流石に手強いですわねぇ
「ワタクシができない仕事をあえて命じるとでも?」
これだと命じる気満々みたいですわね。実際やったら信望が失われるから絶対やりたくないんですけど。
やって信望が上がるような評判悪い相手にしかやりませんし、それをやるにはぎりぎり出来ない仕事かつ出来たら評判が悪く嫌ってる相手すら重用せざるを得ない仕事にしますけど。
「まさか、この老骨相手なら隠居せよと命じるだけで一席空くのにそこまでしないでしょう」
リッパー男爵家はそんな殊勝な家ではないでしょうに。
それをやったらワタクシたちの評価がめちゃくちゃ下がるに決まってるじゃないですの。できるものならやってみろという態度ですわねぇ……。
「まさか、リッパー男爵家ほどの家にそんな事はできませんわ。ワタクシ、こう見えて実績と能力のある方の名誉には非常に気を使う方ですのよ。もちろん敵でないのであればですけども。ならばその家自体にも一定の敬意くらいは払うに決まっていますわ。まぁ家より先に個人を見ますけどね」
まぁ王太女になるのに根拠として使うのは血筋と公爵家という家ですけどね。
まさかこんな使い方するとはまったく思いませんでしたけども。計画ってうまくいかないものですしね、仕方ない仕方ない。
「ならば私が実績を示せばリッパー男爵家は残るのですかな?」
「後継がいれば残ると思いますけど……」
潰す理由もないのにどうして潰す必要が?問題起こさなければ断絶はしても取り潰しもないでしょうに。まだなにかありますの?
「爵位の譲渡は許されるのですね?」
「そりゃ……ワタクシの爵位の大半も前の北方組合に関連したバカ貴族共のものですしね。担保にしたから巻き上げただけですし、全く関係ない人物への譲渡は流石に条件はあると思いますわ。ワタクシはあんまり知りませんけどね」
「…………つまりピア・バンサ伯爵に譲ることは可能なのですね?」
「あー……」
当主がジャック・リッパー男爵であるなら問題はないと思いますけど婿養子ですしね。でもわざわざこれに文句をいうほど度胸がある人間いるのかしら?
馬鹿ならいるけどそれは勝手に処理してほしいですわね。
「可能ですわよね?クラウ」
「法的には問題はないんじゃないっ……んですかね?」
「まぁ問題があってもリッパー男爵の『頼み』であればねじ伏せても通しますわよ?」
「お頼みします」
え?あっさり頼むんですの?マジ?
貸し作っても安いもんだと思っているのか、作らせることで安心させたのかどっちでしょうかね。
どっちにしろ厄介この上ないですが……。
まぁいろボケバカ王子が亡き今となっても国が回ってるのですから優秀な人材は多いのでしょうね。
オールマイティーにできる人材がいないだけで。
あ、先代近衛騎士団長は論外ですわ。
あれ使い捨て専用の雑巾みたいなものですわね。使いすぎてぼろぼろになるどころか維持費まで取るようになったた挙げ句拭いても余計に汚れるゴミ。今の近衛騎士団の感じを見ると薄々粛清は察していそうでしたし。まぁ外部要因で起こるとは思ってなかったみたいですけど。
やはりゲドリドル近衛騎士団長は優秀でしたわね。
王宮完全に抑えてますし、アンもマーグもしれっと重要区画を抑えてますわ。
ここまでお膳立てされて失敗したらめちゃくちゃ恥ずかしいですわ。
その場合は武力行使をちらつかせるしかないけどスマートさはないですわね。
物語だったらむしろ映えない、劇ならどうしましょうかね?派手に切り合いがある方が良いかしら?まぁこの状況では切り合いは起こり得ない気もしますが。
さて、しれっと貸しを作らせるあたり残念ながら、非常に残念ながら優秀な方ですわね。飼い殺しも名誉職で持ち上げるのも厳しいですわね。
致し方なしか……。
「ではリッパー男爵家の爵位はその死後バンサ伯爵家に譲渡することをお約束いたしますわ」
「粉骨砕身務めさせていただきます。王太女殿下」
雰囲気が変わった?
なるほど……リッパー家を消したくなかったことよりピアのことを案じていたのですわね。
御三家の2つの家を持って彼女を害そうというものはそうはいないでしょう。いてもどうせ死ぬでしょうし。そもそも勘の良さを考えたら回避されそうですし、事前に察知して報告してきそうですわ。
貴族的ではないが貴族的であるという扱いやすいくて扱いにくくそれでいて一定の能力があり勘だけを見ても信用できる。ぶっちゃけワタクシでも重用しますわ。
クラウのことをしらずに頼るのが勘でも、実は頭が切れたとしても優秀ですからね。
「このことを大々的に公表しますか?」
「ええ、よろしくお頼み申し上げます」
貸しをわざわざ2つも?この短期間で?貸しを大量に作っておく方針の可能性も高まってきましたわね。
「リッパー男爵、ロバツの間諜情報はございますか?」
クラウ?
「泳がせているのが8人、王都7人、離れた場所に統括役職1人。オーランデルク5人は処分予定でしたが」
まぁ少ないですわね。ロバツなら二桁くらい入れてそうですけど、全部処分したのはレズリー家かリッパー家か。
「エリー?良いっすか?」
「え?何が?」
どれですの?
「王太子選定会議の前に部下になったリッパー男爵家の実力を見たいっす。リッパー男爵、会議が始まる前にゴミどもの処分が何人できますか?」
「統括役は不可能ですね、後は1時間もいりません」
えぇ……?
ジャック「ふふふ(妻の家が不名誉でない終わりなら何でも良い)」
エリー「ほほほ(何を引き出そうとしてるのかわからなくて怖い)」
ジャック「くくく(残してもらえりゃ良いな)」
エリー「おほほ(唯一の家族だから優しいのですわね、ポイント高いですわ)」
クラウ「……(なんか齟齬がありそうな気がする)」




