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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
老人の回顧録、あるいは内側の真実

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老人とヤブ医者

 ルーデンドルフ侯爵の子息、アルフレッドがアリバイをそれとなく聞きに来た時に私はそれはそうだろうと思った。一応はハーバー側近の息子だ。リッパー男爵家がどういう家かくらいは知っているだろうし、疑って当然だ。父親のハンスから聞いたのかも知れない。ウィリアムのもとで側近になれるかは疑わしいが。

 ゲルラッハ伯爵も疑われているのではないか?アルベルド司法大臣が亡くなれば側近衆にいた彼が仕切ることことになるだろう。彼の役職を考えれば司法大臣の後任は別かもしれないが影響力は違うだろう。


 旅行、いや仕事から戻ると王太子殿下から呼び出され混乱した王宮を歩く。おそらく疑われているのだろうがアリバイが完璧だからだれも口を挟まない。なにせ私の命令とは言えアルベルド司法大臣暗殺なんてするわけがないのだから……。そこまで忠実な人間は残念ながらいないだろう。情報は渡しても実行してくれるかは……。

 話では直前にモレルが診ていたらしいが……いつもと同じものを投与されたのでどうも追求がしづらいらしい。それでもなにもないあたりは……。


「よくやった、アルベルドは口うるさくてな。余の意をよく汲んでくれた」


 どうやら我らがウィリアム王太子殿下はすでに国王気分のようだった。私しかいないとは言えこれが漏れたら多くの貴族が離れるだろう。


「さて?」


 最も身に覚えがない仕事を自分がやりましたと言い張るほど愚かではない私はすっとぼけたのだがそれがどうも殿下にはよく思われたようだ。


「そなたこそ真の忠臣よ。公爵家の対決の際にはその腕を振るってもらうぞ。まずは足元を固めねばならない。ジョージ派閥の生き残りや公爵派閥を粛清し、日和見な貴族の肩を叩いてやれ。モレルもなかなかやりおるではないか」


 国王暗殺犯に真の忠臣とはなんという皮肉だろうか。おそらくモレルがさほど調査されないのは私を犯人の最有力容疑者にしたうえで有耶無耶にしたのだろう。そのうち適当になるだろうし、モレル次第では暗殺でも誤診でも急死でもどうとでも変えられるだろう。私はそれ以降非公式な会議に呼ばれるようになった。




「王太子殿下、ライヒベルク公爵との和解を」

「ならん!貴様は父を殺されたことがあるのか!」

「しかしあれは当然のことです!貴族ですら非難はしませんでした!」

「トリンクス!王太子殿下になんということを!そもそも貴様が交渉に失敗しなければ」

「交渉前に暗殺者を差し向けてうまくいくわけがないでしょう!」

「公爵のでっち上げだ!」

「でっち上げるなら死んだことにするくらいするでしょう!」


 宮廷画家のトリンクスと経済・財務大臣シャハトの口論は私が会議に出る度に行われた。シャハトは過激派のようだがかと言って財布の紐を緩めるわけでもない。

 そのあたりがまた先代国王側近達の意思疎通ができない理由であろう。トリンクスも非公式な側近ではあるが私も同じようなものだ。そういう意味では私は誰とも意思疎通が取れていない。ルーデンドルフ父子は私を疑っているし、無実が晴れるまでは時間がかかるだろう。晴れても疑うか……。


 私の発言を求められることはなく議論はヒートアップしていく。私が脳内でスパイ共をどう殺すか吟味していると何を失言したのか、今度という今度は許さぬと殿下が激怒しトリンクスは追い出された。


 会議も有耶無耶に終わり、さてと帰ろうとするとなんだか王宮が騒がしく、理由を聞けばトリンクスが倒れたとの話であった。私は王宮医師としての仕事をするために医務室へ向かうが、彼はもう手遅れに近かった。


「な……なぜですか……?」

「トリンクス画伯、何が?どこが痛みますか?腹ですか?胸ですか?」


 死ぬ人間にも大丈夫だぞと気遣う姿は彼からは死にゆくものへの嘲笑に見えたのだろう。


「なぜ……私を殺すのですか……?」


 その言葉を最後に彼はこの世を去った。

 私は聞き取り調査をせざるを得ない状況になった、なぜならルーデンドルフ侯爵父子から疑われているのだから。そう考えるとタイミングよく彼らが調査に来た。

 私はどちらが立ち会う側かもわからぬままモレルを呼び出し聞き取りを始めた。


「はい、トリンクス先生から王太子殿下への執り成しを頼まれたので、とりあえず受けることにしました」

「そうか、それでトリンクス画伯の直前の様子は?」

「顔色が悪く気分も悪そうなのでお茶に処方した薬を混ぜて飲ませました」

「それはどんな?」

「これとこれとこれで、後私の作った薬です」

「馬鹿なこの組み合わせとお茶だと拒否反応が出るぞ!」

「リッパー男爵?それは本当ですか?」

「ええ、それぞれは滋養強壮ですがお茶と混ぜると劇物になるのです……」

「では誤診?」

「…………としか」

「王太子殿下に報告に行きます」

「どうぞ」


 立ち去るルーデンドルフ侯爵達を見ながら私はモレルに詰問した。


「何故トリンクスを殺した?あれはまだ殺すべきではなかったというのに?」

「え?医者が人を殺すわけがないでしょう」


 この答えには随分と演技派だと思ったものだが。


「それにしてもあの組み合わせにお茶は毒になるのですね、アルベルド司法大臣は処方したときにはお元気だったのに。茶葉が違ったからかな?」


 この男はなんの知識も持ってはいなかった。

モレル「体に良いから全部飲ませれば大丈夫ですね!」

モレル「そして毒物から薬を作ることもできるんですね!これは新たな知見を得ました!」

モレル「王宮石になってから知識が増えるばかりです」

王太子「会議後に邪魔者がよく死ぬな、リッパーの手のものか?よくやる」

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