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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
老人の回顧録、あるいは内側の真実

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老人と胃薬

 いつもより少し早い朝はなんとも心地が悪いものだった。

 この後を思えば……。


 いつもどおりの支度をし、いつものように家を出る。

 王城への道のりは誰もいない。有力貴族は何をしているだろうか?まだ朝食でも取っているのだろうか?

 マルゴーは今どこにいるだろうか?


 登城して待合室周辺を眺めているとパドが話しかけてきた。まぁこの辺の人間は早いもなにもないからな。


「ん?今日は早いな?」

「やぁパド。わかるだろう?上にしたのに勝手に治療するやつがいるからさ」

「そういえば先日も男爵が一人……。あれは?」

「統括殿さ」

「まぁ死なななくてよかったな、従者の方は残念なことになったが……」

「男爵の方は慌てて王都は離れたな、味方だったんだが」

「なぁに、あいつはいてもいなくても変わらんさ」


 モレルのよくあるやらかしを不幸な事故として話す。

 それだけ個人的な会話をすることがここではなくなっていったから。


「今日は早いやつが多いな」

「それだけ忙しいのさ、私もさっき言ったとおりではあるがシャハト大臣に呼ばれていてね」

「どうしてまた?」

「さてね、最近……」

「……やぁジャック」

「マルゴーか、早いな」

「いや、さっき来たばかりだ。……早いな?」


 おそらく昨日の話をシャハトとしたくて来たのであろう。王城にいて王家に近い金髪の話を。私が帰った後に会わなかったのは危険を感じていたのだろう。なにせ外で死んだのならそれこそ公爵家のせいにできるのだから。ここで私のできることなど医務室さえ避ければ誰かと一緒にいればどうにでもなる。

 だがそれをさせるわけにはいかない。


「パド、済まないが一室を借りたいのだが今はいいだろうか?」

「ああ、確認してきたところだ。奥の部屋でいいのだろう?」

「近衛騎士団もいるか?厳しく見張ってほしい」

「わかっているさ、何を話すんだか。シャハト大臣も今日部屋を空けるように言っていたからすぐだったが。では案内は……」

「いや、奥のあの部屋だろう。わかっている。シャハトが来たら通してくれ……ああ、胃が痛い」


 あれはストレスだな。胃痛ならしめたものだ、私にそうせよと天が囁くかのごとくよい方に転がっていく。

 妻が守ったリッパー男爵家を途絶えさせるわけには行かない、奴らは間違いなく率先して私を売る。私が死ねば何にせよリッパー男爵家は取り潰される。制御できないヤブ医者に自己中心的なシャハト、いうがままの傀儡当主。やつらに妻が死んだ意味すらなかったことにされてたまるか!


「茶を届けさせる、君!奥の……先程使うと言った部屋に部屋にお茶を。うん、頼む」


 命じられた男は承りましたと礼儀正しく去っていった。と言っても淹れるのは彼ではない。メイドに伝達して近くの給湯室だろうからまだ時間はかかる。


「シャハトが来たら私も行こう。それまでパドと少し話している」

「…………ジャックは来ないのか?」


 私がどうにか口を封じると思っていたのだろう。殺されると思っていないのか、この絶好の機会にわざわざ見過ごす理由はないと思っているのか。

 あるいは私がまだ気がついていないと思っているのか?あり得るな。私は愚かなのだから。誰よりも……何よりも……。


「ああ、パドと話しながら……モレル医師のことでな。頭と胃が痛くなる……。すまないが水を持ってきてくれ、胃痛薬を飲む」

「それは胃痛薬か?」


 パドも気になったのかそう尋ねてきた。


「そうだ飲むか?」

「ああ、いただこう。私の分の水も頼む」


 こうなるとマルゴーあたりも……


「私もいただこう、紅茶と飲んでも問題はないか?」

「ないな、発泡薬だからすぐ溶ける。味も邪魔しない、効果は15分後といったところだ」


 水だけなら早い、私は数分ほど待って持ってこられた水と一緒に薬を服用した。

 パドもそれに習ってすぐに飲み干した。なんてことはない。胃に問題がなければ何の意味もない薬だ。私もパドも平然としているぞ?それを見たのか安心してマルゴーは薬瓶から薬を取り出した。そこの方から探しているのは手前がすべて毒だと思っているのかもしれない。少しだけ様子を見るように私達の会話にまじりながら去っていった。ちょうど15分くらいか?わかりやすい男だ。確かに毒ならもう死んでるだろう。まさかパドまで殺すわけがあるまいと思っているのもそうだろうが。

 パドの診察記録を思いだしても胃に問題はない、せいぜい消化不良だろうな、ここの食事は少し重すぎるのだ。

 だがマルゴーは違う、間違いなく胃壁が傷ついている。あの胃薬は傷があると凄まじい痛みのあとに眠気と麻痺が襲う。本来は胃に傷がないこと前提の薬だ。

 別に死ぬわけではない、眠るだけだ。


 ほくそ笑みながらパドと会話していると挙動不審なシャハトがやってきた。


「おお、助かった。リッパー男爵。ここにいたのか」

「入口に近い場所で待っていたほうが良いだろう?マルゴーが先に話をしたいそうだ。その後で向かう、ここで見張っているが近衛騎士もいるから安心していってくるといい」

「近くまでついてきてくれ、近衛も信用できない。彼奴等は買収されてている、金で転ぶ……」


 果たして近衛がどうであったのかは知らないが、信頼に値しないという意味では間違いなないだろう。パドも咎める言葉もなくやれやれと言ったふうについていくことにしたようだ。

 どこからか戻ってきたばかりのような近衛の警備を抜けて部屋の周辺でパドとまた会話をしているから待っているようにというとシャハトは安心したようで部屋に向かっていった。近衛と出てきたメイドはお茶を運んでいたものだろう。

 あとはアイツの胃痛が思った以上に軽かったり詐病でないことを祈るとしようか、もしすべてしくじったら……。さてどうするか?シャハトは警備が厳しい、私一人では無理だな。マルゴーも厳しいか。結局外で殺す他ないな、王城で殺してうまく処分するか?さてどうするべきだろうか?

 どちらに転ぶか、神のみぞ知る。

パドも胃痛が重かった場合


パド「うぐぐ、あっ……」

マルゴー「うわああああああああああ!ジャック・リッパー男爵乱心!乱心!」

ジャック「お前そんなに悪化してたのか……」

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