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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
老人の回顧録、あるいは内側の真実

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老人と就職先の斡旋

 アーダムの伝を使い、ピアに貴族的な教育を委ねることにしたがそもそもリューネブルク女侯爵家とバンサ伯爵家に求められることは違う。だが教えようにもさじを投げられた無能次男では交友関係を広げる以外のことはなにもわからない。

 オドニー兄上がおられれば任せることもできるのだが一切連絡は取れない、屋敷に戻ってきたのも10年以上前。それらしきものもなく勝手知ったる我が家であっても貴族の教育方針やバンサ伯爵家教育方針のような本はない。そんな物が目につくところにあるわけがない。


「なんというか……奇抜なお屋敷ですね」

「…………そうだな、奇抜だな」


 実家に戻っても客間……応接室に入ることはあまりなかった。別家とは言え兄上はそのあたりはとても寛容であったので私室で軽く話して大抵は終わりだった。数年に一度一族の絵画を描くときもそこまで細かいことは言わなかった。父上あたりはうるさかったが……。

 そう言えばここにあった集合絵はどこへいったのだ?管理は委ねていたがわざわざあれを盗むとは思えない。そもそも兄上の道化師の絵画はなぜこのように?トリンクスの絵のようだが……。


「ヒッ!」

「どうかしたのか!」

「こ……この部屋は……?」

「そこは応接室だ、一体何……が……」


 応接室には不気味としか言えない程に兄上の道化師姿の絵画が飾られていた。新手の呪いか?誰がやったのだ?

 いや、不審者が入ってきたとしてこんな事をする意味はないか。兄上の来客を驚かせるものだろう。


「これは一体、もしやあの大きな絵画がかかっていた後に……?これらが?」

「いや、あそこには一族の集合絵が置かれていた。これは先代バンサ伯爵だ」

「えぇ……?ではその絵画はどこへ?」


 知らん。とも言えなかったのでこのときは適当な言い訳をした。執務室で書類を見た際にどうやらジェーンがシュライヒャー伯爵に売却していたようであった。最もサインは私のものだったのだが記憶はない。シュライヒャー伯爵が購入した理由は母上が彼の叔母で親族のものだからだろうし、バンサ伯爵自体は裏ではどうであっても表向きには完全な失脚と死んだふりだ。買い叩かれるにしろなにかが起こるにしろそれくらいは買い求めてもおかしくはない。問題なければ買い戻せばよかっただけだしな、価格もおそらく適正であった。ジェーンの死後も管理はしているのでどうにかなっていたのだろう。私がいなくても管理人が管理はしていたはずだしな。

 問題はシュライヒャー伯爵も消息不明だということだが……流石に彼の遺産移管してはわからない。遠ざけられてる私が聞けたことでもない。そもそもシュライヒャー伯爵の追い落としの指揮を取ったのは当時応じだった国王陛下なのだから。


 あの集合絵画はどこへ言ったのかという疑問は頭をよぎったが、無くなる前の叔母上の反応と態度を見るにジキルとグリゼルダのことを知っていたようだった。そもそもそれが原因だったと気がついたのはこのあたりで書類を見ていたときの話だった。

 おそらく処分したのだろう。と私はそのように再度伝えた、と思う。


「ここが今日から私の家なのですね」

「財産は運ばせるから好きにするといい、警護には気をつけるように……」

「それと仕事に関してなのですが、なにかありますか?」

「仕事か……」

「ここで引きこもるのもいいですが、少しは顔を売っておいたほうがいいと思うので」

「そうはいっても医者の心得はあるか?」

「流石にそこまでは……。それにありません」


 本来はライエン侯爵家当主だからな。私みたいにリッパー男爵家を継ぐついでにたまたま適正があって医者になれる能力があっただけで自分から医学に首を突っ込む貴族はそうはいないだろう。

 モレル伯爵は別だ、そもそも医者の能力がない。毒薬研究をしたほうがいい。




「王宮部署の案内役女官があいてなかったか?」

「ああ、そうか顔もある程度知られてるし貴族としての教養もある。投手の心構えなどは弱いがそれは案内役に求めるものではないからな。私も推薦しておこう」


 ピアの就職問題をパドに尋ねるとあっさりとした回答を得た。ではと思うが王宮家令は交代していたのでワイト家令に尋ねることとしたが……。


「駄目です」

「そこをなんとかできないか?」

「よろしいですかな?誅殺された人間の娘を王宮部署の案内役など……」


 ネチネチと一蹴された。どちらかと言えば今の不甲斐ないリッパー男爵家が出しゃばるなということであろう。王宮部署関係で私に不満を持っている人間だったのかもしれない。致し方ない、残った伝も少ないがライエン侯爵家の復興の為頑張っている家臣団や、寄子貴族にも頼るしかあるまい、と思っていたところでフリドリヒが来た。


「ワイト、騒がしいが問題か?」

「これはフリードリヒ殿下、リッパー男爵がライエン侯爵家の令嬢だった人間を王宮部署の案内役にするようにと」

「ほう、それで採用したというわけか」

「いえ、断りました」

「なぜ?」

「誅殺された方の娘ですので」

「ワイト、もう少し柔軟性を持て。お前の能力に私は期待している。リッパー男爵は間違いなくこちら側だ。わざわざ内部で対立を招く必要はない」

「しかし殿下、間違いなくこれは問題になります」

「ライエン侯爵家が誅殺されていないことなぞわかっているだろう?わかっている同士で足を引っ張りあっても仕方がない。それに私の名前で採用すれば配慮ということが皆にもわかるだろう?なに、ピア嬢は親族でいるには頼もしい側だ。いずれバンサ伯爵家を継ぐにせよ、ライエン侯爵家の名誉が回復するにせよだ。私の御代に復権するに足る理由があればいま距離をおいてなお公爵家に付かぬ人間ももう少し耐えようと思うだろう。王家に味方しないのはこのような采配の結果だ、次で覆るとなれば公爵家になだれ込まれることは避けるだろう」

「わかりました、そのように」

「それとリッパー男爵、そのノウハウをワイト王宮家令に少しでいいから教えてやってほしい。リッパー男爵家押してのノウハウを……ワイト、しっかり学べ。リッパー男爵は第一人者だ」

「御意にござります」

ワイト「(こいつ無能じゃん……)」

ジャック「(同世代ってことは俺の無能さを知ってるな)」

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