狂い続ける計算
「それで?国境貴族の兵は?」
「国境14家、合わせて8000です」
少ない、予想よりも遥かに少ない。
「なぜそうも少ないのか?」
「寝返っておりましたからね、国境の備えを捨てていたのでしょう。我々は約定は守りますからな」
「宣戦布告すら守らん相手をよくもまぁ信頼したものだ」
私の自虐に笑うものはいなかった。
さもありなん、敵にすべての動きを読まれた挙げ句このざまだ。
敵は王国軍含めて10万以上はいるというのに。
王国軍が10万、しかし全てをぶつけはしないだろう。だが15万の総兵力がわかれば全力もあるな。公爵家が動かせるのが3万か、いや5万はあるな。それ以上は蛮族のこともありいくら読んでいても動かせない。ともすれば3万も難しいかもしれんがこれを読んでいるなら最低3万は動かすだろう。
つまり後方のハーンの部隊に気がつくのが遅ければ遅いほど勝つチャンスが有るということだ。それも読まれていたら終わりだがな。
「合流し、前進させよ。まとめておいておけ」
「抜かれたらどうしますか?」
「それこそ後ろのハーンがなんとかするさ。ハーンの盾にしておけばいい」
サンドイッチにしてやれば再度寝返ろうが何しようが構うまい、仮に土壇場で王国のために戦ったと寝返ったとしてもグリンド侯爵を見捨てたのだ。
今後はずっとやりづらかろう。
「アルベマー伯爵家が領軍を動かしているとの情報が入っております、あくまで噂ですが」
「となるとライヒベルク派閥に加えて王国軍か。20万はいるか?」
「そうですね、派閥を結集すれば30万は行くかも知れませんが」
「…………動員と集結は間に合わないな。そこまでの速度は出せないだろう、ベシャハンで合流後に各個撃破に移ったほうがいいかもしれん。ベジャハンに拠点を構築し各方面に出る。王都の守りが堅い以上は突けないからな。かといって王都を空には出来まい、信用できないものがさぞかし多かろうよ。派閥総結集と言っても信用できるのはさてどれくらいかな?おそらくだが我々と同数、もしくは少し上だろう。だがな、連携は取れてはいない、たしかに我々もハーンが率いる臨時徴兵軍7万や寝返った14家の8000がいるが我々主力8万の連携は問題がない。それに比べてどうだ?王国軍に公爵家、連携さえ突けばいくらでも崩せるではないか。王国軍も練度に差がある、公爵派閥の弱兵を崩していく。周辺で動いてる軍がいれば積極的に突けば良いのだ」
そう甘くはないかもしれんが、関係の深い家はともかくそれ以外と足並みを揃えるのは不可能に近い。
王国軍もすべて思い通りに動かせるかはわからんしな、軍内でバカ王子への不支持があってもエリーゼへの支持を意味せんさ。
間違いなく先人で使い潰されるのは反対は、それを突けば勝機はあるぞ……。
王国軍が崩れれば同様は広がる、その隙を各将軍で突けばいい。罠か見極めるために寝返った連中を使ってもいいからな。
「緊急事態です。カルグー男爵らが処刑されたとのこと」
「…………何問題ない、カルグー男爵軍に伝えよ、嫡男を後継とロバツ国王エセルが認めると。他の処刑された家にも伝えておけ」
もう寝返りを掴んだのか?それとも即座に処刑したのか?全く手のものが全滅するとこれだからな。
かといって今送り込めるとは全く思えん。
敵の動きもまだ読めないし溜まったものではないな。
「皆さま!私が王太女に就任したエリーゼ・ライヒベルクです!本来であればここで王太子の儀を行い、始めてその地位につくことができるのです!ですが国家の危機にそのような悠長なことは出来ません!卑劣なる侵略国家であるロバツが宣戦布告もなく攻めてきたのです!私達はこのような卑劣な侵略者に対して鉄槌を下さねばならぬのです!」
歓声に包まれるのはとっても気持ちがいいですわ!
「そして憎き仇敵オーランデルク!彼の国はロバツよりもさらに卑劣に、たかだか公国のくせに王国を名乗り、地位を盾に好き勝手してきました。この愚かしき国も此度の侵略に関わっていたことが判明したのです!私にオーランデルクの血は一滴も入っておりません!入っている今の陛下ですら連中に従わないのにのにどうして私があのような国家の戯言に従う理由があるのでしょう!オーランデルクはロバツへ属国になるよう度々要請し、渋れば王の義祖父であると盾にし続けたのです。その愚王の死後も変わらずオーランデルクは遠い縁を理由にサミュエル王国へ命令を下している!許せますか!?」
許せないの声を聞き勝利を悟る。これこれ、これですわ!
「我々はロバツの属国にならない!ロバツの属国であるオーランデルク公国の下につかない!我々は戦うでしょう!山で、川で、丘陵で、平野で、国土で、敵地で!侵略者を追い返しても勝利は得られない!」
そう、それでは終わらない。
「侵略者を滅ぼして始めて勝利を得て、安全を手にするのです!我々はこの侵略国家を完膚なきまでに蹴散らし、地図から消してみせましょう!この戦争は長引くかも知れませんが必ず勝利し!ここで正式な王太子の儀を上げましょう!もう一度この場で皆様に私の晴れ舞台を見ていただきたい!」
まぁ8万程度の敵兵なんて楽勝ですわ。国境領土を接収して直轄地にしてオーランデルクを滅ぼしてロバツと2回戦でいいでしょう。
あくまで懲罰戦争、滅ぼすには手順がもう一つ必要ですからね。
お母様この情勢ではロバツ行きませんわね……。
まぁ勝ってからでもいいですわ。
エセル「強い敵に勝ちが見えてきた」
エリー「数でも質でも勝ってるなら楽勝ですわね!」




