ララを操る人間がいたんですのね、とんでもないやつですわエリーゼ!
「…………パス!」
「へ?」
「パスですわ!パス!なんでワタクシがあのバカどもに合わせて考えなければならないんですの!猫ちゃんならまだしも害獣の気分なんか知りませんわよ!」
「一応聞いておくっすけどララは……」
「知りませんわよ……むしろララの動きは?」
「授業がないから引きこもってるみたいっす。毛糸を仕入れたあとは手紙も出さず延々と作業をしてるみたいっすね。食事もまともに取ってないかも知れないっすよ」
「…………知っていると思う?」
「そうだとしたら、最近あったことあるエリーが気づかないくらいっすよね?劇団に勧誘したほうが良いんじゃないっすか?」
「どう考えてもセーター作らせたほうが良いでしょう。流石に自分の欲よりは優先しますわよ?それより、お客様よ?」
レズリーの手のものらしきものが遠くにいるのも見たクラウは右手を軽く上げた。
その人物がトランプのカードのようなものをヒュンと投げるとクラウが受け止める。
へぇー……あの距離でうまく投げられるんですのね?空気抵抗を考えると結構厳しいと思うんですけど。なにかに使えそうですわね……。
クラウはペラ地と紙を眺めるとまるで理解できないようにこちらに渡した。
『ララ、学院へ登校。エリーゼ嬢へのセーターを披露。ライヒベルク公爵家への指示の表明?セーターの出来は最高、遠目から見てもこれほどのものはなし』
「……どういうことですの?」
「こっちが聞きたいっす」
さーっぱりわかりませんわね?知っているのなら別に媚売らずにダラダラ制作中ですとでも言えばいいと思うのですけど。
負けを悟った?だとしたらこんな迂遠な方法を使う必要も……なんで学院に納品を?
「もう少しないんですの?」
「マッセマー商会に行ったみたいっすよ?その後学院に行ったみたいっす」
「なんで?」
「なんでって……普通は授業があるっす」
「…………ああ、納品しようとして担当者もいないから。あれを担当者なしで渡して紛失でもしたら困りますものね。人間魔が差すものですし、マッセマーの人間でも可能性はありますし、もとの契約先でもないから関係が深い人がいなかったら持って登校した方が良いですわね。それで破損するようなこともないでしょう」
「まぁ、小説の世界でもあるまいし平民の荷物を破壊しようって貴族はいないっすね。自分から付け入る隙を作るのは愚かというか……。そもそもララって友達はいないけど別に排斥されてるわけでもないっすしね」
「あら?そうですの?」
「接点がないから困る感じっすよ、実際聞きたいこともないでしょうし、仲介役もいないでしょうし……。でもララから聞かれたら答えると思いますよ……?流石に……。バカ王子と仲がいいっすし……」
「それどっちの意味ですの?」
「バカ王子と仲が良い相手になんかしたら後が怖いじゃないっすか。まえなんてそれ関係で公開処刑されてたっすからね。そもそも平民が貴族学院に入学してたら誰が背後にいるか軽く調べるっすよ。死んだとしても第1王子だったらちょっと触れづらいっすからね」
「死んでも名声はありますからね、そんなもんでしょう」
「大半はエリーの獲物かエリーの差し金だと思ってるっすよ」
「……なんでですの?」
「シャーリーもそう思ってたし、私もそう思ってたくらいっす。別に学院の貴族に訂正に回ったわけでもありませんしね」
「はぁ……じゃあ好き勝手やってるララ……好き勝手やってるのはどちらかといえばバカ王子か。それになにもしないからって感じかしら?」
「当初はララも危ないなって感じでしたけどね。王子が平民に気を使っている、第1王子の推薦があるのでだろうという考えが強かったんっすけど。王子の乱痴気は貴族令嬢や貴族令息なら知ってましたからね、正直触れて良いのかわからないから遠巻きに見てる感じっす。風向きが変わったのがジョンがやらかした時に王子があっさり切り捨てて逃げたこと、本人は学院にいないし後から知って困惑してたことでどうも貴族的知識がなく振り回されているか、公爵家から説明されず送られた人間じゃないかと思われてるみたいっすね」
「ワタクシが第1王子に推薦させられるわけ無いでしょう?あのセーター制作者であると、あの能力を知った上でだったらそもそも囲い込みますわ。学院なんてもったいない」
「学院のみんなはそれを知らないじゃないっすか。ララは謎の平民で第1王子の推薦で入ってきてバカ王子のそばに侍っている事が多い、それに関してエリーはなにもしない。この情報だけならアーデルハイドに頼み込んで第1王子に推薦書かせたんだろうと判断することもやむを得ないっすよ?」
「はー、悪いやつですわねエリーってやつは」
「極悪人っすね」
「そんな迂遠な計画しなくても勝手に落ちるのに面倒くさいことしますわねぇ」
「本当っすね」
「……じゃあララがセーターを学院で見せたことって……」
「まー……公爵家が戦闘開始の狼煙を上げたって判断じゃないっすかね?ララは使いっ走りというか……伝令官?」
「ああ、だから『指示』の表明なんですのね。ワタクシレズリー家にも信用されてませんの?」
「…………」
「…………」
ララ「(なんで王城に向かっているの……?)」
ローズ「私はローズ、よろしくねララ」
ララ「ありがとうございます、私はララです(どうして親友との出会いイベントが今なの……?)」




