想定外のジョン
「なぜわざわざバカ王子に付いたんすか?」
ああ、レズリー家からしたら疑問か。
わざわざ王家に付いた理由を聞きたがるほどにですか……忠誠とは決して思っていないことは確かですね。
忠誠があっても付けない理由は多かったくらいですしね。
「北方組合の粛清です」
「…………?」
「財務省は北方組合らの賄賂を受け取っていましてね。当家も関係が深かったのです、北方組合を粛清したことにより公爵家がその記録を掴めばグリンド家が下手に出る可能性が極めて高かった。発哺組合という防壁が亡くなってしまえば問題になったシアに押し付け会えないでしょう?直接叩かれるわけにはいかないのです。あれは緩衝地帯でした。問題になったら勝手にやった、公爵家の息がかかっていたと逃げるための……。しかし北方組合が一方的に粛清解体されたら弱みを一方的に握られ、財務省が賄賂に関して北方組合に請求していたとされたら困るのです」
「ああ、その程度で自ら墓穴を掘りにいったんすか。馬鹿げてるっすね、そもそも北方組合の賄賂程度……」
「エリーゼ嬢は気にしていないんでしょう?莫大な利益があるから」
「ふぅん、少しは気がつくみたいっすね。ちなみになんでっすかね?」
「北方組合から渡される賄賂の額を把握してなかったからです、ここはおそらくですが。1年……いや2年でも莫大です。財務省に粛清に関しての連絡もなかったので北方組合粛清後は敵対することになるだろうと……」
「その程度の端金程度気にしなかったと思うんすけどね、実際私もろくに聞かれもしなかったし。毅然としてればそのうち賄賂のことで働きかけても大臣職を追われることも廃嫡もなかったっすよ?」
「でしょうね、気がつくのが遅かった。そもそも財務省は眼中になかったのだから」
エリーゼ嬢一派の行動が読めない、だが司法省の掌握はともかく財務省関連での動きは見えないあたりライヒベルク公爵に任せたのか、関心すらないかだろう。
「こちらからもお聞きしたいのですが……」
「立場をわかったうえでなら良いっすよ?なんすか?」
「モンタギュー司法大臣は自裁だったのですか?それとも国王陛下の手のものの仕業でしたか?」
「…………あー、そういえばその頃はもういなかったすね。いや、あの騒ぎで王城にいたら気が付かれて叩き出されるか。バカ王子は答えなかったんすか?」
「ライヒベルク公爵家の暗殺だと」
「馬鹿は所詮馬鹿にすぎんか……。自裁っすよ、確かっす。超法規的措置で大臣執務室勤務の人間が全滅させられたことと、その遺族の家の取り潰しをバカ王子が命じて、司法省の業務が回らないことを伝えると辞任を命じてきたっすよ。そこで自裁した、遺産は遺族へ、業務はジーナへ。以上っす」
「ヴィルヘルム殿下が遺族の家の取り潰しを命じた……?」
そこまでしたのか?
「非公式っすよ、モンタギュー司法大臣がバカ王子に会いに行ってバカ王子が遺族揃って罵倒した結果っす。中立派の大物に辞任を要求して遺族を全員取り潰すと言った行動に呆れたんすね。一族も慌てて逃げ出したし興味もなくなってたんでしょうね、哀れっすね」
「それは本当で?」
「監視役の人間も見てたっすよ?まぁ我が家の人間っすけどね」
なるほど……見限られて当然というわけか。
私の立場でも王太子にしたくはない判断だ、今の王子でもこのマイナス分はどうやっても取り戻せない。
そもそも……。
「公爵家の蛮族領域の制圧はどこまで進んでいるのです?」
「急っすね?まぁそうか、北方組合の賄賂額に気が付かない莫大な利益はそのへんっすからね………………そうっすね」
クラウディア嬢の気配が変わる。
答えられないことだろうか、まぁそうなるだろうが。
「蛮族領域とはどこのことを指すと思う?」
「バーゼル山脈の向こう側でしょう?」
「そうっすね、バーゼル山脈の外側。蛮族からしたらこっちが外側なんすけど、地図上では向こうが内側と言っても過言ではないっすね。この大陸をコの字型に囲んでいる大きな山脈、蛮族は統一されておらずガリシア帝国ですら山に不便な長城を築いて防戦、維持にやっきになっているそれ」
「ええ、そうですね」
「蛮族領域はバーゼル山脈に囲まれた内側すべて」
「私の認識と間違いはないですね」
「それをどこまで抑えてるか?」
「…………」
流石に言えない?のだとしたらこのような確認をしないでしょうね。
なにを私から探っている?探るようなものはないと思うのですが……。
「全域」
「えっ?」
「蛮族領域全域をすでに制圧しているっす。蛮族はすべて降った、ロバツ側の働きかけた残族はすべてエリー傘下、王家が支援している蛮族もすべてエリー傘下。これでいいっすか?」
蛮族はすべて降っている?流石にそれは……。
「ありえない……。蛮族をすべて降す?」
「元々大半は降してたんすよ、この1年で全力を注いでキサルピナ騎士長がすべてを決闘で撃破してただけっす。当初の予定では周辺に察せられぬようにじわじわと侵食するか、拮抗状態を作り出して、その隙をついて周辺諸国に工作を仕掛ける予定だったんすけどね。王家側でバランス調整できる人間がいなくなったので後背は完全に固めることにしたっす」
「一体どうやってそんなことが……?」
「知らないんすか?エリーが蛮族の族長帯を決闘で下していったんすよ?キサルピナ騎士長より強いっすからね」
そんな馬鹿げたことを想定できるわけ無いでしょう?
クラウ「(まぁ、予想できないと思うっすけど)」




