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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
老人の回顧録、あるいは内側の真実

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老人と王家

 次期王太子の息子である第1王子が王家の血が入っていないかも知れない、入っていない可能性のほうが高いかも知れないという話を聞かされたところで私にできることなんて何もなかった。

 私はそれでもハーバーを殺す理由ができたとは全く思わなかった。


「昨年生まれたばかりの第2王子殿下、ジキル氏の息子だそうです!いやおめでたい孫が王位継承権を持ったご感想をお聞かせください。私には経験がないものでして……キンゼー男爵家に聞こうと思ったのですがほら、何故か死んでたでしょう?」

「無駄だ、ジャックがやったわけではないからな」

「おーや、本当に?他に誰がキンゼー家を皆殺しにするのでしょう?いや不思議ですねぇ」

「本当だ、ジャックはとぼけてるわけではない。本当に知らんのだ」


 かばうわけではなく、ただ事実を伝えたハーバーの言葉が真実だと理解したのだろう。愚かなる愚者は明らかにテンションを落として語りかけた。


「…………おやまぁ、それはそれは……宮廷道化師を呆れさせるのは至難の業ですよ?あなたは偉大なことを成し遂げました、息子を育て上げたということと、宮廷道化師を閉口させたということです」

「兄上ならよく私に閉口していたよ」


 私の精一杯の強がり、強がりにすらならない情けのない言葉に対して彼は真面目な口調で返した。


「道化師と宮廷道化師は違いますよ。前者は人を楽しませることが仕事ですからね。そうなると道化師ですら閉口させたことになりますね?宮廷道化師になりませんか?きっと笑われることに関しては誰よりも素晴らしい宮廷道化師になりますよ?この仕事大変ですがやりがいはありますしどうです?歓迎しますよ。教えることも少なそうですからね」

「勧誘は後にしろ、ジャックに与えられる大事な仕事は私を殺すことだからな」

「残念、その後で良ければやりませんか?」

「ああ、考えておく……」


 見世物としてはこれほどまで滑稽な生物はいなかったであろう。私が他の誰かであっても同情を超えて笑うしかあるまい。


「幸いなことにレズリー家は知らない。リッパー家の職分を侵さないからな。つまり、疑惑自体は王家が、リッパー家を使って調べたと思っている。ルーデンドルフ侯爵も報告を上げたがな。誤魔化しておいた、あのときはまだ確信がなかったがあれで確信を得た。息子の評判は?」

「いえ、存じません……」

「仕事は真面目だ、ただ悪辣な手を使う2面性が強い。同時に短絡的なことも平気でする。逢瀬の時間に間に合わせるために尋問相手をうっかり殺したこともあるぞ、報告では吐かずに死んだと処理して多様だがな。よくあることではあるのだ、だが頻度が多く、長時間かけるときとあっさり殺すときがはっきりしているからわかった。グリゼルダが癇癪を起こしたときと突き合わせればたいてい一致するほどだ。それは記録でも明らかだ。まぁ……部下からの評判は概ね良かった」


 ハーバーの言葉になんと返したかは覚えていない。ただ、それを救いにするには弱すぎた。


「まぁ、そうですな。宮廷道化師としていろいろな話を聞いた身としては避妊は100%成功するわけではありませんよ、性交だけにね。だからもしかしたら2人ともウィリアム殿下の子供かも知れませんよ?」


 宮廷道化に慰められるなんて経験はおそらく王族以外では経験したことはないだろう。自分がそうだと伝えることはできないが……なぜなら理由を言えないから。

 やぁ、みんな!あの愚かなる愚者から慰められたんだ。なんでかって?実は息子が初恋の相手に手を出して子供を産ませたんだ。それが王太子妃殿下で2人の王子の祖父になったかもなんて言われたら慰めてくれたよなんて酒場の冗談でも殺されるかも知れないな。


「それが、国王陛下を殺すことを命じる理由ですか?理由になりますか?」

「疑惑は疑惑だ。無理に消せば怪しまれる、上層部には一定の情報を流す。フリードリヒは父親がジョージでないといいつつその可能性を残すし匂わす。どちらに転んでも王家の血だと思わせる。これは賭けだ……もっとも勝つか負けるかは人の身では知りようがない。誰の子供かわかるわけがないからな。疑惑は疑念を生むが王家から王冠が離れるよりはよいと判断するであろうさ」

「王子を始末してという手段もあります」

「惚れているのはジョージ殿下だけではないのですよ。妻をなくした次期王太子殿下は新しく妻を娶る気は無いそうで……」

「そもそも周辺国に適齢の人間はいない。ロバツは論外、帝国とはあのザマだ。公爵家と婚姻を結んだ以上は国外は王家より公爵家を注視するだろう。わざわざサミュエル王家に人を送ろうとは思わんだろうし、帝国に敵対している国ですら公爵家と交渉している、とレズリー伯爵が報告してきた」

「国内から……」

「上2人を押しのけられそうな家柄で適齢期の女性は?グリゼルダが選ばれた理由を思い出せ、他にいなかったからだ。今から5,6年後に誰かを嫁にしたとして押しのけられるか?一方的だとはいえ愛する妻との子供を、あれだけ結婚を嫌がって、結局その後想ったところで何も伝わらなかったのに。そのうえ王子2人が死んだらどうする?そもそもあやつに子供が作れなかった時にはさらなる絶望が待つことになる。それならばもうグレーでいいのだ、奇跡でいいのだ。計算してもどちらが父親かわからないのだから……成長したときにわかる、この情勢で必要なのは不確かで不確実なものより優秀な王であってほしい。ジョージのように恋愛ではあの結果だったが能力は確かであった。それを期待したいのだ」

ハーバー「(どうせ公爵家が数代後には王家を継承するであろう、和解に成功すれば引き伸ばせるかも知れないがいつかは飲まれる。血筋が確かであるのは公爵家でも使える建前なのだ)」

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