尋問とジョン
耳になにかを当ててるがそれがなにかは見えない。
そっと左に動いたクラウディア嬢は冷めた目でこちらを見ながら口を開いた。
「質問1、ロバツと結んだ王国の割譲地域は?」
やはりそこまで把握されているか。
手のひらの上、というわけか……。
「…………」
把握したうえでの答え合わせを求めているのだろう。
もしも嘘をいえば……か。
すべて把握したうえでか?ポート子息がペラペラ漏らした可能性は大いにある。
王子の部屋での話を把握されてる可能性がなかったとしてもだ、ろバツのことは漏れているのだろう。
私ですら先程聞いた話だが、そういったところで信用されないでしょうね。
立場が逆なら私のような人間が関係してないとは決して思わないでしょう、距離をおいているのならまだしもこうして平民になっても王城に出入りしている。
しかも主要な場所から追放処分が下っているのですからね。
平民ジョンではなくグリンド侯爵子息としての処分だから平民としては無関係と逃げることも出来るでしょう。
私の沈黙をどう受け取ったのか、クラウディア嬢は無そのものの表情でこちらを見ている。
「チッ」
クラウディア嬢に無表情に舌打ちをされた人間は私くらいでしょうね。
王国の領土を割譲するよう密約を結んできた主犯かその一角と思われたらこのような扱いもいたしかたないでしょう。
「わかっているっすよ?蛮族に働きかけたことはすでに把握してるっす」
そうか、やはり公爵家だな。
蛮族側の動きもよく掴んでいたか。
「蛮族側がでっち上げたのでしょう」
「なるほど、なるほど……たしかにその可能性もあるっす……ね!」
なにかが肩に突き刺さった。
鋭い痛みに声を上げるが、うるさいですねの一言で口を封じられる。
おそらく耳に当ててたものを肩に刺したのだろう。
痛みが酷い中でどこか冷静な部分がそう判断を下す。
声を上げれば人が来るからではなく本当にうるさいからなのだろう。
嫌そうな顔のクラウディア嬢は肩に刺さったなにかを引き抜いて語りかける。
「なぜ蛮族側がでっち上げる必要が?馬鹿すぎて困ってしまうっすね……」
蛮族は公爵家と敵対しているからと騒ぎながら言ったと思うが、クラウディア嬢は無表情のままだ。
「公爵家が降した蛮族に話を持ちかけた時点で破綻してるっすよ?」
ロバツの北方まで制圧済みだというのですか?
痛みからかろうじてそう伝えると、クラウディア嬢は呆れた表情に変わった。
「そうでなければ何だと?」
虚勢だと言いたいが……。
ロバツ側の支援物資の内訳をつらつら述べるクラウディア嬢と事前の調整を考えると間違いはない。
少しの違いは追加かなにかだろう。
この計画は破綻した。
蛮族側が動かないのであれば公爵家はロバツだけに対応するだけ。
ロバツ単独で公爵家を撃破できるか?否だ。
そこまで簡単であるわけがない。
蛮族への備えがいらないのなら全力で叩きに行くだけ、キサルピナ騎士長がロバツの貴族に決闘を挑むようなことがあればそれで終わりだ。
決闘を受けるにせよ受けないにせよ……。
末路は同じ……決闘で負けて勢いづいた公爵家が押し切るか、決闘から逃げたと勢いづいた公爵家に押されるか。
キサルピナ騎士長の指揮がどうであるかも多方面作戦でないのなら順当な指揮さえできればいいだろう。
エリーゼ嬢が来るまで耐えて功績を譲ることも可能であろう。
蛮族がロバツを攻撃することだってあり得る。
公爵家に着いた蛮族が戦場で猛威を振るうこともだ。
「わ、私は……」
「……」
「ロバツが蛮族を使い公爵家を攻撃するように仕向けました!ですが領土割譲は私は知りませんでした!」
「知りませんでした、ねぇ?少し苦しくないっすか?」
私もそう思う。
「初耳でした!ポート子息が勝手に追加で!ロバツとの婚姻政策も結んでいました!」
「婚姻?」
初耳か!ここだ!せめて命くらいは繋がねば!
もう勝てない!勝てない戦いに殉じる気はない!
「ロバツが蛮族を使い公爵家を攻撃した後!ロバツが王国を攻める予定でした!公爵家と国境沿いの領土をロバツに割譲することを条件にヴィルヘルム殿下が到着したら敵対派閥をロバツにぶつけて処理したあと手打ちにする予定だと聞きました!」
「そこまで知ってて初耳っすか?」
「さっき!さっき聞きました!」
「それと婚姻はどのような関係が?エセル第1王女とバカ王子は馬が合わないと……」
「ララです!ララという平民をロバツの王家の養女として婚姻を結ぶと言っていました!毛糸職人の平民だと!公爵家のハニートラップの人です!」
「…………おかしいっすね?そのような報告はララから上がってないっすよ?」
なんでだ!
公爵家が独断でやっているのか!伝えてないのか!どういうことだ!
「公爵家からでは!?公爵家が伝えていないのでは!」
「まさか、そんな事があると思うっすか?知っていたらエリーも私もこんな迂遠なことする意味はないと思うっすけどね?元貴族としてそれがなにを意味するかわかるでしょう?元グリンド侯爵子息」
どうして!
なぜだ!いや、もしかしたら……。
「ヴィルヘルム殿下が平民のララに一切伝えていないのではないですか!そうではないのですか!ロバツ交渉を直前までやっていた私を突然王都に呼び戻して、その間に勝手に約定を結んで知らせない方です!」
「………………………………なるほど、まぁ最初の質問には答えたしいいっすね。では質問2っす」
助かった!命が繋がった!信用がない王子にここまで感謝できるとは思わなった!
アウグスト「王子はブランケット侯爵令嬢を婚約者にお望みだ」
無表情のクラウ「チッ!」
アーデルハイド「王子が!王子が!(惚気)」
無表情のクラウ「(チッ……)」
ヴィルヘルム「俺が貰ってやろう、光栄だろう!」
ケルステン・モレル「(チッ……)」
無表情で王子のやらかし報告書を読むクラウ「チッ!!!!」




