チェックメイトのジョン
「エリーは4歳で蛮族の長と決闘したらしいっすよ、キサルピナ騎士長も証言したから間違いないっすね。キサルピナ騎士長だから」
「キサルピナ騎士長がですか……」
「一番嘘をつかない人っしょ?」
「ですね、それと……キサルピナ騎士長を役職でお呼びになるんですね」
「…………」
少し気になっていた、王子はバカ王子、友人は愛称で呼ぶ中でキサルピナ騎士長だけは役職で呼ぶことを。
私のようなものならわからなくはない、関係性の問題だ。
だが、おそらく関係性の深いであろうエリーゼ嬢の友人が役職で呼ぶことが気にかかっていた。
「何か理由でも?」
「……深い意味はないっすね、敬意かも知れないし嫉妬かも知れないし……」
「嫉妬?」
「キサルピナ騎士長の武闘会を見たことはあるっすか?」
「王都武術大会は一度」
「いつの?」
「流石に覚えていませんが……剣で戦っていたときですね」
相手の剣を一撃で払ってそれで終わり、まるで物語の決闘描写のようで逆につまらなく感じたくらいです。
他の試合では見ごたえがあるものもありましたがいい勝負ができていたのは決勝だけ、バルカレス騎士団長との戦いだけは素晴らしいものでしたね。
「素手を見たことがないならそんなもんっすね、その分じゃナイフも見たことがないっすね、あれはもう武の高みにいる、それは間違いない。動きに無駄がなく……暗殺者より暗殺に向いていると言っても過言ではない、絶対にひっそりとした暗殺はしないでしょうけど。堂々と押し入って堂々と斬り殺して帰る、そっくりだ……」
「そっくり?」
「あれを教えた人間に」
「誰がそんな事を教えられたのです?」
面識があるのなら引っ張り出したほうが早いでしょうに。
先代公爵ですかね?
「エリーっすよ、さっき言ったでしょう?蛮族の長を4歳で決闘して打ち負かしたって。最初に降した蛮族族長だったらしいっすけどね、それを見て育ったとか教えられたみたいっすよ?」
そんなまさか、いくらなんでも本当に?キサルピナ騎士長がエリーゼ嬢を立てて自分より強いと言っている話はありましたけど皆話半分ですよ。
弱くはないかもとは思ってますけどね、実際本当にキサルピナ嬢より強いかと言われると……良くてもキサルピナ嬢の6~8割くらいだとは思ってました、それでも十分ですけどね。
ですがこの物言いだと本当に強いのかも知れません、この状態の私を騙す意味はないですからね。
「裏で決闘でエリーゼ嬢が勝つことを決めててたわけではというわけでは?」
「蛮族が決闘で?そのようなことを?あんまり呆れさせないでほしいっすけどね。傘下蛮族同士での出来レース決闘はしても負けたら降るか死ぬかの2択の命がけの決闘でそのようなことをするわけがないし蛮族も飲まない。交渉の片棒を担いだから金と贈答品でどうとでもなると勘違いしたのか?浅いというか甘いというか……エリーがロバツにふっかけて巻き上げろといっただけでこうも手応えがあると思ったあたり本質的に蛮族を舐めすぎっすね。攻めれば勝てるのに責めてこない理由はその時ではないだけっす、ここ数年で小競り合い以外で蛮族が攻めてきたって話聞いたっすか?」
「いえ、ロバツ側からは……」
「せいぜい麓の小さな城が焼き討ちされた程度でしょう、それも交渉してた蛮族とは別という建前の」
「ええ、それは確かに……」
「聞きたいんすけど、交渉相手にそれをされて黙ってたんすか?それとも交渉相手だと気が付かなかったんすか?途中から別の蛮族も使ってたらしいすけどね」
「一度、同一蛮族だと思ったら揉めたそうです」
「まぁその時の蛮族が本当に同一かは知らないっすけどね、これで同一じゃない蛮族のときに指摘したら相当舐められてると判断すし、その程度の区別もつかないなら舐めてかかるっすね」
「蛮族と撃退に協力したこともあったとか」
「ああ、それでいっぱいお礼をしたと。舐められてるっすね。その時はもうエリーの傘下部族っすよ」
「では大族長というのは……」
「エリーっすね」
「暴君というのは……」
「エリーっすね……」
「バルバロイというのも……」
「多分エリーっすね……」
「悪魔というのも……」
「恐れられすぎじゃないっすかね?エリーっすね……」
「アッティラというのも……」
「エリーっすね……」
「ママというのは……?」
「…………エリーっすね」
なんでママもエリーゼ嬢なんだ……?
深い意味があるのか?アッティラは神の災いだったか?向こうの言葉で何か恐怖を意味するものなのだろうか?
「ママとはどういう意味なのです?」
「そのまんま、ママっすよ」
「……?」
「考えても無駄っすよ、エリーと蛮族の関係はエリーが蛮族を支配してるだけわかれば十分すよ」
「はぁ……そうですか」
「それじゃあ質問……戻すけど他に聞きたいことができたんすよ」
「何でしょう?何なりと答えます、私はもうどうにもなりませんからね」
「話が早い、では……」
「司法省大臣室で行使できない超法規的措置を発動した時、あなたそこにいたでしょう?」
血が氷る、おそらくその表現が最も適切だったと思う。
今まで捜査の手も迫っていなかったのになぜ急にその事を聞いてきたのか、ブラフか、確信か。
平民になってから泳がされていたのは今のためなのか、私は……。
そっと頷いた。
クラウ「(脅しすぎたかな?まぁいいか)」




