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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
老人の回顧録、あるいは内側の真実

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老人と偽装工作

 私はごまかしようのない状況の遺体を再度眺めてため息をつく。ある意味では密室殺人だ。これをどうするかと問われれば……。

 致し方あるまい。


 私は飾られた壺を愚かなる愚者の遺体の傷の上に落とした。

 どう見ても厳しいが死亡診断はこちらがやることだ。足元も少しだけ……うむ、乱しておいて滑ってぶつかった拍子に壺が落ちてきたようにパッと見は見えるだろう。

 あとは事故と私が言えばそれで終わりだ。

 疑う人間は疑うがそのようなものだ。急死事件と同じで気にすまいよ。この王家劣勢の情勢ではな。


 憔悴した国王陛下は血だらけの宝剣を持ってウロウロとしていた。


「リッパー男爵……」

「愚かなる愚者は事故死したようです、どうやら足をすべらせて落ちてきた壺に……」

「……!!そうか!それなら仕方ないな!」


 これがまずかったのだろう、暗殺とは本来バレないようにやるものだ。バレることっ前提もあるが相手が事実を伏せざるを得ないなど状況を加味せねばならない。

 失敗しても脅しになることもあるし、絶対に成功させないといけないからこそ手のこんだことをする。このように犯人が絞られる状況で事件を起こすのは失敗なのだが。

 国王陛下はどのように殺してももみ消すことができると判断したようだ。

 公式見解と人々が思うことは別なのだがこの方はそのへんがわかっておられない。

 愚かなる愚者を殺した後の言動を見ると精神的な病にかかっているのかもしれない。さすがにこの一介の王宮医師の立場では精神鑑定なぞできるわけもない。

 明らかに言動がおかしいものもあれば誰かが気付くであろうが、巧妙にそうと言い切れないのは王家の闇か、国王陛下の振る舞いか。


 私を呼んだ理由は国王陛下も覚えていないようであった。さもありなん、あんなことになればそうもなろう。

 私は自分の職務と全く関係ない大臣のポストに関して相談される始末だ。こうまでフォローされてなんで呼んだか忘れたとも言えないし、どうして愚かなる愚者を殺したかも言えないだろう。

 癇癪を起こして殺したなんて言われたら流石に忠誠を失うくらいは理解している。かといって言われたこともあかせないだろう。


 私は宰相に内情を知らない人間にしようと各省に出向経験がある紋章院の紋章官がイたことを思い出しうまくやれるだろうと推薦した。

 イデリー伯爵は宰相の代わりに案件を差配していたらしくちょうどいいととのことだった。おそらく宰相が死んだ後は国王側近が回していたのだろう。

 アルベルド法務大臣が亡くなり、愚かなる愚者も死んだいま参謀は消え去った。シャハトでは無理だろう。あの兼任で宰相は任せられないのもあるが地に足がついていない、権力志向が強く誰でも邪魔なら始末するタイプだ。ライエン侯爵家を出たのは叔母上もあの男が厄介だったから送り出したのかもしれない。

 シュライヒャー伯爵で十分だっただろうしな。


 ついでに司法大臣は繰り上がりでいいだろうとも言った。

 本家のゲルラッハ伯爵をその地位にはおけないし、おそらくきな臭いものを感じてか司法大臣死後もさほど発言していない。

 私は大抵の場合は顔なじみのみの会議の時以外は名目上は護衛として隠れて会議に参加しているのだが、彼はいつも口論ばかりで全く進まない会話に興味が内容で話は聞けども手元の資料を眺めているのをよく見る。

 私がしれっと座っていたときもシャハト経済・財務大臣は驚いていたが彼は位置別もくれなかった。あれは私のことを認識しておるまい。無意味な会議としか思っていないから喋った内容しか聞いていないし、喋らない私のことを認識しない。

 廊下ですれ違っても会話もないあたり当時の彼は私が誰かも知らないかもしれない。


 帰り際にリッパー男爵が遺体に狼狽するのはおかしいかと思いながらもかといって歩いておい、宮廷道化師が死んでるぞというわけにもいかないので一番近い入口に走っていき、愚かなる愚者が死んでいると話した。


 あっという間に大騒ぎで遺体を見た近衛騎士が暗殺だと騒ぎ始めた。

 まだ遺体を詳しく確認していないと言ったのだが近衛騎士団長もやってきてこれは暗殺だといい始めた。

 全く医者でもないのに困ったものだといいたいが傷跡に詳しい騎士だからな。一蹴するにはまだ厳しかった。


 医務室に運び込むなり私はモレルに事故死だと思うかと聞いたら暗殺でしょうと一言言った。そこで遺体の状況と重い壺が頭に落ちてきていた様に見えたのだと話すとじゃあ事故ですな。ときっぱりと言いきった。

 この劇物を制御できたのはおそらくこれを含めて数回しかあるまい。

 私とモレルの会話を聞いていた数人の医師は何かを察したのか事故でしょうといい死亡診断書作成後に自主的にサインをしてきた。

 彼らの一人がまぁアイツ相手じゃかっとなって殺してもおかしくないですしねとの言葉で国王陛下に侮蔑を投げかけたので手打ちにしたでも良かったと思った。どうせ内容は聞いていないのだから先代に比べて無能と馬鹿にしたことにでもしておけばよかった。


 結局暗殺を主張した近衛騎士団長は辞職に追い込まれ、経緯が経緯なので一部改ざんされて違う時期にやめたことになった。これだけ事件が続けば次期が違っても記憶違いになるだろう。王家への忠誠はあるがそれ以外の能力がなさそうな近衛騎士団の無能を騎士団長に据えてこの件は幕引きだった。

 ただ愚かなる愚者の死は元があのような感じだったので国王陛下かリッパー男爵家、あるいは近衛騎士が撲殺して有耶無耶にしたんだろうと囁かれた。

 のちのちだと私の名前が消えていたのだが、モレルの毒殺業務の手順を見てもっとスマートに殺すと思ったのかもしれない、彼も医務室には顔を出していたから機会だけなら腐るほどあるだろう。

 そんな疲労した愚かなる愚者を知っていた身としては国政に携わることは私には無理だろうと思ったものだ。

事件資料を見るマッセナ・ゲルラッハ「(まーた口論だよ、毎回これで会議終わるんだから呼ぶなよ)」

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