王国図書愛好家協会への連絡
「失礼いたします、エリーゼ様が王城広場に集まっていただきたいとのことです。いつものメンバーは王城バルコニーへと……」
「うん……わかった……そう伝えていただけますか……?」
「はっ!」
脚本を書き換えたか。まぁ時事小説にはライブ感が大事だというからな。
元も悪くはなかったが……まぁそちらのほうが良いのであればそれでいいだろう。自分の人生は自分で書ける人間などそうはいないのだから、賭けるのであればおもしろおかしく書けば良い。
人生を小説にするというのは私はその作家が好きでも良いものになるかは難しいと思う。
私小説なんてものはその作者の作品が好きな人からもいまいちなものが多い、だが過激なファンほどこの私小説の素晴らしさがわからないなって本当にファンなのだろうかと本来の小説すら楽しめない声すら出てくる。
私小説なんて結局はその人の考えが合わねば面白くもなんともない、哲学や思想の本と同じだ。よほど波乱万丈な人生でも送らない限りはさほど面白くない作品ができあがるであろう。
偉大であれば伝記になり、面白ければエッセイになり、つまらなければ私小説になるという評価はあるいは間違ってはいないのかもしれない。
私が掛けばエッセイには仕上がるかも知れないし、キャスやジーナが書けば回顧録、シャーリーが書けば伝記、アンが書けば……ポエム?マーグは……わからない。
私小説になりそうなのは案外エリーか……クラウ?クラウの場合はかけないことが多いからそもそも書かないだろうけど。
なんにせよ、私小説なんてそれなりに有名な作家として後世に名が残れば後世の文化か作家の研究の礎程度にしか役に立たないのだ。
時代が変われば考えも変わるから全く理解しがたい異物の発想をもって理解しがたい奇人変人であったと評価されて終わるだけかもしれない。
まぁ、後世の個人としての評判なんてどうでもいいんだけど。
作品が100年以上残ったら勝ちだとは思う、それ以上言ったら大したもの。
ベストセラーだって10年読まれるかは怪しいのだから。
エリーは人生を演劇に仕立てるタイプでもあるからそのほうが面白いからバルコニーに変えたのだろう、演劇の脚本は元の本よりも見栄え良くしたりするものだ。
劇と違って制限の多い現実ほど劇的な表現は効くのだ。
文はともかく演劇の演出までは私の手には負えない。できる人間に任せればいい。
エリーはプロデューサーで演出家で脚本家だ。
そのほうが人々に刺さるし面白くなるし利益にもなるのならそうする。ならまかせるだけだ。
「これは新しい作品のインスピレーションが湧きますわね、ブロンテ先生」
「そうだと良いと思います……アンドンキャス先生……。エリーは……人に魅せるということは上手いので……」
「それを作品に行かせないのであれば作家の腕が悪いということですね、これは頑張らないといけませんわね。バルコニーに立つブロンテ先生の姿を見れば王国図書愛好家協会の未来の発展を見て皆喜ぶでしょう」
期待が重いですね、私は多分立っているだけ。
ショーウィンドウのマネキンみたいなもの、見る人々の大半は家柄と血縁の価値以外はどうでもいいでしょう。
だからこそそれ以外に価値を置いている人間のためには頑張ってみよう程度には思うのだけれど。
「公爵令嬢は見栄えには何を重視するのでしょう?」
「今後の……時期体制のお披露目……?もしくは……有力者が公爵派閥に参加したお披露目……」
「なるほど、劇的であれば良いわけですね?」
まぁ実際劇的な感じでやりそうなものだが。
最後にカーテンコールのごとく紹介でもするのかも知れない。誰もが高位貴族の顔を知っているわけではないからな。
その場合私も喋らなきゃダメなのかな?ジーナはまだ声を出せるけど……。
「では、夫はどうでしょう?」
「フォ先生……?」
「一応国王相談役という役職だけは豪華な看板を持っていますわ」
「お呼びですか?アンドンキャス先生、ブロンテ先生」
「フォ先生は……」
「もちろんブロンテ先生につきますよ、偉大な作家、文学を発展させるであろう創造性の……」
「ブロンテ先生に付くのでライヒベルク公爵令嬢につくとのことです」
「……そうです」
まぁ、心が離れているとはわかってはいたけど。
内情を話してくれるし、それは王家にとって著しく不利益な話も多かった。それでも……。
「私は友人の相談役は務めていましたが、相談役の肩書だけのバカ息子に付く気はないのですよ。バカ孫もね。助言一つ聞き入れないし却下の理由も私的な理由ばかりでダメだと思いました」
「それは……」
「あれは病気でしょうね、心の」
まぁ親が暗殺されれば少しは狂うかもう知れないけど……。
「弟が自分の妻と寝ていて子供が自分の子供がないだけでああなるなら王位には向いていない。そもそも妻に愛想を尽かされる方が悪い」
「王妃殿下のこと……深くご存知なのですか……?」
「あの娘は尻軽でも売女でも淫売でもありませんよ…………。だからこそ……いや、詮無きことです。結局……ハーバー……先代国王陛下と我々の失敗です。巡り巡ってこうなった。お話のような因果応報ですよ」
「それは……」
「あなた……王妃殿下は……」
「いや、湿っぽい話をしましたね。私が必要であればバルコニーの舞台でも王城の広場でもどこでも向かいましょう」
おそらくそれなりに亡き王妃殿下の人柄を知ってはいるのだろうが、彼女の人となりを彼から聞いたのはこれが初めてだったと思う。
聞こうと思っても話したがらないのなら聞かないほうが良い、私は記者ではなく作家だ。
ネタ元には気持ちよく話してもらうのが仕事だからな。
フォルカー・パウエル子爵「沈む船だとわかって乗っていると面白いものが色々見れる。絶対に沈まないと確信を持っている愚かな人々が船に穴を開け始めたり船幽霊に柄杓を投げ始めるのだ。私は沈む前に溺死している乗客を嘲笑っている未来に溺死する人間を眺めながら、船の上で救命船に乗り母船が沈み、その手で切り離すのを待っているのだ」




