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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
老人の回顧録、あるいは内側の真実

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老人と確信

 医務室の簡易な報告書に書かれた日常的な業務報告。書式が違うもののリッパー男爵家の使う暗号であったそれを見た私は即座に解読にかかった。


『被服室にて 13:00 緊急都合の場合 15:00』


 暗号とはいえ情報が少ないのは王宮部署のかつてのリッパー男爵家の手のものにでも聞いたのであろう。出来が悪い。

 そしてこのように呼び出すような人物といえば……。


「やぁ!お祖父様、最近は楽しそうですね。血のつながった孫とも遊んでほしいんでお呼びしましたよ」


 フリードリヒ殿下、いや……今はフリードリヒと言ったほうがいいだろうか。


「そう警戒なさらず、誰もいませんよ。こっちです」


 固定された巨大なタンスを開けて、角の部分をコンと蹴ると回転扉のように動いた。

 こっちですと案内されるまま少しばかり小さな部屋に出た。


「こちらは外に、ここは私の私室に、ここは玉座の間につながっています。なかなか面白いでしょう?どれだけ不安だったんでしょうね?歴代の王は」

「これは……知りませんでしたね」

「リッパー男爵家も知らない通路ですか、それはそれは……使えますね」


 残念ながら紅茶も何も無い、当たり前だがここは緊急の脱出路か何かだろう。これほどまでに把握されてない部屋があってこの王宮は大丈夫なのだろうか?


「おそらくバンサ伯爵家かレズリー伯爵家は知ってるでしょう。いや、王家しか知らないかもしれませんねそれぞれが隠し通路を把握してるでしょう。それにしてもこれだけ隠し部屋がるのに誰も疑問に思わないのですかね?この部屋の隣は倉庫ですよこれだけ隠し通路があるのに疑問に思わないのは不思議なものです」

「それは……人員が足りてるときはもとは役職ごとに部屋の清掃が決まっていたからだな」

「ああ、なるほど……必ずしも隣の部屋でもないのなら間取りの疑問は消えますね。意外と考えていたんですね。王家は……」


 そんな事を聞きたいわけでもなかろうにフリードリヒはふーんとつまらなそうにしている。


「まぁそちらはいいんですよ、お祖父様。ピクニックに行きませんか?」

「ピクニックです。実はですね……私のアーデルハイドに言い寄る馬鹿な男がいましてね。エリーたちが処理してくれたのですが……。王家が舐められてはいけないでしょう?私の婚約者に手を出すなんて」

「まだ婚約者ではないだろう」


 意外と公爵令嬢とも仲良くやってるらしい。愛称呼びを許される程度には……。勝手に呼んでたりは流石にしないだろう。


「確かにまだですが、エリーがその座を奪いに来ないのであれば確定ですよ。他の連中は見てるだけでいざ変わった際にさも支えましたと言わんばかりの面をして王配の座を狙う。これで2人相手に戦いを挑むくらいなら私も考えますがね、その気概があるのはエリーの友人くらいで。あとはそもそもエリーとアーデルの関係を含めて介入したがっていない」

「候補は侯爵家くらいだからな」

「ええ、私がそうしました。私が思うより良い方に動いたのはエリーのちょっとした友情と……私の婚約者の素晴らしさを見誤っていた。王国は10年後にはもっと良くなるでしょう!アーデルとエリーの計画に乗ればですが」

「それは?」

「……私は彼女に賛同します。それで終わりですよ、エリーを飼い慣らせる自信があるのなら乗らないのも良いのですがね。その時が来たらお祖父様はどちらに付きますか?」

「さてな、どうするのだろうな。具体的な計画がないと乗りようがない」

「この王国に危機が迫っているのは?」

「わからんな?ロバツはまだ動けないと思うが。公爵家は無理だぞ。キサルピナ嬢に勝つイメージがない、毒殺に掛けるしかないが……」

「やめたほうが良いでしょう、公爵家はお祖父様が思ってる以上に力を持っています。レズリーはすでに王家を見限っておりますよ。おそらくですが……。ですがアーデルと正式な婚約をして、王太子になってエリーとの計画がうまく行けば全ては覆ります。そのためには市井での医療行為をお祖父様には続けていただきたいのです」

「道楽のようなものだから構わないよ」

「助かります、それで話を戻しますがピクニックに来ていただけませんか?初めてのお使いでもよろしいですが」

「どこへ行くのだ?」

「ベガ子爵家へ、子爵は見逃しますが息子はいただけない。ああいただけないですね……」

「警告か」

「もしお祖母様に言い寄る男がいたら、それが下位の貴族であったらどうしますか?」

「…………それなりの警告をする」

「それが無視された場合は?」

「言えないな」

「王子ではなく孫としての問いですよ。あなたのね」

「然るべき処置をする」

「私もそうしようと思いまして……お手伝い願えますか?」






 血に塗れたフリードリヒはにこりと微笑んでいた。


「他人の物に手を出したら殺される当然でしょう?先代国王陛下は他人の懐を弄って死んだのですよ?なぜ王ですら死ぬのに子爵家が生きられると思ったのか?」

「……ぐ……フ……」

「命乞いは聞くに耐えない、大人しく死ね。王子の剣によって死ねるだけ名誉だろう」


 そう言いながらベガ子爵子息にずぶりと腹に剣を突き刺し引き抜く。

 飛び散る血をさらに浴びてもなおフリードリヒは笑っていた。


「お祖父様、お膳立てありがとうございました。裏口の人間は運がなかったのですよ。それにしてもあれがリッパー男爵家の手腕ですが。全くお見事です、これでも公爵家にの人間に太刀打ちできないならやはり手を組むのは間違いではなかった。王国はさらなる飛躍を遂げるでしょう!ハハハハハハ!」

「さ、帰りましょう。この部屋は幽閉場所です。防音がされてるとは言え漏れたかもしれません、ケチな貴族の幽閉部屋などそんなものです」

「おっと、少し興奮しすぎたようですね。いや、やはり愛する女性を奪おうとするのは殺してしかるべきですね。おっと父上のことではありませんよ、王家が奪ったのです。ああこちらの父上はもちろんお祖父様の……」


 その恍惚とした表情はどこかジキルと同じに見えた。

アーデルハイド「愛する人は勝ち取れ!」

フリードリヒ「奪い取れ!」

エリー「(正直身を引けてよかったですわ)」

クラウ「(だめだわこの国)」

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