フォルカー・パウエル子爵
フォ先生と、もといフォルカー・パウエル子爵とバルコニーへ向かう。
一応レズリー伯爵家の連絡役に案内されてはいるが場所自体は知っているのだ。
私は作品にリアリティを求める関係上、王宮の地図は把握してるし、教えてもらっている。パウエル子爵もそうだがアンドニー・パウエル子爵夫人、アンドンキャス先生からも……クラウからも聞いている。
「能力もなく、心が弱い王など国家において不要なのですよ」
「理解はします……」
「納得はしていただけませんか?」
「うっかり……優秀な王子が生まれれば……つなぎの役にはたつでしょう……。それがなんにせよ……なんであるにせよ……飲み込む程度の度量があれば……」
「心が弱くとも責任感程度あればよいですか」
「その程度を持っているのであれば……後は精神に問題があろうと……昏睡生活を送ろうと……どうでもいい……と思います……」
「私より手厳しいですな……。さすがは先生。愛で壊れた人間を養護……もとい擁護する側だと思いました」
「幕間劇は幕間劇であればいい……。時に幕間劇が……見に来た劇より良くなることもあるでしょう……。大半は内容すら思い出せない……時にお化粧直しまで引っ張ることができればそれでいい……。すべてが幕間劇になるようであれば……演劇を変えるのも手です」
「優秀な脚本家ならこちらにいらっしゃいます」
「原案はできます……。それはできます……ですが……演劇脚本家としてはエリーのほうが優秀です……。どうすれば映えるかは……演出家と役者の仕事です……」
「ふぅむ、確かに公爵家の……もとい公爵令嬢の劇は素晴らしいものでした。演出家としては一流でしょう。原案あってのものだとは私は言わせていただきますよ」
「どの劇をご覧に……?」
「『黄金の夜明け』を2度。主演のアジテーターが良い演技でしたね。『銀のハンマー』は殺人鬼が素晴らしかった。大本は先生の原案でしょう?」
「確かに……どちらもモデルがエリーで……アイディアも一部は……拝借した……。印税を渡すと……私が誰かバレるので……脚本化を無料で許した……」
「隠しになられているのですね」
「知っている人は知っているけど……そこのレズリー家のクラウとか……。共作で書くことが増えそうだというのと……去年のことがなければ……王太子妃の私的な祝で……公表する予定だったので……それから忙しく……ずるずると……」
「おお、そうでしたか。私の作品も劇化してほしいものです。特に主演のアジテーターをやっていた方に、私的に劇場を抑えて頼めるでしょうかね?流石に公爵家お抱えですか?」
「あれはエリーだから……原案が気に入ればやると思う……」
「えぇ……?」
まぁ、そういう反応になるよなのお手本だった。
フォ先生が私の新作を出す以外でこんな反応をすることはあるまい。
「運営は当然としてたまに舞台に立つとは聞きましたが……?主演……?」
「たまに……?公爵領でも……仕事の合間に……街劇にすら出ていた……」
「平民の女優でもあまりやらない手法ですね」
「パンと見世物は宣撫の鉄則……らしいですよ……。領民の堕落化にならない辺りは……公爵代行としての手腕の賜物……でしょう……。仕事をやった後は暇になるので……結局暇で劇に出るのです……時にものごい……時に処刑される王女……時に町娘……」
「公爵令嬢の役とは思えませんな」
「実際にやるわけには行かないでしょう……?」
「…………たしかに!その時は王国は滅んで……滅ぶ程度なら良いですな……」
「だからエリーが動いてるのですよ……」
「なるほど、女優は魅せることをご存知だ。そこで腕を磨いたのでしょう。成り上がり物のような、いやもう最初っから地位がある場合は何でしょうな?」
少なくとも初めてあった頃から女優のようだったけど。
5歳で流石に舞台に立ち続けたとも思えない、流石に天性のものだろう。
皮肉なことに演劇の才能があったから公爵令嬢の演技ができるのかも知れない。
いや……あれ公爵令嬢か?
まぁいいか、少なくとも為政者の能力があれば何であろうと中立層は構わないだろう。
民意を獲得さえすればそれを背景にやりたい放題できるとはいい手だとは思った。
民意が暴走したときこそ厄介だとは思うが……。
「さて……少なくとも王位に手をかけた時点で……成り上がりものでもよいのでは……?」
「貴種流離譚になるでしょうか?」
「北方で蛮族と戦っている……王家から嫌われている……これで十分だと思いますよ……?王都民も……王家よりは……ライヒベルク公爵家に好意を持ち……支持しているので……」
「確かに北方で蛮族と戦うのは苦難ですね、苦難というか……もう天罰なのでは?まぁそれを放置した王家が負けるのは当然ですな。異民族に滅ぼされる国家などそれほど腐るほどある。蛮族の起こした国が蛮族に飲み込まれたり、蛮族のくせに蛮族と手を切ったり、いやはや蛮族のクセに蛮族を否定して栄光と名誉と偉大な血筋を喧伝するなど恥を知るべきですな。おっと、勘違いしてはいけません。貴族など所詮は盗賊上がりみたいなものですからな。歴史が貴族を作るのです、私は決して差別主義者ではありませんよ、新興貴族は振興貴族の、古い貴族には古い貴族の、蛮族国家には蛮族国家としての歩みと歴史があります。その歩みと紡いだ歴史を足蹴にするようであれば先祖が神であろうと蛮族であろうと価値はありません。血統の誇りもそれによる交渉の価値も消えるでしょう。蛮族の立てた国だから蛮族の血筋と誇りを持って接してくるほどの心構えもない国など蛮族以下ですからな」
この思想を持っているのなら第1王子が死ななければ安泰であっただろう。
アーデルハイドにもエリーにも近い。
先代の御代に派閥調整役をやっていただけはある。
ゲーム版
パウエル子爵「あー暇だな……覚悟も何も無い平民と婚姻結ぶクソバカ第2王子そろそろ殺すか」
フリードリヒ王太子「ちょっと待って……」
アーデルハイド王太子妃「エリーの邪魔しないでもらえる?もう1年位で北は終わるから」
パウエル子爵「1年ですか、では話が分かる貴族に話を通しても?」
アーデルハイド王太子妃「息子のほうがわからない家には通さないこと、どうせ書類を持ち出すか聞き耳を立てるでしょう」
パウエル子爵「ほぅ、では徹底的にやると考えても?」
アーデルハイド王太子妃「戦争、これでいい?」
パウエル子爵「……本当ですか王太子殿下?」
フリードリヒ王太子「あの茶番で何もやり返さないと思っているのなら子爵はエリーを可憐なお嬢様だと思いすぎている」
パウエル子爵「一度も思ったことはありませんが?」
フリードリヒ王太子「蛮族が来るぞ?」
パウエル子爵「身売りですか?」
アーデルハイド王太子妃「蛮族を征服してくるのよ」
パウエル子爵「…………ブロンテ先生の最新作が楽しみですね」
アーデルハイド王太子妃「ええ、1年後には発売初日に読めるようになると良いわね」




