老人と崩壊の始まり
「なにがどうなっている!?」
「こちらが聞きたい!ご無事か!それとも本当に亡くなったのか!岩が落ちてきた?警備はなにをやっている!近衛は役にも立たんのか!」
「ワイト侍従長は?」
「連絡に彼の名前がないということはそれすら出来ぬか……」
「……なんたることだ」
事故の詳細は詳しくは入ってこない。ただ事故があった、詳細が不明であるということだけ。
ただうすうすみんなが察している。護衛の近衛の情報すらまともでないことに苛立ちが募っている。遠ざけられた私ですら雑多に大臣やら何やらが集まる会議の末席にいるくらいだ。掃除課かパドが手を回したのだろう。王宮部署だった伝で仕入れるかもしれないとねじ込まれたのかもしれないが私も知らないのだ。
「陛下は近衛に関して何らかの処分をするようだが、団長?」
「いや、これは……近衛の責任ではない!……そうだ!元はと言えばゲーリング子爵の統治のせいだ!そうだ!マルバッハ男爵にも責任がある、近衛騎士が手薄になったから事故が起きたのだ!」
「岩が落ちるてくるのは手薄という問題か?見てわからんか?避けようとは思わんか?」
「そもそも近衛騎士が岩の上に乗って警護していたとも入っているが?」
「夫婦岩が落ちるとは思わなかったのだ」
「ほう、夫婦岩?それはそれは……初耳だな」
「どうやら団長殿は我々よりよく情報を仕入れているよだ、それで?なぜ報告をあげない?」
「精査中だ!内務大臣はそのような勘ぐりを……」
「では精査中なのに夫婦岩が落ちたと今発言したわけか?」
「さ、宰相閣下!今はそれどころではありません」
終わったな。この男は近衛騎士の器ではないのだ、近衛騎士団長はさらに荷が重いだろう。
憔悴して一言とも喋らない国王陛下に内務大臣と宰相が近衛騎士団長を責める。
彼が失言するまでは宰相も致し方ないと言った体だが報告してないことを知ってからは追求に回った。
報告を聞きに行くと逃げ出した彼はその足でマルバッハ男爵を捕えるように命令した後間違いなく陰謀であると言い始め近衛騎士団も混乱しているようだった。
「リッパー男爵」
「ベガ子爵?」
「断絶いたしました、今はただのダイ。近衛騎士団法務官です」
「なにか?」
「事故の原因は近衛騎士団の団員が夫婦岩の上に乗って殿下の馬車を眺めていたことが原因です。表向きは警護ですが……。おそらく誤魔化しても警護で夫婦岩の上に乗っていた事実は隠しきれないでしょう」
「それをなぜ私に?」
「息子を殺したのはあなたでしょう?あのような手際で人を殺せる人間がいますか?」
お膳立てはしたが殺したのはフリードリヒだ。まぁ他の手際が良いからそう思っても仕方はないが。
「陛下か殿下の命で動いていたのでしょう?近衛騎士団は腐敗している、いやもはや腐り果てている……。ピア様に飛び火する可能性がある。ゲーリングの小物やマルバッハ男爵で事が収まるわけがない。大きな陰謀をやつはでっち上げるつもりだ」
「…………それが?」
「都合のいいのがいるだろう。旧ライエン侯爵の令嬢が冤罪と父を殺された恨みを晴らすため元寄子を動かしたことにすれば財産も没収できて一石二鳥だ。それを知れば急にありもしない証言が出てくるだろう、元寄子で袂を分かった連中がな」
「それを伝えて私にどうしろというのですかな?」
「少なくともあなたは恩人の娘を搾取しようとも利用しようとも思っていない。情はあるでしょうし……。何より復権の芽を潰したバカどもは腹が立つのではないですか?殿下があなたを高く買っていたので筆頭医師から更に上に行くと言われていますよ。あなたの中には怒りと失望の炎が渦巻いているではないですか、息子を殺された直後の私にそっくりです」
ああ、そう考えたのか。自分の出世を不意にしたから殺したいだろうと煽ってるわけか。私の怒りと失望は孫が死んだことと無能と知ってる近衛騎士の失態で起きたことを知ったことだ。
「3日後、マルスン男爵邸で会議があります。そこで誰かが言うでしょう、ライエン侯爵令嬢に責任を押し付けようと。すでに動いているものもおります。我々旧派閥も一部は賛成するふりをして表立って反対しているやつを売る予定です」
「…………」
「鍵は開けておきます。我々は武装はさほどないはずです、なるべく大事にしていただきたいところですね」
「なにをしてほしいのだ?」
「さぁ?私が伝えるのはすべての鍵が空いていて、そこには私のが信頼できる人間が護衛としているということです。なにせ大層怯えていらっしゃる。特に公爵家の方を」
「公爵家を?」
「どれかが逆鱗に触れたのでしょう。多すぎて分かりませんがね。公爵令嬢一派が殺してくれれば良いのですが……」
「たかだか令嬢に任せることではない」
「ええ、ですので誰か殺してくれないかと思う次第です。息子の次には恩人の娘を気にかけているのですよ。いつか必ず復興してもらおうというくらいには」
「マルゴーとは長いのか?」
「ええ、どこぞのバンサ伯爵家が急に婚約を蹴った後でベガ子爵の婿に推薦していただきましたね」
「…………」
「恨んでません、むしろ逆です。私達は息子の教育に失敗しました、ですが引き合わせていただいたマルゴー閣下には感謝しています。シャルロット閣下は別の人間にする予定だったらしいので……」
彼女が生きていたらこういう形で生きていたのだろうか?
「私が伝えたいのはそれだけです。……私の買いかぶりでなければ良いのですが」
そう伝えると彼はおそらく近衛騎士団長の邸宅の地図と当日の参加者のリストを置いた。
用は済んだと立ち去ろうとした彼には私は一言だけ伝えた。
「能力は買いかぶりですよ、能力以外はいい判断です」
「…………感謝します」
エリー「どう料理してやろうか……」
クラウ「レシピあるっすよ」
アン「調理器具を忘れずに」
シャーリー「仕入れは任せとき」
ジーナ「整えてやるよ(小声)」
マーグ「捌くのあーし得意だよ」
アン「後片付け私ですか…」
ベス「それは……私も……盛付けはできるよ……?」




