町娘エリーですわー
逆賊、疑惑の死?
先日行われた、虚言を使い権利のない超法規的措置を悪用した逆賊ノーマン(元モンタギュー子爵家子息)が処刑された。これほどの大罪であれば公開処刑であるとの見込みであったが蓋を開けてみれば特設刑場で立会のない処刑であった。一方で公開処刑されたのはワシントン・タボット子爵というケチな横領犯であり、借金踏み倒しを含め最後には商会で活躍してる平民を騙し財産をかすめ取ろうとしたことを察知され捉えられるというダメ貴族の最後を表したようである。これだけであればなんの問題もない出来事であったが、国家的事件に対してノーマン裁判には王族の参加はなく処刑に関しても立会をしていないのだ。一方、タボット子爵の裁判では第2王子が熱弁を振るい彼の死刑を訴えた。その念の入り用は裁判開始と同時に王都広場の公開処刑場の台で仁王立ちして彼を待つほどであり、裁判長は急遽公開死刑にしたようで手際も非常に悪かった。王族の圧力によって殺されたのではないかと思うほど罪過に合わない罪である。通常この程度で公開処刑になることはなく、第2王子が立ち会うようなこともない。どちらも単独審であり表に出せない罪が合ったのではないかと市井で騒がれている。
だが、市井では他にも噂が流れておりノーマンが生きているのではないかという噂である。処刑を見たものはおらず、貴族籍を抜かれたため遺体を確認したものもいない。父のイアン・モンタギュー司法大臣も遺体引き取りを拒み、刑場係官が遺体を焼却処分したという大罪人としては当然の扱いである。タボット子爵は腹裂きの刑の後で首を落とされ、梟首されている。どちらが逆賊側から解らないほどであり、王族がタボット子爵に注目を浴びさせノーマンを生かして逃がしたのではないかと囁かれている。そもそも事の始まりは司法大臣室への不法侵入であり、超法規的措置の証拠としてノーマンから名前を呼ばれた官僚たちは証言前に全員急死しており、当初の公開裁判はその発言以降は貴族以外傍聴不可となりノーマンは常に猿ぐつわをされ、彼の特設刑場送りも傍聴していた官僚遺族からの聞き取りである。この件に関してそもそもの被害者側のライヒベルク公爵は不気味なほど沈黙を続けており、超法規的措置は実在したがノーマンのミスにより宰相たちが公爵との対決を避けて揉み消したのではないかとの疑惑が……。
「思った以上の炎上ですわね……」
それにしてもノーマン生存説が出るとは流石に思いませんでしたわー。ただ単に猿ぐつわ外さなくて公開処刑すると疑われるし、外したら無罪主張や……平民たちは詳しくないから超法規的措置が有効だった可能性を考えたり、第2王子が司法大臣室の書類持ち出し時に立ち会ったことを漏らすからでしょうけど。
平民側がたとえ第2王子が命令しても超法規的措置が無効だということを知らなければ公爵家と王家が完全戦争状態になったと思うでしょうし……現に思ってる可能性はありますわね、記事の感じだと。
宰相と公爵の対立というよりは……超法規的措置の証拠と曖昧な書き方をしてるのは現場に王子がいたことを書いたら危険だと思ってる証拠ですわね。
実際どうなのかしら?平民の間ではきな臭い感じなのかしらね?この感じだと貴族からも大分疑惑がありますわね、記事で出せてるということは支持してる貴族がいるということですわー!
第2王子を見て本当にノーマンが生きてると思ってる可能性があるのは気が重いですわね、アレにそんな情があると思ってることが一番同情しますわ。最後には第2王子を説得できるとか思ってるってことですし。
「モリー?支度して頂戴、平民の服を」
噂の収集は自らするに限りますわ、公爵領でも昔から逃げてきた蛮族相手にやってましたしね。
かわいい、かわいい!町娘エリーちゃんですわ!メイド長のモリーもわざわざ苦言を呈したりしませんわ、さすがですわね!
「こんにちわーサンドイッチくださーい」
「いらっしゃい、あんまり見ない娘だね?どれにする?」
「遠出できたの、サラミがいいなぁ~」
「サラミは……あと一つあるね」
「やったぁー!じゃあそれで!」
あら、なかなかいけますわね……今後はこっそり買いに行きましょう。
マッセマー商会へ行くときとか。
本来なら王都に着いたら町娘エリーを生み出す予定だったんですけどララのことや北方組合とかで生み出しそこねましたわね……。
今後のこともあるから別の地区から来たことにしましたけど、王都外から来たと思われたかしら?まぁ訂正せずともよろしいでしょう。
本来なら学院に通う平民かその関係者のふりをしてシャーリーの店で働く予定でしたのに……それどころではありませんわ!
まぁいいか悪いかは判断を委ねますけど……良い方には動いてますわね。サラミでこれだけ美味しいのなら普通のBLTもいただこうかしら。
「おしいしいです!BLTはありますか!」
「おっ、うれしいねぇ!あるよ」
「じゃそれで!」
ここは要チェックですわ、今度の茶会はここのを使うべきかもしれませんわ!
軽食茶会は……宰相が勝手に今回の陰謀の大筋書いたことにされてそうですわね、まだキャスは難しいかしら?材料の差?何かしらこの違い……。ベーコンの仕込み?
「ごちそうさま!最近王都が騒がしいからちょっとだけいつもと違う感じの場所に来たけど正解だったよ~」
「ああ、王様と公爵様が対立してるとかいうアレかい?」
「そうそう、宰相が超法規的……なんとかで追い落とそうとした話」
「失敗して王様に迷惑かけるなんて宰相もとんでもないやつだな、公爵様も王様相手でも流石にこれは折れないだろうなぁ、なんでも原因になったノーマンを逃がしたのも宰相だとか」
宰相とばっちりですわね、でもそういう考えなのかしら?あとは喫茶店にでも言って会話に耳を澄ませばいいですわね。
町中の仕事で噂に詳しいパン屋さんの結論はこれでいいとして考えましょう。
にしてお父様がまるで王様に対して敬意を払ってるみたいで面白いですわね。
もう愛想も尽きてそうですけど、尽きてるでしょうね。
ワタクシも疾うの昔に尽きてますし。
でもノーマンを逃がしたのは宰相という噂は使えそうですわね、吹き込んでみましょうか?
幽閉されてどうやってと言われるかもしれないですけど失敗パターンでそれくらいの策は練ってるでしょう?それにいまだに失脚もしてないところを見るに何か合ったのは間違いありませんわ。
この辺はキャスに聞きたいですわねぇ……キャスを害したら私がどう動くかくらいの頭はあることを期待したいですわ。
「こんにちわー、おすすめのブレンド」
「いらっしゃーい、ランチセットあるよ?」
「じゃランチセット付きで」
「今日はビーフシチューとクリームシチューだけどどっちにする?」
「もちろんビーフ!」
ラッキーですわね、ランチセットでお得に食べられますわ。
やはり頭脳能動はお腹が減りますわ。
サンドイッチ2つでお腹いっぱいになるなんて妖精くらいなもんですわ、人間食えなくなった時が終わりですわ。耳でもすませてコーヒーを待ちましょう。
「噂じゃノーマンは宰相が隠してるらしい、宰相は国賊だ」
「王族が公爵家を廃するための陰謀らしい」
「公爵令嬢に横恋慕したノーマンがでっち上げた陰謀らしい」
「公爵家が王族を廃するための陰謀に全てかかったに過ぎない」
「公爵家に宰相が陰謀をしかけて国家を混乱させている、2度も同じ手を使って」
「王子は平民を侍らせ街を歩いていることが多い、それぞれが簒奪を始めようとしてるのではないか?」
「何でも処刑された子爵は王子の女に手に出して殺されたのが真実らしい、王子の女は宰相があてがった美人局だ」
「王子が公開処刑を主導した理由は子爵が公爵家の手先だったからだ、宰相はこれを見て見ぬふりをするため手打ちにした」
まぁこんなところみたいですわね。あんなもの手先にされたと思われてるのは嫌ですけど、子爵の公開処刑自体に疑問を感じてるみたいですわね。
にしても宰相のイメージが悪いですわね、まぁ最近は失策も多いですし。
あら?シャーリーですわ。
「ビーフシチューおいしい~」
「…………エリー?」
「はい?」
「いや、ええわ……間違えた、すまんな。疲れてるのかもしれん……」
シャーリーもここ行きつけなのかしら?間違えてませんわー!
まぁ他にエリーの知り合いがいるかも知れないですし、相席すればいいのに窓側に行ってしまいましたわね。一人になりたい時がありますものね。
それにしてもこの噂はシャーリーが主導してるのかしら?でも何か話してるわけではないですわね。ワタクシと同じように情報収集かしら?
「宰相は玉座をもって胸壁となし、その地位を持って槍としている」
やってるのは第2王子ですけどね。宰相に押し付けるための王家の世論操作?
いいえ、そんな上等な頭を持ってるならもう少しうまくやれてるでしょう。
第1王子に大半の仕事を割り振って王宮改革や行政にメスを入れた後で事故死で仕事を戻されて1年経ってもなれずにもたつくようなやつでは無理ですわね。
ということは国民自体も王の能力には期待してない可能性がありますわね。
聞いていても王がなんとかしてくれる、みたいな話は出ませんし……。
それにしても第1王子が認可して正式に設立された新聞社制度が王家や宰相を失墜させる力になるとは……。
ワタクシ達で言い出した甲斐がありましたわー!
さて……王家はこの民意にどう対応するかですわね、お父様と手打ちにしたうえでどう出るか……とっても楽しみですわー!
町人の噂「本当はノーマンは女性で公爵に振り向いてもらうためにこんな事をしたんだ」
ベス「(ネタにしよ)」
エリー「なんかどことなくこのヒロインはお父さまに似てますわね、この公爵の人」
ベス「実際に公爵は一人しかいないからじゃない?」
エリー「これが実際でバレたらお母様に殺されるでしょうね」
他国で好き勝手やってる公爵夫人「これは……ゲハルト?男装女子の告白に答えて抱いた……?まさかレズリー家のクラウディアを……?」
公爵「なんかすごい寒気がする、死にそう」
部下「ほぼ全大臣の仕事を回してるから疲れてるのでは?」




