老人と情勢の悪化
ウィリアム第1王子の婚約と婚姻結婚が即座に挙げられる中で王太子の座は未だ謎のままだった。私としてはジョージ第2王子が継いでくれた方が良いが……。
「あなた、本当に良いの?」
「全て良くなるさ」
私は第2王子に肩入れしていた。本来であればリッパー家は王家に中立ではあるのだがウィリアム王子はどうにも。横暴が多いのだ。
ジキルあたりは公然とではないが侮蔑に値する、なぜあのような人間が国王陛下から生まれたのかわからないとすらいっている。私からしたらジョージ王子のほうが不思議だが、姉上の血だろうか?アーチボルト先輩ではないな、あるいは祖父とか?
継承戦争はジョージ王子が有利に進み、さてこれで時代は安泰、兄上も帰って来るであろうと思った時事件はおきた。
ジョージ第2王子賜死事件である。私はほぼ部外者であったため後でこれ自体は事件直後に伯母上から聞いた建前であるがグリゼルダとジョージが不義密通をしていたらしい。本人は否定していたが状況的に間違いないと言い切り決行された。
ジキルに聞いてもありえなくはないが言い切るほどとは思えないと言われた私は叔母上に確認を取るものの先程のようなことを言われた。
「私は第2王子領の解体に赴く、次期宰相としてこの危機を乗り越えねばならん。もし……いや、ジャック、お前の好きにしろ、死んだあとのことまで私が面倒見きれるか。お前ではないならお前が好きにしても文句を言う気もない」
なんのことかはわからぬが叔母上は話を一方的に打ち切り第2王子領へ赴き、暗殺された。表向きは病死だがマルゴーにそう伝えられた。それから程なくして久々に王城に呼ばれた私はハーバーから様々なことを命じられた。
「蛮族を支援し公爵家を潰せ、シャハトと協力してやるように。ライエン侯爵暗殺は公爵家ではない、公爵との和解を提案していたしなする理由もないと思うが、ジョージを賜死に追いやったのは間違いなく公爵家だ。仔細は言えんが……頼む」
二つ返事で協力した私はシャハト財務大臣と協力して大規模な蛮族支援を開始した、商人感の連携を乱すために公爵家の商人にそれとなく嘘を吹き込んだり、公爵領の貴族の息子に嘘を吹き込む工作に出た。殺し以外で私にできることなぞこんなものだな。
報告のため王城に赴くと、いつも覇気が歩いてるかのようなシュライヒャー伯爵が殺伐とした雰囲気で歩いていた。
「リッパー男爵ではないか、ふん……私は知っているぞ?」
「何をですか?」
「…………いや、なんでもない」
殺伐とした雰囲気が哀れな囚人を見る目に代わり、ほんの少しの気遣いまで感じた。この時期のシュライヒャー伯爵は冤罪を着せられていたため、私が主犯だと思っていたのかも知れない。やったとしても妻だろうが意味もないし否定していたので違うだろうと前向きに考えていた。これくらいで気がついても良さそうなものだったのだがこの後シュライヒャー伯爵が一族と部下をつれて逃走したという話の前ですべてが吹き飛んだ。そのうえ公爵家が蛮族との対決に向けて支援がないのだから自前でやるのが当然なので今後の納税はしないと宣言をしたのだから混乱しか起きなかった。
後手に回ったリッパー男爵家はおそらくシュライヒャー伯爵は蛮族領域ではないか?というあたりしか掴めずに終わり王宮部署からはまたも使えぬと思われた、今の細かい仕事は王宮部署なのでその評価は自分たちに返ると思うべきなのだが何分私が第2王子に肩入れしてたせいもあって第2王子派粛清で質も落ちたのでその程度もわからぬだろう。そのうえこの後の報告後にさらに質が落ちるのだから
「以上を持って蛮族の派閥は……」
「停止を命じよ」
「は?」
「シャハトにも停止を命じるように、あのこの髪の色は金だ、ジョージは茶色……ありえぬ」
父の色を必ずしも継ぐわけではないとは思いますがと言いたいが茶髪のほうが濃く出るはずではあるので銀髪と茶髪で金髪が出るよりはよほどであろう。あるいはこの体型を計算すればなにかの役に立つかも知れないが同時に王家の血が絶えてる事実も発覚するやも知れないような研究に了承はできまいとなるほどと言った。
なにより息子を殺さざるをえなかった私の友人であり同じ父親であるハーバーにわざわざ傷跡をえぐる真似をしたくなかった。
「公爵家は流石に感づいているか?」
「どうあがいても感づきますから」
「公爵家と和解を図るには強固派の始末が必要だ、公爵への復讐を訴えるジョージの、私がけしかけたのにな……」
「では……」
「粛清が先だ、それまで和解は公言しない。対決姿勢を示しながら蛮族支援領の減少を命じる」
私的な話を終えた私はシャハト大臣にそう報告すると理解したとだけ言ったのを聞いて出ていった。
それからまもなく公爵家の納税拒否の余波による国庫の問題が起き、会議の最中宰相が心臓発作で急死した。
今後の王国はどうなるのかと悲しむまもなく、私のもとに姉上たちが全員急死したという知らせが来たのだ。
それは明らかに暗殺であったが私は黙るしかなかった。
一部では私がやったことだと思われていたし、ジョージ第2王子の強硬派には当然ながらキンゼー男爵家も入っていたのだから気を使われたのかもしれないし、あるいは踏み絵にされたのかもしれない。
こうして私の一番の肉親たちは私の元を去っていった。
シャハト「理解した(そうするとはいっていない)」




