるな。数を考えればだが」
「ワタクシの公爵軍が多いですからね。現状8万程度ではわざわざこんな場所を選びはしませんけど……」
「公爵家の軍の移動を考えたら攻撃されるかも知れないのに……いや、王太女になるとわからなければ静観すると考えて?グリンド侯爵がそのまま寝返ったら南下は継続していたはず。ベジャハン集合は既定路線だったのか?」
「……本来は王国軍が出ると考えていたはずですわよね?」
「王国軍が、そもそも母上がそんな用兵をするとは思えん。普通に大軍を擁して街道を進むはずだ」
でしょうね。
エリー「なんでこんなところにいるんですの?」
全員「知らん」




