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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
老人の回顧録、あるいは内側の真実

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老人と宮廷道化師

 沈黙の続く部屋に愚かなる愚者が来たのはどれくらいたってだろうか?友人から自分を殺せと言われた私は困惑と混乱に支配された精神を落ち着かせることに必死であった。


 ハーバーは目を合わせず、窓の外を見ている。

 私は彼の横顔を眺め、テーブルを眺め、書棚を眺め、視線の行く先を迷わせていた。

 ノックもなく入ってきた宮廷道化師に目線を向けた時、ようやく目線の行く先を定めることができた私は安堵で胸をなでおろした。


「お呼びですか?国王陛下?真面目な話とお見受けします、なにせ……」

「そうだ、グリゼルダの事を伝えてやれ…………。すべて、隠さず」

「宮廷道化師の発言を信じるかどうかですな?嘘つきの発言を信じる人間に仕事を任せられるのですかな?宮廷道化師は宮廷道化師、所詮は哀れな道化師。他人を小馬鹿にし、それらしいことをささやき、自分がなすことをなしたと思わせるためのもの。何かあれば私のせいにできますが、私を信じたほうが悪いともいえますな。おお、私は愚かな宮廷道化師……私より愚かなものがいるとは信じられません!宮廷道化師より愚かな貴族がいるようではお先は真っ暗!公爵様に雇ってもらわねばなりませんな!今よりいい仕事をしたいという気持ちは宮廷道化師には必須なのです。私は忠実ですからな」

「言いおるわ、伝えよ。私に伝えたように、だ。忠実なる宮廷道化師よ」

「おお!なんたること!これ以上リッパー男爵をこれ以上に打ちのめすとは!公爵家もここまで打ちのめせなかったのに?もしやリッパー男爵はロバツの間者?それとも公爵家を打ちのめせないから御友人をいたぶって、打ちのめして、勝利を宣言するのですかな?」

「勝利なぞない、王家にはない」

「もう一人増やせばいいのではないですかな?」

「今更増えたところで年齢差は覆らん、継承も、成長まで待てぬし……どうあがいても滅びが先なのだ」

「おお、何たること!ではどちらも増やせないのですな」

「私は増やせない、情勢的にな。これ以上は無理なのだ、ウィリアムも増やせない。増やすまい……。あやつは心が弱いのだからな」


 なんの話をしてるかわからない私はただただ2人を見つめることしかできなかった。


「理解されていないようです」

「これで理解できるのなら気がついていただろう、あえて目を閉じていたかも知れないがな。もうよかろう、お前の優しさと気遣いはわかりづらいし付き合いが短ければ意味もわかるまい」

「仕方ありませんな、本当によろしいのですな?」

「…………言わずに受ければよかったのだがな」


 おどけた動作を止めた愚かなる愚者はこちらをじっと見つめるときっぱりと話した。


「迂遠な言い方と衝撃的な真実を直球で。どちらがいいですかな?」


 私が沈黙していると迂遠なほうがお好みですなと愚かなる愚者は呆れるように言った。私はただ沈黙していたのではなく、おそらく私にとって最も聞きたくない話を伝えられることを察した。だからこそなにも反応できなかっただけなのだ。


「おめでとうございます!お祖父様!あなたのお孫さんは立派に育っておりますよ!リッパーだけにね!」

「……は?」

「お孫さんの顔はご確認しましたか?いえ、ご存知ですか?」

「いや、知らない……どういうことだ?なにが?…………どういうことだ!」

「あははははははははははははははははは!これは傑作!目を閉じていたのではなく鈍かった!何たる哀れ!こちらは王宮部署で道化師として雇う予定だったのですかな!?」

「説明してやれ」

「ここまで鈍いのであれば直球ですな。ジキルは誰と恋仲だったか知っていますか?」

「いや、知らない……。聞いたこともない……。誰だ?誰なのだ?」

「素敵な従姉妹がいらっしゃるではないですか!」

「まさか、ハーバー……?アガサなのか?」

「おお、これは致命的でいらっしゃる。いいや、目を背けておられる、なぜそちらがでてくるのか?罪深さからか?自分の愚かさにようやく気がついて現実逃避したのか!仲のよろしい方がおられたでしょう?ジキル様が幼き頃からの片思い、そう!急遽婚約と婚姻を結ばれた我らが第1王子妃殿下がおられましょう!」


 バカな、そんな……。


「おお、何たる愚かさ、自分の思いは伝えることができたのに、そのために動くことはできたのに!息子のことはなにも理解していなかった!」

「嘘だ!」

「嘘であればよかったですな!ああ、第2王子殿下の死は賜死であったが……果たして果たして?」

「嘘だ!嘘だ!この……薄汚い宮廷道化師が!私を貶めても息子を貶めるか!」

「そこは第1王子妃殿下か第1王子殿下ではないかと思いますがね!息子想いでよいことです!それが伝わっていれば息子の思いを知っていたでしょう、なぜ知らないのか?親の心子知らずとはいうものの子の心親知らずとはこういうときに使う言葉であるというのは宮廷道化師として働いてきた私も適切すぎて全く泣きそうなくらいです!ああ、涙を描いてくればよかった!悲しや悲しや、悲劇は連鎖するのだ」

「ハーバー!このような……このような!宮廷道化師を信じるというのか!」

「余の参謀だ、リッパー男爵。そして私の相談役だ、ジャック」


 ハーバーの目を見た私は確証に近いものがあることを察して沈黙した。

愚かなる愚者「宮廷で殺したい人間ランキング1位でございます。私としては投票した人間を殺してやりたいところです。宮廷道化師のユーモアを介さない人間がどうして貴族など出来るのでしょう」


ガルニ・ライヒベルク公爵「すべてがムカつく、素手で殴り殺したい」

アザト・ライヒベルク公爵夫人「一生口を閉じていてほしいわ。存在が不快」

ゲハルト・ライヒベルク公爵子息「相手したくない」

アリア・ライヒベルク公爵子息夫人「ジョークと罵倒の違いをわかっていない。地位がなければ殺してる」

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