老人と男爵位継承
「不本意ではあるが、王子の借金をその身に背負っていたそうだな?それを返済するために骨を折っていたとライエン侯爵から聞いている、ライエン侯爵からそう言われたしハーバー王子殿下もそう言っている、確かだな?」
サッチ・リッパー男爵に詰められながらも、言外にそういうことにしておけよという圧を感じた。
「はい、そのとおりです」
見事に嘘をついたものだと思う、ギャンブルをやるやつは保身の嘘だけはうまいものだ。なぜかギャンブルの最中の嘘は弱い、パドなんてひどいものだ。
「それならば仕方あるまい、忠臣を持った次期王太子も心強いだろう。リッパー男爵家は忠臣の一族だからな。だから……」
リッパー男爵としてその責務に耐え、能力なくば死ね。
笑顔では吐かれた言葉に顔を硬直させてはい、と返事をしたと思う。
ジェーンは体が弱かった。リッパー男爵家としての差配は問題はなく、実技も問題ないが行動時間がリッパー男爵家の仕事をするには短いのだ。子供も一人にしろと言われた。
それでも一般貴族よりは遥かに頑強だと思うが……。
「ジェーン!僕達は結婚できるんだ!」
「まだ私は名乗ってもいないのですけど……。その、まず……私はそんな望んで結婚するわけではないのですが……」
「問題ない、結婚してから君を私に惚れさせて見せる!」
「…………」
思い返すと彼女から自己紹介された記憶はついぞなかった。
婚約式でも誓います!とキスをした記憶を覚えている。つまり貴族的には私はどこまでも欠陥品だったわけど。妻も私を見て呆れていたのか、躾されてないペット感覚だったのかどちらだろうな。
「作家仲間の集いでキャステット子爵令嬢のアンドニー嬢と親しくなった、家も乗り気でな。婚約したよ!キャステット子爵位に興味はないから妻の保持でいいしな。話が早かった」
「おめでとう!フォルカー!」
「あとは文部省でほそぼそ食ってくだけだな」
「羨ましいよその文才」
「アンドニーは俺より文才があるけどな、アレは将来王国一番の作家になるぜ!」
それは半分あたった。アンドンキャスの名前は王国に響き渡り、ブロンテが名作を綺羅星のごとく書き上げるまで大陸に名声を誇っていた。
当の本人たちはブロンテ先生は素晴らしい……と布教活動とネタ提供に熱心だったが。
そういえばキャステット子爵家は伯母上が選んだ婚約候補だったなと思いながら、ジェーンに会わず流されていたらこの時私達はどうなったかわからない。ライエン侯爵家の婚姻の紹介を断れるとは思えないから。
「イタ伯爵家のアザト嬢はライヒベルク公爵家に嫁ぐそうで……」
「おやまぁ、そういえばベガ子爵家も婿を迎えるとか」
「イタ伯爵家の爵位はどこへ?」
お祝いムードと言うより策謀ムードに溢れていた。ハーバーは忙しく参加できなかった、忙しくなくても出来ないだろうが。
「お前ほど頭を悩ませた甥はいない、婚姻を避けてる理由があるオドニーのほうがマシだ。だがおめでとう」
伯母上からの祝福も嬉しく、いまだに腫れが引かない頬を引きつらせて感謝をした。
それから次期当主としてそれこそ死に物狂いで技術を身に着けた。
幸か不幸か、医術に関しては何故かできた。兄上が言うには才能は見つけるものらしい、兄上は自分は道化の才能があるのさと笑っていたが、間違いなく当主の才能があり、バンサ伯爵家として貴族の調整をする能力があった。
本人の生き方ではあまりあってはいないのだろうが。
ようやくリッパー男爵家としてのノウハウが身についた際に義父上がまぁこれであとはジェーンと組めばよかろうとようやく正式な結婚式を上げることになった。
本来なら別にしなくてもいいらしいのだが忠義熱いリッパー家として国王陛下に報告をすることになった。貴族間の婚姻は案外ゆるかったのだ、同格の貴族も減っているからな。
その際にハーバーに久々に会い話をしたことを覚えている。
「オーランデルクからオストレア王女が来る、私も結婚だな。バランスの関係でアガサを娶ることになった」
「アガサ?」
「お前の姪だ、なぜ知らない……?」
正直なところ、姉上も馬鹿が移るという理由で私と子供を合わせなかったので性別すら知らなかった。最も後年は不良貴族子弟の前のような付き合いに戻ったのだが。
「とにかく、アガサを娶るが良いな?」
「顔も知りませんし……。アーチボルト先輩はお元気でしたか?」
「顔も見せなかったな、臥せっているらしいが」
結局、アーチボルト先輩にあったのは結婚後の一族肖像のときだけで結婚式に出ることもなかった。
「信頼できる人間がリッパー家を継いでくれて嬉しいよ、対外的には色々言わざるをえないが……。お前の借金は私の借金ということにしてやったんだからもっと感謝してくれてもいいだろう?」
「おかげで世界一の妻と結婚できます、リッパー男爵家として頑張らさせていただきますよ」
「ギャンブル以外で頼むぞ」
「妻への告白が最後の大きな賭けです。これ以上はありませんし、やりたくもありませんな」
「オーランデルクから来るのもそれくらいい女性なら良いんだがな。アガサくらい」
「アガサとはよく会うので?」
「アーチボルト先輩の家に行くとよく顔を合わせたしな。お前は付いてこなかったが」
「姉上から嫌われていましてね、それにしてもよく王子の身分で行けましたね」
「なに、アーチボルトの取り巻きのふりをすれば案外わからんものさ、誰もが王子を見たことあるわけではないしな」
このときは未来が明るく思えた。
グウィネス「それ本当?」
アーチボルト「はい!女遊びはジャックから教えてもらいました!(ごめん命が惜しいんだ)」
グウィネス「全然弟は女遊びしてなかったじゃねぇか!ええ!?お前もう家から出さねぇぞ!隠し子いたら切り落とすからな!」
アーチボルト「はいぃ……(嘘はダメってことだな)」




