旧友2人
「ピアがバンサ伯爵家当主になった!事実上の……!どうするべきだ!?」
「落ち着け、パド」
すでに私達は負けたのだから。
その言葉は飲み込み長年の友人であるパドをなだめる。顔を真っ赤にして入ってきた彼は今や真っ青であった。
私はこの期に及んでは仕方あるまいという思いもある、さてどれで詰めた?あるいは隙がある可能性もあるが……。
「ピアのバンサ伯爵就任を祝福したのはライヒベルク公爵家のエリーゼ嬢を筆頭に、イデリー伯爵家のキャスリーン嬢、バルカレス男爵のマーガレット嬢、アレクサンダー女伯爵家のアン嬢、アルベマー伯爵家のエリザベス嬢、スペンサー男爵家のジョージアナ司法大臣閣下、レズリー伯爵家のクラウディア嬢、それとマッセマー商会長のローレンス卿とシャーリー嬢で相違ないのだな?」
「ああ、ああ!そういった!言っていた!」
あの家にはもうなにもないと思ったのだがな。なにを掴まれたんだか……。
シュライヒャーが絵画を買い占めていったからもうないと思ったんだがな、まだあったのか?いや屋敷を探しても面倒な絵画はもうなかった。
──もしや絵の下に隠された絵があったか?
すべて見覚えがある絵だったがすり替えたか?いや、私は流石に違和感に気がつくはずだ。すべてを確認した。子供のころからあった絵に間違いはない。あの肖像画も眼は通したが違和感はなかった。
だが公爵家が動いた以上は確実になにかあるだろう。
「ではどうあがいてもバンサ伯爵だな。正式な」
「国王陛下の承認がなければ……」
「建前はな、それで司法省はどこの誰が司っている?その前段階と法務処理をする」
「スペンサー家だ……」
「ハーバーは息子たちをあまり信用してなかった、自分もな。もしも悪用して勝手に爵位を相続したとして国王が否と言った時どれほどがそのとおりだというか。そもそもそのような悪用されない、普通に訴えれば承認される円滑な組織運営を目指していたのだからな。もし自分が否と言っても誰もが賛成を突きつけたら?聞く耳を持たなかったら?だからこの穴を埋めなかったのだ。絶対的な権力は絶対腐敗するのだから……それはどこも同じだ。私もな」
「お前が腐敗したわけではない」
「同じさ……」
私が腐らせたのだ。腐ることを理解できない私が腐らせたのだ。
「おそらく、今日のことだろう」
「王太子選定会議か?癪だが第2王子に護衛を送るか」
パド、君がヴィルヘルムを私的な場で名前で呼ばなくなったのはいつからだっただろうな。
「もう遅い」
「死んだか!?」
隠せぬ笑みを見せる旧友に少しだけ吹き出しそうになりながら私は答えた。
「笑顔で言うものではないよ、殺す価値がないと言っているのだよ。落ち着き給え。昨日バンサ伯爵邸にマッセマー商会が買い付けに行ったことは?」
「ああ、わかる。金銭的には困っていたようだし……」
「そうか、ではなにかを掴まれたことはわかるだろう?」
「何か……?だが、すべて処分したのでは?」
「私もそう思う、ブラフで動いた可能性もあるが……あのエリーゼ・ライヒベルクがそんな甘いかね?」
「…………だとしたら我々の命が!」
「それはどちらの意味で?」
「いや、それは……」
「私は君を殺さないよ、ライヒベルク家はわからないが……何か逆鱗に触れることをしたかね?」
「いや、敵対はしていない。それは確かだ。絶対に目をつけられたくないから棺桶のパレードですら気づかぬふりして見送った」
「賢明だ、私も今はただの医者。しかも王から遠ざけられている、それだけさ」
一応は王のために働いたのだがな。一応だからバチが当たったのか……。だが、私にはピアを殺すことはできなかった。どうして私があの娘を殺せようか……。
どうして……殺すことが出来ようか……。
「ではなぜバンサ伯爵家を、ピアを抱え込んだんだ!」
「メイドを抱き込んだらたまたまかもしれないぞ?わからんがな」
「そもそも唯一辞めなかったメイドだぞ?」
「ピアの動きは正直わからない、エリーゼ嬢の取り巻きがバンサ伯爵家に行ったことしか報告がないからな。自分から行ったのかもわからないということだ」
いまや数少ない部下の報告をサラリとパドに見せる。
バンサ伯爵邸に公爵令嬢一派、ピアは無事。公爵家保護下にあり。のたった位置分では把握しきれないがピアが在宅でない時点で押しかけられたわけでもない。
「なぜ?自分から行くのか……?」
「あるだろう、ピアには」
「あの謎のギャンブル強さか、だがそれとて絶対ではないぞ?」
「ピアの賭けは分が悪いときほど当たる、こちらの分がよいことがここ10年あったか?」
「10年以上負け越しているよ、あらゆる意味でな。だが……」
「賭けた時リターンが大きのはどっちだ?我々か公爵家か?」
「公爵家だ」
「それで我々の側はどうだ?」
「手札はブタ、リターンもなし……そもそもピアがこちら側に付く可能性は皆無だ。付いたところで死ぬかも知れないからな」
「自分でわかってるじゃないか、ピアは自分を売れる最高のタイミングでチップにして公爵家に、エリーゼ・ライヒベルク嬢に差し出したのさ。それがこれだ」
「だがピアは知らないはずでは?」
「ああ、知らないだろう。我々しか、後は数人しか知らぬよ。だが憶測だけでもそれなりに被害は出るものだ」
「所詮は憶測ではないか」
その憶測で何人殺したと思っているのだか……。
ジャック「(ムカつく絵だなぁ……)」
ピア「どうしたんですか?」
ジャック「いや、なんでも……」




