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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
老人の回顧録、あるいは内側の真実

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老人と永遠の別れ

「それであなたは帰ってきたのね?」


 ジェーンはお茶の最中だったのか部屋の中で椅子に座りティーカップから目線を外してじっとこちらを見つめていた。

 私はこの件は手に余る、と同時に私自身が何の判断もできなくなったから真っ先にジェーン相談するしかなかった。


「そうだ、そうだ……。ジキルが、その……」

「知っていたわ、私の子供ですもの。グリゼルダと婚約したがっていたことも、他の貴族がライエン侯爵に策謀を計画していたことを知らん顔してたのも……キンゼー男爵家の暗殺をしたのも……」

「知っていたのか……」

「なんで知らなかったの?誰か一人くらいはあなたに嫌味を言いに来ると思ってたわ」


 私はシュライヒャー伯爵たちを始めとした言葉の意味にこの時ようやく気がついたのだ。好き勝手しやがってという嫌味を言ったところで私の態度を見てああ、こいつは蚊帳の外か……無駄だったのかとそのような態度だったのだと。


「私はすべて知っているわ、私はリッパー男爵家本当の当主。王宮部署の王……。レズリー伯爵家の介入できない部署はリッパー男爵家が担当している。つまりレズリー伯爵家並みの諜報能力があるということ……そしてレズリー伯爵家はこちらに首を突っ込まない。わかる?私もグリゼルダとあの子の関係を知っていたの、他の貴族連中でも知らないそれを……」

「どうやって知ったのだ?愚かなる愚者か?グリゼルダか?どうやって知ったんだ……?」

「──私の子供よ?いたずらをして気まずそうな顔をしてるあの子の顔なんて何年見てきたと思ってるの?見ればわかるわよ。ああ、何か隠してると……。あとは会話でわかるじゃない。親は死ぬまで親なの、あなたには……わからなかったのね」


 私は全くわからなかった。

 何一つわからなかった、仕事が忙しそうだとしか思わなかった。

 私はなにも……。

 何も……。


「私は……私は……」

「あなたがもう少し愚かだったら、もう少し聡明だったら……もう少しだけ、もう少しだけ……」


 ジェーンの珍しく詰まったような言葉を私は遮ることもできなかった。


「せめてもう少しだけ私を愛していなかったら……私はあなたを殺して……私が本当に当主に立っていたのに……」


 私は……。


「私はどうしたらいいんだ、なぜ……」

「この期に及んでは国王陛下を誅するしかないでしょう。リッパー家が公爵家に責任を押し付ければいいという話ではないわ。此度の責任は王家にもライエン侯爵家にもリッパー家にもあるのよ。リッパー男爵家は国家に仇なす者を始末してきた家系、それは王家も等しく……誅する」

「……しかし、国王暗殺は」

「私が知らなかったとは国王陛下も思ってはいないわ。あなたを見て、あなたの立ち回りも見たうえで私があなたに黙っていたこともすべて筒抜けになったの。そのうえで本来は私が、あなたが手を下さなかったジキルを国王陛下自ら毒殺なさったの。わかる?」


 私はそれでも何言えなかった。


「あなたはこの国難を招いた現国王を誅するの。暗殺ではなく仕事よ。シャルロット叔母様は誰かに誅された。見当はついてるけど私は息子かわいさにそれを流した。そして国王陛下がジョージ殿下とジキルを誅した、それならば次は誰が誰を誅するの?だれが名門たるリッパー男爵家の職務を果たすの!王国の掃除屋が掃除を任せて恥ずかしいとは思わないの!」

「叔母上は誰が……そもそもなぜ叔母上は誅されたのだ。姉上も」

「……知っていたからよ、ライエン侯爵も、バンサ伯爵も。確信はないけど疑っていた。少なくとも不義があることを知って義兄様は死んだことにして出ていった。シャルロット叔母様は……そうね、気にしなくていいわ。どちらにせよ知っていたのなら結末は同じ、誰が殺したかを知ったら勝手に始末するでしょう?だから教えない、一生ね」

「そうか、君がそういうのであれば……私も飲み込もう。姉上は?」

「…………髪色で探りを入れられたら困るでしょ?ジキルよ。短絡的なあたりあの子も焦っていたのね。お陰であの子を庇う方法が減ったんだけど」

「ジキルが……その感じだと君ではないんだな」

「当たり前でしょう?一族総出でもみ消しにかかったほうがいいからね。それで国王陛下を殺す覚悟はできた?」

「……いや、できない」


 そう言うとジェーンは呆れたようにため息をついてティーカップを見つめた。


「リッパー男爵家の最後の人間として王家への不忠を見逃した責任を問わないということがあなたには理解できなかったのね」


 そう言うとジェーンはティーカップの中身をぐいと飲み干した。私も見たことのないその姿を見てよほど腹に据えかねているのだと戦々恐々としていたが……。


「リッパー男爵家として責任を取る必要があるわ。見て見ぬふりをした人間を誅さねばならない。あなたがその場で受けていたら必要なかったんだけどね」

「それは一体どういうことだ?私が……」


 そう尋ねた際、ジェーンは倒れ込んだ。


「私は私を誅した。私はどうせ長くはないしこれでリッパー男爵家は滅亡よ」

「ジェーン!ジェーン!おい誰か!」

「全員下がらせたわ。屋敷には多分誰もいないわよ?気が付かなかったの?」


 私は言われるまで気が付かなかった。


「何かわからない毒の解毒をするためにここを離れるか私を看取るかくらいは選ばせて上げる」


 私はジェーンが解毒薬を残しておくわけがないと思い彼女を看取ることにした。

 と……思う。怖くて動けなかっただけかも知れないし、血を吐いたわけでも呂律が回ってないわけでもない彼女を見て毒物に何の検討もつかないから諦めたのかもしれないしそれを認めたくなかったのかも知れない。


「そうすると思った」

「なぜ、なぜだ……」

「さっき言ったでしょ?王国を守るリッパー男爵家が王国に仇なしたんだから責任を取らないと」

「どうして、私じゃダメなんだ!君がいない世界でどうして生きていくんだ」

「ジキルが死んだときにジキルに言ってあげてほしかったわね。それに……夫の背中を押してあげるのが良妻だってお父様がいてったからね。覚悟は決まった?息子と妻は自滅したと考えて国王陛下を暗殺しないか、それとも私達を殺したと考えて国王陛下を殺すか」

「…………」

「あなた、国王陛下から絶対自分を殺すって言われたでしょう」

「ああ、ああ!」

「こうなることがわかっていたのよ、私が死ぬってね」


 私の中に明確な殺意が芽生えたのはこのときだったのではないだろうか?

 逆恨みとしか思えないが私は……。


「ジャック、それとね……私あの子は……」


 ”毒だと知ってて飲んだんじゃないかしら”


 かすれたその声を最後にジェーンの目が開いて私を見ることも、その口で私の名前を呼ぶことも、動いた指が私の頬を撫でることもなかった。

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