そしてキングは奪われた
「いや、うっかり騙されるところだったっすよ。なにせいつも会話してる人間がしれっと話を変えるから流されかけたんすけどね。あなたはそうじゃない。この状況でそこまで愚かであれば命があるわけがないのですから、違いますか?」
威圧された私は再度頷いた。
「結構、ジーナも喜ぶでしょう。あの娘はいささか働きすぎですから。私から見てもね」
私は自分の終わりを確信した。
本来であれば自裁するくらいはしなくてはいけないが、今や実家は無関係だし、おそらく私の情報を流してたのは実家だろう。
そもそも動けない、監視下におかれることは間違いない。ノーマンの処刑と今の状況は全く違う。今や司法省はエリーゼ嬢一派が抑えており、クラウディア嬢が監視までしている中では私を暗殺して有耶無耶にできないだろう。
正直に吐かなければ……。
仮に吐かなかったとしてもまだ2人いる、彼らでは無理でしょう。
なら先に吐いて慈悲を乞うたほうが良いでしょう。せめてひどく殺されないければそれでいい。
弟を人質に取られるのだけは困りますしね。
断絶取り潰しだけは避けねばならない、私を売ってもまだ安心というわけではないでしょうしね。
「弟と家名は残していただけますか?こればかりはお願いいたします!証言もします!断頭台にも立ちます!弟だけは!弟だけは!まだ子供なのです!」
「司法大臣室勤務の人間には同じ立場の人がいたと思うっすけどね」
それを言われるとなにも言えない、見ていた限りは知らないとは言えない。ここで私は悪くないとアピールしたら、この細い蜘蛛の糸はプツリと切れ私と良心と弟を巻き込んで地獄に落ちるであろう。
「………ん、まぁいいか。エリーが受け入れるかどうかっすけどね。せいぜい有益な情報を吐くといいっすよ。エリーは信賞必罰っすからね。それこそ北方組合のような末路にならないよう気をつければいいっす」
「なんでも話します!すべてお話します!」
弟だけは守らなければならない。家が途絶えたら終わりなのだ。両親は売っても家は守らなければならない。良心が私を売ったように、いや失策からしたら当然ではあるのだが。
「最後の質問っす。意図的にアーデルハイドと第1王子の事故の可能性に目を瞑った、あるいは働きかけるようなことをしたか?していたか?」
「……えっ?」
「もう結構。知りたいことは知れました。そもそもが半信半疑でしたからね、良かったですね、エリーに殺されることはなさそうですよ?」
「フリードリヒ殿下たちは暗殺されたのですか?」
「まごうことなき事故死だと思うっすよ?ただ取り巻き連中がバカ王子に賭けてなんかした可能性を私が未だに疑ってるだけっすよ、それだけ」
そう言うとクラウディア嬢はつまらなそうに紙になにかを書き込んだ。
「あ、もういいっすよ。出番まで待機しておけばいいっす。治療は我が家の誰かがしてくれるっす」
「クラウディア嬢がしていただけると嬉しいのですが……」
正直痛くてたまらないですからね。なるべく早く治療してほしいんですけども……。
「え、嫌っす」
「えぇ……」
無慈悲な回答に吐息のような声が出る。警戒されてるようにも見えるのですけど。この状態でなにを警戒することが……。
ああ、縄を解かないといけないですからね。
先程あんなにあっさり私を捉えたのに油断しませんね、したところで私に出来ることはなにもないのですが……。
「私にはなにもできませんよ?」
「いや、触りたくないっす」
まぁ、肩は血だらけですからね……。汚れてしまっては今後メイドのフリをするもの面倒になるかも知れませんし、ここで着替えるわけにもいかないでしょうしね。
「私ので出番はいつなのですか?」
「さぁ?エリー次第っすね。合図があればそれでよし……」
つまり今エリーゼ嬢はどこかで……。
王城の何処かでなにかをしている、王太子選定会議に名乗り出た……。
そうか、そこで超法規的措置のことを発言させてヴィルヘルム応じの芽をなくすのか。
つまり私が目をつけられた時点で終わっていたということだな。
私は殺されなかっただけか、あるいは王家の暗殺者をレズリー家で撃退してたのかもしれませんね……。
「クラウディア嬢」
「……なんすか?」
「感謝を……」
「やめてくださいますか?」
口調が変わったということは……。
やはりそうなのですね、そうか王家は私を早急に殺すつもりだったのか。ならば王家には忠義も忠誠も不要だな。
「王子はどうなりますか?」
「さぁ?」
「教えてはいただけませんか?」
「生きていても……」
ああ、やはり消されるのか……。
「いや、どちらも同じか。どちらに転がろうとも疑念は消えない。それで終わりか」
疑念?私が証人になる過程が脅されたものだから通らないということでしょうか?たしかにそうかも知れませんが、ロバツへの領土割譲だけでも十分問題ですからね。
たしかに原本はありませんが、ここまでやっているのです。あの2人にも手を回しているでしょう。
いや、そもそも不要かもしれませんね。
ロバツを誘い出し迎え撃つのでしょう、その時の手打ちでそれを要求することも十分有り得る。
どちらにせよ私は終わった。
クラウ「(自分を触らせようとしてきて気持ち悪い、早く誰か来て……なんで急に感謝してるの?何こいつヒィィ……)」




