あの色ボケクソバカ恋愛脳ガンギマリバカ王子……
「それだけですか……?」
「ええ、それだけ王権の守護者にして王国の藩屏にして王族の忠実なる信徒である御三家がワタクシを王太女に推薦するのではあれば後は話が早いではないですの。勝てばいいのですわ、でも勝つのであれば圧倒的に。突き詰めて勝つのであれば個々の参加者の家を燃やすなり家族を殺すなり失脚させるなりできますわよ?たしかにワタクシは勝てさえすればいいと思ってますわ。でも今後のことを考えた勝ち方が必要なときは少しは力を入れますし、隙も見せて油断を誘うのも必要ならスカートだって捲って差し上げますわ」
「それを私に言っていいのですか?」
「あなたがワタクシを殺すのならそれでもいいですわ。受けて立ちましょう、ワタクシが勝ったときには命も名誉も家も全て無くしてあることないこと悪名でコーティングして記録して差し上げますわ」
それこそ不義の子のことでも書いてやればいいんですわ。歴史は勝者の落書き帳なんですから。勝者の書いた娯楽小説こそが歴史になるのですわ。
王権神授説を心底信じてる馬鹿な貴族がおりまして?
ご存知でしょう?名門が対した出自じゃないことくらい。
適当な貴族に盗賊上がりでも農民上がりでも言えば大抵真実ですわよ。だから貴族なんて所詮は蛮族と同じなんですわよ。
「それは勘弁願いたいですね。たとえ私で途絶えることが避けられなくても……名誉は守らねばなりません」
ああ、やっぱり……ようやく取り繕っていた仮面を剥がしましたわね?この間と声色は……不貞は事実なんですわね。
リッパー男爵家の名誉を守らねばならないと言わないということは……そういうことでしょう。
「ワタクシは寛大ですわ。名誉くらいは守って差し上げますわ」
「それを守る限りは従いましょう、王太女殿下」
「話が早くて何よりですわね。バカ王子の名誉なんてカスみたいなものですけどいいように扱われても面倒ですからね。バカ王子の殊遇に関しては未来永劫安堵はできませんわよ?」
「ヴィルヘルム?ええ、どうぞお好きに」
え?
……え?
…………え?
………………え?
「あら、良いんですの?」
流石に声が震えるかと思いましたけど流石ワタクシ、見事に取り繕いましたわ。これはまた女優として一つ上の女に立ちましたわね。
うんうん……。
「え?なぜ?」
「え?」
ダメでしたわ、まだ修行が足りませんわ。情報量がないくせに情報の洪水をぶつけてきやがる編んてさすがリッパー男爵家。脳内を疲弊させて殺す方に切り替えましたわね?
「なぜヴィルヘルムを?王位についたらとっとと殺すのでは?」
ドライ……いや、わかりますわよ?ぶっちゃけいらねぇしの精神でゴミ捨て場にシュート一択ですわ。王族の立場でどうせろくなことしないし。
……え?情とかありませんの?あれも孫ですわよね?あれだけ実は違うんですの?
「フリードリヒには思い入れが強いからてっきり、親族だからだと思ってましたわ」
まぁ、一応こちら側についた以上は直接的表現は避けますけど。
わざわざ余計なこと言って殺し合いに発展させる必要ないですしね、仲間にした瞬間虎の尾を踏んだり逆鱗に触れるなんてバカ王子しかやりませんわ。
仲間にしてなくてもするのがバカ王子ですけどね。
「祖父のように慕われるのは良いことですからね。遠くの親戚より、近くの他人と言うでしょう」
「ええ、公爵家も使えぬ親戚よりは功績ある臣下を取り立てていますしね」
祖父のように?いや匂わせではないですわ。もう毒気が完全に落ちきったような風に取り繕いすらなくしれっと言ってるし……失言したという気配もない。
ただたんに事実を開示しただけ?先程のようなひりつく空気もない……。
仕事上がりの一杯は上手いみたいな気楽さであっさり言いましたけど……めちゃくちゃやばいこと言ってますわよ?
あの色ボケバカ……。
|色ボケクソバカ恋愛脳ガンギマリバカ王子も自分の父親が国王ではなくジキルであると知っていましたわね?
あの……あの……あのクソ馬鹿王子!
どっちもバカ王子じゃないですの!王家はバカしかいないんですの!クラウ!どういうことですの!教えて下さいまし!
「…………」
あんなポカンと口開けたクラウ始めて見ましたわ。今日は飴持ってないから口に入れられませんわね。
ま、じゃもう最初っから手に負えませんでしたわ。だからパスですわパス!
いや、なんでリッパー男爵は平然とキサルピナ騎士長すごいですよねーなんて言ってますの?そうでしょう?ワタクシの娘はすごいんですのよ!
そうじゃなくって!え?嘘でしょう?負けたらしれっと寝返るんですの?ここまで?
あれですの?将棋の駒みたいに取られたら絶対言うこと聞く手駒になるシステムですの?王家の洗脳かしら?チェスだったら駒が死んで終わりだと言うのに。
「すごかったですよね、ピアさんと見に行ったんですがもう一撃でしたよ。あれは武の化身ですね」
「そうでしょう、ワタクシの自慢の娘ですわ!」
「娘……?ああ、なるほど」
「ご理解感謝!ですわ!」
やはりこれほどの貴族となると理解力が高くていいですわね。
アーデルハイドなんて意味がわからないみたいなこと言ってましたしね、よく考えたらキャスとかも言ってましたわね。
むしろ友人たちは言ってないほうが少なかったかもしれませんわ。
いやそれはリッパー男爵が優秀な貴族ということだから問題なし、早くこの高みに皆様も登ってきてくださいまし。
ジャック「いつ殺すん?(妻の名誉が落ちないならどうでもいいや。開放された気分)」
エリー・クラウ「……」
ジャック「祖父だと慕ってくれるからフリードリヒは可愛いけどアイツは知らん勝手にしたら?」
エリー・クラウ「(どうにかして……)」




