あつまれバルコニー!
「さーてと、ほなボチボチいくで。皆様方お手数取らせてえろうすんません」
そういうシャーリーをローレンス商会長が見つめる。
言語を正せということだろう。
仕方ない……。
「皆様、この度は王太子選定会議の推薦人への参加ありがとうございます」
注目を集めてとりあえず無難なことでも言おうかと考える。
もうすべて終わっている。
「此度の王家の借金は……」
「失礼いたします、エリーゼ様が王城広場に集まっていただきたいとのことです。いつものメンバーは王城バルコニーへ。宰相閣下、アレクシア・ルーデンドルフ侯爵令嬢、ロゼリー・ゲルラッハ伯爵令嬢、エロイーズ・シュテッチ子爵令嬢、ローズ・マルバッハ男爵令嬢もぜひとのこと」
レズリー伯爵家のものだな。
「宰相閣下以外はここにはおらんで」
「これは失礼をいたしました」
ふーん、なるほど……。
あれ?何か違うな?エリーが土壇場でなんか変えたか?会議中に集まる予定ではなかったか?俺は会議参加中だから出られないが……。
レズリー伯爵家のものも振り回されて可哀想に。
「全員サインはいたしましたね?では皆さまを王城広場へご案内を……」
「面白そうじゃない、私はお呼びではない?」
リューネブルク女侯爵がいつものかったるいという表情を変えて爛々としたように尋ねてきた。
さて、どうするか?必要ではある。俺達の親はわざわざバルコニーに立たせなくてもいいだろう。
まさかケチな婚約破棄物語のように親が唖然として粛々と処分に走るということはないのだから。
だとしたら爵位簒奪か、なかなか面白そうだがな。
リューネブルク女侯爵の影響力は高い、そもそも……。
「王太子の儀は即時に?」
この手の責任者でもあるのだ。さてバルコニーに立たせるべきか、それとも……。
…………俺の一存でもいいだろう。
「そうですね、今後のことも考えると一緒に立っていただいたほうが良いでしょう。エリーもこの時間に居られるとは思っていなかったでしょうし」
「たしかに少し早めに来たからね。じゃご一緒にスペンサー司法大臣」
「シャリーたちもいますけどね」
さて、どうなることか。
「エリーゼ様が王城広場に集まっていただきたいとのことです」
「だ、そうだが?」
「じゃーいこっか」
「いつものメンバーはバルコニーにと」
「遠いな」
「遠いねー」
まーいいか。
「じゃ、みんな王城広場へ。空いてんのだけね?」
「はっ!」
「同じく、王城広場へ!」
「はっ!」
「ベスはー?」
「我が家のものが連絡がいっているかと」
「ならいいねー。じゃいこうか」
なんか打ち合わせと違うけどまたなんか変えたのかな?まぁ別にいっか。とりあえず……。
「お嬢、近衛騎士団長とかいう役職は無用か?」
あー、いるんじゃね?エリーも手が空いてるとは思ってないっしょ。
「空いてる?」
「空いてんよ」
「行っか」
「行く」
「じゃ、アン。いくよー」
「あ、うん……」
なんかへんなの。どうしたんだろーねー。
「アン。考え事ー?」
「いやバルコニーか、バルコニーかぁ……王城のバルコニーか……」
あ、これめんどくさいのだ。
自分が王子にでも見初められて未来の王妃みたいなことしてる想像をしようとしてるけど相手があれじゃ想像に乗れないなーとかそんな感じだ。
じゃ、大丈夫だねー。
「じゃ、行こうか」
「ん?ああ」
「おっしゃ行くか」
なんか悪人っぽいよねー。
馬車も使わず学院から貴族令嬢たちが徒党を組み王城へ向かう道すがら。
周りの平民たちも何事であろうかとこちらを注視している。
なるほどこれが宣伝効果というものか、明日の新聞を気にすること請け合いだ。
情報は知るまでのもどかしさ、そして自分が見たものが説明されないもどかしさが好奇心と知識欲になり大したことのないものでも聞きたくなる。
一昔前ならこの好機と懐疑と不安の視線を煩わしいの一言で切り捨てたのであろうが、今であればエリーやアーデルハイドが新聞社の設立と全社を支配下に置いたうえで運営する利点もよく分かる。
民意を操作することで貴族の地位だけで解決できないことを解決させるなど貴族の発想とは思えない。
エリーにとっては私達も舞台女優に過ぎないのかも知れない。
アレクシアやロゼリーを後ろに控えて歩く私がまるで主演女優のようで……。
なるほど、人によってはやめられないのだろう、私は演技力がてんでないのでエリーが脚本を書き換え外国人役をやらされたことを思い出す。
私が貴族として不安視されるわけだ。
もう到着するだろうという時に現れたのはレズリー家のものだった。
何か問題か?
「エリー様からのご指示です。いつもの皆様は王城バルコニーへとのことです」
「確かに、聞きました」
「アレクシア・ルーデンドルフ侯爵令嬢、ロゼリー・ゲルラッハ伯爵令嬢、エロイーズ・シュテッチ子爵令嬢、ローズ・マルバッハ男爵令嬢もぜひにと」
「だ、そうです。ではご一緒に……」
ふと、目に入ったのは立ち位置がわからずとりあえずローズの後ろで梱包し直したセーターを持ってどうしたら良いのかわからなさそうな平民のララがいた。
学院から流れで付いてきたら列の前の方になって今更下がるわけにもいかず虚ろな目で困惑している。
「ララさん、納品に来てくださいますね?」
「え、あっ……はい!」
なんで彼女を呼んだのかは自分でもわからないが、何となくあのセーターが目に焼き付いていた。
そして、私にしては珍しくもこの判断は間違いではないような気がした。
ララ「私はララ!どうしてこんなところにいるかわからないの!」
ララ「そしてめちゃくちゃ眠いの!」




