老人と政変
ライヒベルク公爵家は戦争に勝った、ロバツとサミュエル王国は負けた。そうとしか言いようがなかった。
結果として国王直営軍はロバツにあっさりと負け、ロバツの逆襲を許す羽目になりライヒベルク公爵家の勝利を台無しにした。
その上、我々が弱すぎたためかロバツがサミュエル王国に深入りしすぎたため決戦を放棄して撤退。ライヒベルク公爵家が逆侵攻してる隙を突いて後続部隊がサミュエル王国侵攻の後続として迫っていたが、ここまで離れて合流してしまうまで待てばライヒベルク公爵子息の軍が打通するか、オーランデルクを叩くか、後続部隊を叩いてしまうことを恐れたようだ。
つまり我々が攻撃せずに待っていれば、敵部隊と後続部隊が合流して決戦に持ち込めたのだ。そうすれば伯母上あたりも時間的な余裕ができて合流できたであろう。
この期に及んでそんなこと言わねばわかるかとライヒベルク公爵を非難するロバツ攻撃のいいだしっぺのアルタイル伯爵に責任を着せ、戦死ということで処理した私は叔母上から大層怒られることになる。
「総司令部に軍人はいなかったのか?この程度のこともわからず?正気か?アルタイルに責任を取らせるのはわかるがお前たちの責任でもあるのだぞ?軍事がわからぬのであれば誰かを置けばよかったのだ!他部隊の合流を待てばよかったのだ!なにが悲しくて直営軍だけで敵を攻撃した挙げ句各個撃破までされるのだ!友人にちゃんとした領地持ち当主を置いておけばこうはならなかったであろう、下策も下策だ!ライヒベルク公爵家の人間は誰か来たのか!」
「ロバツ撃破後にロバツが撤退したので後退するように伝令を出しました」
「馬鹿者!戦争はまだ終わっていないのだぞ!講和も停戦もなっていない戦争は継続しているのだ!では公爵の軍はどこへ行ったのだ!」
「では公爵領に戻ると」
「引き止めぬか!その場で恩賞を約束するくらいしなくてどうする!」
「しかし、それは戦後の王宮でやるものでは……」
「お前は、お前というやつは……。ジェーンがもう少し元気であったとしても陛下のお傍では働けぬか。ではダメか……。お前に王宮部署の仕事と政治的な仕事をきちんとやらせて顔合わせもしていなかった私の落ち度だ。すぐにああなったからな。無念だ、ガルニに合わす顔がない……」
据えての責任をアルタイル伯爵がおったものの我々の失態は疑いようもなく、国王陛下御友人と揶揄された私達は完全に遠ざけられた。
「親父、文部省退任になったよ。アルベマー伯爵から大層嫌味を言われたそうだ。まぁ仕方ない、そもそも俺は戦場でなにもできなかったしな。親父の足を引っ張りすぎた。俺も文部省を退任するようにやんわり同僚から言われているから今月辞めるよ。小説もヒットしたしな。それと嫁の小説が10万部売れたんだ、親父の書籍をあさりながら小説家するのも悪くない」
フォルカーは文部省を退任した。
戦場に出なかったパドは無難に仕事をこなしていたため王家家令の一人として圧力をかけられることなく過ごした。
私は王宮部署の息のかかった人間からリッパー家の資格なしと判断され大半が疎遠になった、ジェーンには忠実であるので私は間諜とオーランデルク派閥貴族を狩ることにした。
「ジキル、すまないな。お父さんがもう少し優秀だったら……できることは血を見せることだけ。こんな仕事を注がせるしかできない、教えることしかできぬ私を許しておくれ」
「大丈夫だよ、お父さん!僕がきっとリッパー家を建て直してみせるから!」
息子は優秀だった、間違いなく妻の血である。贔屓目に見ても同年代で一番優秀だと胸を張れた、私に似ているのは体の丈夫さくらいだろう。
「グリゼルダちゃんと遊んでくるね!」
「ああ、行っておいで。成長すると遊ぶことも難しくなるからね」
叔母上に時に報告しながら家族で過ごす日々はもしかしたら一番幸せだったと思う。同い年のグリゼルダと遊ぶジキルを見ながらこんな日が続くことを祈っていた。
ライエン侯爵嫡男のマルゴーのもとにピアも生まれ伯母上もだいぶ丸く思えた。
私が完全なる失脚をしてからそれなりの月日が立ち、ライエン侯爵邸に呼び出された。誘いではなく呼び出しというのが珍しいと思いながら応接室に入ると兄上と伯母上が顔を突き合わせていた。
「どうして兄上が?」
「…………そうか、わからないか?」
「いえ、まったく。兄上もとうとう結婚ですか?うちのジキルではなくピアを見て変心したのは悔しいですが……」
「いや、違う。結婚ではないよ」
真面目な顔を崩した兄上は冗談の用にいった。
「俺を殺そうと思ってね」
「は?」
「グリゼルダが婚約する話は?聞いたの?」
「そうなのですか、おめでとうございます。ご相手は?」
「あなた、本当に間諜殺す以外興味がないのね……第1王子よ」
「ああ、そうですか。やりましたね!ライエン侯爵家は……あれ?」
「気がついて結構、バンサ伯爵家の長女から次期王太子有力の第2王子母、そして第1王子伴侶がライエン侯爵家になったら?」
「い、いや、しかし歴史あるバンサ伯爵家ですよ?」
「だからだよ、空位にして王位が定まったら帰ってくればいいからね。第1王子だったらずっと空位でいいか。最悪の場合ジキルの子供にでも継がせてくれればいいさ」
「では兄上はどうするのですか!」
「そりゃ、孤児院でも回るさ。子どもたちはオドニーという伯爵じゃなくてオートリカスって道化師が好きだからね。金ならあるんだし趣味に生きてみるよ。俺は子どもたちに笑顔を与えたいんだ。親父や姉上やお前が伴侶に愛を与えたいようにね」
「これは決定よ、バンサ伯爵家で伝えるわけには行かなかったのよ、じゃあ……」
「ええ、わかりました。どうなるかわかりませんがそれで伯母上を恨むことはしませんよ」
「あら良かった、殺しに来られたら困ったから」
この会話の意味に気がつくのはだいぶ後のことだった。
レズリー家「貴族こなかった?」
孤児院「来たよ」
レズリー家「どんな人だった?」
孤児「いっぱい来たし覚えてない」
レズリー家「バンサ伯爵自体は格好は趣味でやってるだけで孤児院自体はそうでもなさそうだな、あの格好ができる理由があればんでも良かったんだろう」




