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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
老人の回顧録、あるいは内側の真実

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老人と消える駒

 情勢はひたすら悪化の一途を辿った。

 公爵家の親族が運営している北部商業組合、通称北方組合が解体された。それと同時に幹部の公爵派貴族、当の参画商会で公爵家親族のベルク・ベルクが代表を務めるベルク商会も本人ごと粛清された。

 それはもう全滅としか言いようがないほど運用幹部が全員死亡、運営に関わっていた貴族たちも次々と死んだ。そしてその借金のカタとして多くの貴族の領地や爵位を公爵令嬢エリーゼ・ライヒベルクが奪い去った。


 震え上がったのは中立貴族と国王・宰相派貴族たちだ。

 なぜ唐突にこれが起きたかわからない。だが公爵家の激怒の仕方からしてなにかあるのだと。どこもかしこも震えたが最も震えたのは北方組合と深い関係にあった財務省貴族であった。

 そして回りもそのように見た。おそらく北方組合を唆して公爵家の秘密を握るか横領をさせるかしたのだろうと。表向き公爵家は財務省に対して攻勢を強めなかったが財務大臣グリンド侯爵の子息であるジョンが一部財務資料を持ち出し貴族学院でヴィルヘルムとともに公爵家を弾劾するという暴挙に出た。

 不気味なほどこの剣で行動を起こさなかった内務大臣は即座にこの件を糾弾し財務大臣を辞任に追い込むとレズリー伯爵を推薦し、シャハト以来の経済・財務両大臣を兼任した。国王陛下は安心してるがおそらくレズリー伯爵家はライヒベルク側に表も裏も寝返っているだろう。


 それからまもなくモンタギュー司法大臣子息のノーマンが馬鹿の一つ覚えで同じこと同じ場所でした。

 が、これが問題で司法大臣執務室の資料を堂々と持ち出したらしくおそらくヴィルヘルムも関わっているのであろう。そのうえ厄介なのがゲルラッハ伯爵令嬢に論破された挙げ句、超法規的措置を口にしたものだからどこもかしこも大慌てだ。

 短絡的な行動で司法省の大臣官房の人間は全員暗殺され(しかも手際が悪く)宰相含む各大臣が全員家族ごと軟禁される自体に発展。

 巻き込まれた内務大臣とおそらく国王の意志で恣意的に弾かれであろうレズリー経済・財務大臣以外は何も出来ず行政ごと止まった。

 解決のためノーマンを死刑にするものの裁判が見世物以下だったため疑惑は消えず、同日ヴィルヘルムがご執心の平民から金をだまし取ろうとした貴族がヴィルヘルムの茶番劇の名のもとで公開処刑されたことでさらに疑念が深まった。

 超法規的措置で処刑される人間が非公開処刑でケチな詐欺貴族が残虐な公開処刑。

 民意は王家から離れつつあり、公爵家ではなく公爵令嬢に集まりつつあった。新聞の恐ろしさというものを改めて知った人間も多いだろう。


 そんなことを医務室で話していれば公爵令嬢たちが会議か何かでやらかしたらしく野次馬で見に行こうということになった。

 いざ行ってみればスペンサー男爵家のジョージアナ嬢が立っている。

 そこらの貴族に話を聞けば司法大臣をジョージアナ嬢にする遺言があるから任命するよう働きかけたらしい。

 モンタギュー司法大臣はと聞けばどうも公爵令嬢が呼びに行ったらしい。最初から呼んでおけばいいのにもったいぶると話していると外が騒がしくなってきたので挙兵かと騒がれた。


「お静かに、大臣が参られます」


 その一言で場を静めたジョージアナ嬢は大したものだった。

 しばらく待てばどこかで見たことがあるような公爵令嬢のエリーゼ嬢を筆頭にイデリー宰相、前王国警察長官ルーデンドルフ公爵に典礼大臣の夫など錚々たるメンツと謎の民衆が徒党を組んで行進してきた。

 棺桶を担いで。


「お待ちどうさまですわー」


 混乱する人間をよそに一部は司法大臣が死んだことを確信したのだが、さすがに宗教的にも問題がある行動に完全に放心しているものが多数だ。

 入室を求める国王陛下と不可能であると言い放つエリーゼ嬢。最終的にポート伯爵が連れ出すためにでてきたが棺桶を見て混乱している。

 残念ながら状況把握能力に差があったようでさんざん言い負かされた挙げ句モンタギュー『前』司法大臣は葬儀後に王命で連れてこられたと言い民衆と貴族から不信を買っていく。

 ああ、モンタギュー大臣が自裁したことも葬儀をあげたことも今更知らなかったといえないし、言えば無能をさらすからな。暴君と無能では暴君のほうがマシだろう。

 無能な暴君では何も違いがないが。

 結果新司法大臣の席はジョージアナ嬢に転がり込み、スペンサー男爵家も2つの大臣職を所持することとなった。司法を抑えられては長くはあるまい。

 新聞でも散々にこき下ろされ王家の信望は地に落ちるどころか穴を掘り始めた。


 数日して新司法大臣は超法規的措置の事件や大臣官房官僚の殺害の再捜査を命じたところで暗殺未遂事件に巻き込まれた。

 あっという間に暗殺未遂どころか返り討ちにあった省庁掃除課は返す刀で全員抹殺され、指示役の次長検事のアウストリ・ゲルラッハ伯爵はエリーゼ嬢自ら窓を破って逮捕、王国最高裁判所長官のマッセナ・ゲルラッハ伯爵も検事総長のリーヤン・シュテッチ子爵も王家と袂を分かったのであろう。

 公爵家ではなくエリーゼ嬢の評判が上がっていくのは新聞社を牛耳る彼女がそう仕向けているからだ。

 おそらく後世の強め時期、いや王家の攻めどきだと判断したのであろう。

 それに抗う方法は王家には何もなかった。

 超法規的措置関係で幽閉中のヴィルヘルムには誰も期待していないのだから。

ジャック「(なんか公爵令嬢見たことあるな……)」

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