老人と友人
公爵家が怒りを露わにし交渉する前から決裂したという話を聞いたのは葬儀から少し立ってからだった。その上、公爵家が王家に暗殺者を送り込んだと公言したうえで自分への暗殺未遂について書状で糾弾したのだ。
私はリッパー男爵として久々に会議に呼び出された。
「まず先に……ジキルが亡くなった日にグリゼルダが服毒自殺をした。それを公表する、表向きは治療中と言うことになっていたが公表する」
「はい、わたくしめが亡くなる前にお会いしました。ジキル暗殺に対してひどく動揺しておられました、これは間違いありませんね」
愚かなる愚者が比較的真面目に話しているのに違和感があるが宮廷道化師として参謀役もやっていたのだから参加者たちは見慣れているのであろう。平然としていた。
「公爵家は関係がない、これは確かだ。なぜ交渉がこうも決裂するのだ?具体的な話し合いすらしていないのに罵声を浴びせられたのはおかしかろう。当代の公爵は最低限の面目を立てるくらいはする、その上暗殺を公言するなぞ明らかに落ち度があったのではないか?蛮族支援に関しても打ち切っているはずであろう?シャハト」
「はい、打ち切っております」
「なにが逆鱗に触れたのだ?蛮族支援を継続しているのならまだわかる、だが今後は冤罪への謝罪も蛮族支援に関しての公的な謝罪もすべて含めるし、対蛮族戦の功績も再評価するしさらなる自治権付与、公国化すら提示した。しかし暗殺未遂とは誰がしたのだ?いや、この期に及んで独断であっても王家が動いた時点でどうにもできんな」
「わたくしめが考えまするに、暗殺はポーズではないかと思われます。確かに此度のことが表に出ればすべての貴族も国王陛下が死んでも明日の食べる食事にも関係ないと割り切るでしょうが、どれだけ折れるかを確かめているとも思われます。かといってこれ以上折れるには王位でも渡すしかありませんがね、案外あっちの方が良い王様になるかも知れませんよ」
「おお、キツイな。宮廷道化師だからこそ許されるわけだ。それで?」
「さぁ次期王太子殿下か、その子息を殺すくらいは見せしめとしてはちょうどいいと思われますが」
「……国家の価値にしては安いか。リッパー男爵、王宮部署と言い切れるか曖昧だが王宮医師団で働かないか?暗殺を警戒してほしい」
「承りました」
「では医師として後で部屋に来てくれ」
対公爵家の会議は続く中で、愚かなる愚者は公爵家との対決は決して口にしなかった、それは冗談でもいえる状況ではないことを感じさせ特にシャハト財務大臣あたりは今後戦争になった時の支出のことを考えたのは吐きそうな顔をしていた。
会議が終わり部屋に入ると王としての仮面を外したハーバーがソファーで横になりながら待っていた。
「ジャック、お前の仕事を伝えるぞ……。私を殺せ、限りなく公爵家の仕業に見せるようにだ。本当に殺すのだ、生きてるように見せかけるではなく。今はまだライヒベルクも食料を王国に売っている。だが私が生きている限りそれは縮小するであろう、暗殺にかける時間は数年、これがじわじわ縮小していけばいざ私が暗殺されたときにには完全に公爵家の支配下になるだろう。自ら撒いた種とはいえ流石にな。それに税金問題だ。公爵家の影響力がある、あるいは公爵家に同情的な家が税の払いを公爵家に対する問題を理由に拒否している。暗殺未遂に関しては表沙汰にはまだなっていない、公爵家がいたのか、あの会議のメンバーが漏らしたのかは定かではない。お前はとにかく医師団を掌握して私を暗殺するんだ、その後は税金を払わないと言ってる家も国王暗殺がなったのなら溜飲も下がったであろうと再度納税を進めることも出来るし、食料の売却の縮小も理由がなくなる。私を殺さなければ王国は途絶えるぞ」
「私にそのようなことが出来るわけないでしょう、なにを……」
「数々の間諜と貴族を葬ってきたお前が私程度を殺せないわけがあるか。ペンの一本もあれば人を殺せるお前が?医者の立場があって私を殺せない?深夜に首をはねても構わない、必ず殺せ」
私の沈黙をどう受け取ったのか、ハーバーはさらに詰めてきた。
「必ずやってもらわなければならない、たのむジャック。息子は彼奴等が支えてくれればなんとかなるはずなんだ!」
「それはハーバーだからであってウィリアムであったらそこまでの熱意を持って支えられるかわからない、現に人望は……」
「お前たちを軽視するほど愚かであるなら公爵家に委ねよ、お前ならそれが出来る。バンサ伯爵家がない今は貴族間の調整ができない、完全な失敗であった!なぜライエン侯爵はバンサ伯爵を潰したのだ!ライエン侯爵もその後なくなったから後任で貴族間調整をできるものがいない!マルゴーでは無理なのだ!やつはシャハトの言いなりだ。シャハトはレズリー家とも揉めておるし、レズリー家もロバツ戦以降は王家に対しても辛辣な面が出てきている。あの敗戦が痛かった、冷遇していた公爵親子が苦戦していた宿敵ロバツを撃破してその公爵家にも報いず挙句の果てに冤罪騒ぎ。アルベマー伯爵家も離れて久しい、王宮部署は馬鹿者の巣窟になり、ウィリアムにおもねるだけで職務を果たしていない、お前を監督官に戻してもお前が就任する前の事件で責任を取らされるだけだ。頼む、息子ではなくこの国を頼みたい。公爵に委ねても良い、とにかく私に振り回されて死ぬ国民は見たくない、これ以上私に罪を重ねさせないでくれ」
「私に友人は殺せない」
「では殺す理由をやる、殺せ!」
「命令でも私にはできない、私は生粋のリッパー家ではないんだ。友人を殺すほど……」
「姉は殺したのにか!リッパー家の忠節を継いだのがジャック、お前ではないのか!」
「私は殺していない、王家の命令ではないのか?」
「…………そうか履き違えていた、そうか……俺は根本的に間違えていたのか。だが、お前は俺を殺すだろう」
そういった後、ハーバーは廊下に出て愚かなる愚者を呼ぶように言った後、2人が部屋を出るまでなにがあっても来ないように言いつけていた。
ハーバー「お前キンゼー一族殺してないの!?」
ジャック「殺すわけ無いでしょう!?」




