迫る終わり
「憶測を恐れないのであれば私の手は血に塗れることはなかっただろう」
「……そうだな」
「どこで歯車が狂ったのか、何がきっかけで壊れてしまったのか……。それはわからない」
それに今更わかったところで公爵家が振り上げた拳を下ろすとは到底思えない。
「やはり……味方するべきか?」
「力もない我々がどうやって?王宮部署が解体されたのは大昔、あの次期に解体されたのは王宮部署だったものだ。仮に解体を逃れたところで私の、私達の力ではない。君はメイドと侍女をもがれ、私は両手両足を奪われた。そして私の両手両足は公爵家との対立が悪化する前にもがれている。今更……」
「どうする?この情報を持っていくべきか?」
遅い、どうせもう掴まれている。
王太子選定会議が終わったら辞表を出して逃げるか、それとも……ハーバーの後でも追うべきか……。
「おそらくもう知っているだろうさ、バンサ伯爵のことを伏せておいたほうが効果的だったのにキミに伝えたんだ」
「つまり、王太子選定会議にぶつけたと?」
「昨日1日で掴まれたのか、もっと前から嗅ぎつけられていたのかはわからない。我々がわかることはピアはあちらを選んだということだ。ピアは今?」
「職場待機だ」
「暗殺されたら君のせいだな、未遂でも」
「まさか、それで私を排除するつもりか」
「いや、今の私達には排除する価値がない。国王陛下も君を排除したら王家家令の後任もいないし大変だろう。国王陛下にそんな真似が出来るのかね?」
「できないだろうな」
そうならば疑うとしたらヴィルヘルム王子がパドを排除して適当な人間を王城家令に据えてといったところだろうが、そこまでの手駒があるようにも思えない。
「では、安全ではないか?」
「バンサ伯爵をメイドの仕事場で待たせていたという評判は王家には刺さるだろうよ、貴族連中ならば当然。たとえ仕事に来たとしてもだ……今頃誰かに目撃されてるかも知れないな。服装は?」
「立派なドレスだ……登城にふさわしい」
「ならそれが目的だ」
それを聞くと踵を返すようにパドは出ていこうとした。
もう遅いというのに……。
「手遅れだよ、ここまでの距離を考えたらどうあがいても目撃されているだろう。扉でも開けておくのではないかな」
「今日は王太子選定会議だぞ、あんなところを誰が通るのだ。王城になぞもう人はよりつかないだろう」
「本気でそう思うなら踵を返そうともしないだろう?今日は千客万来だろうな、委任状を出していた人間も参加するかも知れない。あくまで国王相談役と各大臣は最低要件であって王国の有力者自体が参加を望めば参加はできるからな」
「しかし……誰がそれに許可を?」
「使っていない剣があるからと言って剣そのものが無くなったわけではない。宰相だって大臣だって許可を出せば連れてこれるさ」
「内務大臣か……」
「司法大臣かもね、まぁ何だって構わないさ。我々はすでに崖っぷちだったのだ。最後の希望の灯は消えて久しく、太陽が我々を飲み込む時が来た。因果応報、罰が下るのだよ」
「公爵家が王家を降すとは思っていたが、私が死ぬまでは持つと思っていたよ」
「私もそう思っていた、婚約の失敗でどこまでかとは思ったがね」
「それはどちらの?」
さて、どちらだったか?フリードリヒかヴィルヘルムか……。
「どっちだったかな」
「返す返すもあの事故が残念でならない、公爵家が手を下したのではないのか?」
「ありえない、あれは近衛騎士団の無知による事故だ。夫婦岩の上に乗って警備だと?連中は最低限の脳みそすら持っていないのか?貴様らの馬鹿げた警備で王位継承者とその婚約者を殺しておいて男爵家に責任転嫁をした挙げ句に逆襲されて粛清だと?私が指揮していたらそのような無様は……いや、忘れてくれ。なんにせよすべての対応がまずかった」
「提言は?」
「聞き入れるお方なら私は名誉職なぞやってはいない」
葬式も合同で行わない、宰相の立ち回り、王家の立ち回り、すべて最悪だった。あれで離反しない人間がいたら教えてほしいものだ。
それは離反しないのではなく確実に自分の手で殺したいだけだ。
「1年だ、1年だぞ!近衛騎士団を粛清して挿げ替えて、王太子妃殿下……アーデルハイド嬢が引き入れた人材と派閥をかっさらっていった、フリードリヒ殿下に協力的な派閥は全滅だ!全滅だぞ!」
「派閥が解体されただけだろう?それとアーデルハイド王太子妃殿下とお呼びしなさい。死後はあの世で結ばれてはいるでしょうが……。それくらいの敬意を持つべきだ」
「ああ、すまない……。そうだなフリードリヒ殿下は首ったけだったからな。乱心かと思うほどに」
「乱心ではあるかもな……。公爵家と婚姻を結ばなかった事を考えてもそう考えるのは当然だろう?そもそもが王太子妃殿下がエリーゼ嬢から紹介された人間を王太子殿下に紹介しただけだ。実質寝返ったわけでもない、橋渡し気分だっただろう……。それが橋渡しか本心から王太子派になるかもわからぬうちからあの事故だ。もとにもどるのは普通のことだろう?君だって戻るだろう?」
診察用の椅子にどっと座り込んだパドは俯きながら頭をかきむしる。
「…………ハーバーがいてくれたら」
「言うな、言わないでくれ…………。それだけは……」
「すまない……」
ピア「やっほー」
通りがかりの高位貴族「あれ?ピアちゃんおめかししてどうしたの?」
ピア「いやーここ待機だって言われて」
通りがかりの高位貴族「俺もまだあいてるしポーカーする?」
ピア「喜んで」




