老人と告白
フリードリヒとの会談が終わってしばらくして。
パドが正式に王宮家令となり、モレルが王宮医師団総括という迂闊に人を殺せぬ地位に祭り上げた時期だったと思う。
シャハトが公爵家の融和を強硬に主張し、むしろ王家が下手に出るように言い出して失脚した。
まさかの相談役会議での強硬派筆頭で対公爵対決の言い出しっぺが急に変心である。だれもが公爵の賄賂を疑うし、この期に及んで責任を押し付けて逃げようとしているとしか思わない。普段は私のことをいないように扱うこの男が我が家に転がり込んできたのは意外と言えば意外であった。
狼狽するシャハトから話を聞けば答えは大したことはなかった。公爵家の暗殺者が自分を狙っていると騒いでいたのだ。そのような理由があるのかと聞けば彼はペラペラと話し始めた。推理小説だったら死ぬだろうな。
「最近貴族の急死が……暗殺が相次いでいるだろう!?公爵融和派の人間が死んでいるのだ!」
「ならば生かしたほうが公爵家にとっていいだろう?」
「違う、彼奴等は融和派を騙って公爵家に接近するように私がいい含めていたのだ!そのさなかにいきなり殺されたのだ!ほぼ全員が!ほぼ全員だぞ!」
殺したのは私だ、説得を聞かないからな。フリードリヒの願いを叶えるのに邪魔だった。
「一部はそのまま強硬派に戻ってしまった、命まで懸ける気はないと!くそ!」
私が説得したからだ。王宮部署時代のリッパー男爵家のことを知っていたか、それとも裏のリッパー男爵家のことを知る名家だったかまでは知らない。ヤブ医者をけしかけられると思ったのかもしれないな。
不満を漏らすがお前も命を懸ける気がないからこうなったんだろうに……。どこまでも愚かしい。
「なぜこうも察しが良いのだ!なぜ私が疑われている!ゲーリング子爵も工作直後にヘス伯爵とともに殺された。急に悪化していく、なぜ今になって……どうしてだ!」
「覚えはあるのか?」
「どれだかわからない!どれなんだ!助けてくれ!なんでもいい、覚えがあるなら言ってみるといい。それ次第では……」
「ライエン侯爵を暗殺した……。融和派だったから……」
「マルゴーが?死んだのか?いつだ?たしかに外戚として疑心暗鬼の国王陛下から睨まれて登城は減っていたがいつ殺したのだ?」
「違う!先代のシャルロット様だ!公爵家との融和と次期宰相就任の内定があったら私が後々その地位につけなかった!その次の宰相はどうせユークリウッド子爵だぞ!私が宰相になる隙がない!だから私はユークリウッドを……」
「待て、シュライヒャー伯爵を追い込んだのは……」
「私だ、王子時代の陛下を動かして……そうだ、シュライヒャーが私を狙っているんだ!公爵家に寝返って私の周りを殺しているのだ!」
シャハトが伯母上を殺したのか本当のところはわからない、どう見ても平静ではなし精神が壊れかけている。そそのかしたのかもしれないが実際どうだったかはわからない。それに伯母上を殺した話も話半分だ。今更とも思ったし、死にそうな人間に蹴りを入れる趣味はなかった。それに彼はもう限界だろうからな。
「間違いない!先代公爵と親しかったから……。ユークリウッドが俺を殺そうとしているんだ!」
「公爵家がそれで動くまい?他になにかあるだろう」
「公爵家に暗殺者を……」
「いつだ?この情勢でか?」
「トリンクスが交渉に行った際に……そうだ!蛮族だ蛮族の支援だ!」
「それはもう王命で……」
「違うそれ以前から、先代国王陛下が止めろと行ったときも止めずに続行していたんだ!」
そりゃ殺されるだろう、なにを今更……。
王家が行き詰まったのはコイツの権力欲のせいかと思うと国は内部から腐るとは間違いではないのだと思う。もっとも私も腐らせた当事者のようなものだが。
「よく今まで生きていたな」
「公爵家は王家の内情はわからない、我々相談役の会議の内容までは漏れていないから……相談役からレズリー家を外すように進言したのも私だ!レズリー家の当主候補の情報もロバツに流した。レズリーと公爵家が争うようにしたが全くなにも起きない!それでレズリー家が王家に対して距離を置こうとしたからあの時の当主には相談役を引き継がせないようにしたのだ!その後も俺を敵視するから……」
レズリー家はリッパー家の職務範囲には触れないが明らかに一族の暗殺だ、そりゃ手を出すだろうし、そもそも他国もその情報精査は向こうの仕事だ、それはバレるだろう。なるほどレズリー家とシャハトが敵対してるのは政治的な問題ではなくそういう問題があったわけか。そうなるとレズリー家は王家への忠誠を持っているのだろうな、私とは大違いだ。私なら殺しているだろうし。
「そもそもどうして私に?」
「国王陛下の執り成し……は難しい、次代で私を復権させてくれ!大臣でなくても私ならその地位に返り咲ける。なにせ君は……外戚ではないか!」
「…………それはライエン侯爵だろう?」
「なにを言ってる、キンゼー家が途絶えてバンサ家が空位の今はリッパー家の君しかないないだろう。ライエン家もそうだが……故ジョージ殿下の血縁はもう君だけだろう?フリードリヒ殿下が王太子か国王になった際にその事で私も引き上げてくれ!殿下は知っているようだぞ」
私はなんと返答したかはわからないが去り際に喜んでいた彼は覚えている。おそらくいい返事をしたのであろう。
「明日王宮でライエン侯爵と会う、実は少しだけ話してあるのだ。貴方も来てほしい」
私はマルゴーと相談する必要があるだろうと彼の家に向かった。
フリードリヒ「(意外と的確に殺してたんだな)」
ジャック「(何も考えてないわ)」




