囚われのジョン
このタイミング、間違いなく嗅ぎつけられている。
ロバツ側をけしかけた私を捉えて情報を聞き出すためか、それとも答え合わせか。
情報を吐くわけがない、だが私が捕えられていれば蛮族側を動かすために再度の行動を起こせない。
そして今の私は平民だ、父も助けない。
王子も無理だろう。
そもそも気付くだろうか?極論私を殺してしまえば応じは計画がうまくいってると思うか逃げたと思うか、連絡がないことで死を察するか。
気絶前の言動からして筒抜けだったのか?
ロバツ側に内通者がいるか、あのバカ2人が酒場でぺちゃくちゃ喋って漏れたか。
ポート子息が一番やらかしそうだ。
流石にこの状況はどうにもならない。
平民の私が王子に会ってることも、家紋入りの短刀を持っていることも、これで逃げられると思うほうがおかしい。
短刀を没収しなかった理由はするまでもないからだろうな。
縛られてなくても片手であんな真似をされてはな。
投げても無駄だろうし、おそらく見えないだけでレズリー家の密偵がこの部屋にもいるのだろう。
どうなるのかと聞いても侮蔑した視線が飛んでくるだけ。
今更なにを言ってるのかと行ったところか。
クラウディア嬢だけが寝返ったのではなく、あるいはロバツとの国土を売り渡すような密約を結んだ時点でレズリー伯爵家が見限ったのかもしれない。
漏れていない前提だと思っていたが、ここで鉢合わせてしまったあたり王子の部屋にも気が付かないだけでいたのか、あるいは空室で鍵をかけられた隣の部屋に密偵がいたか。
さすがにあの部屋の大きさを考えると叫んだ時以外は聞き取れないと思うのですが……。
王家の諜報を司っていたからですかね?
流石に部屋にいたら気がつくでしょうし、手紙か何かで漏れていたのかも知れませんね。
あの2人とどう手紙を受け渡していたのかまでは知りませんが、流石に普通に送ってませんよね?
「ふふ、お答えいただけないのは残念ですね」
処刑を匂わせたということは私も危ないですね。
当初の計画通りに動いた後で王家を追求して私の名前が出てきたら聞き取りと違うと使うつもりか、王家との手打ちを狙うのか。
おそらく手打ちはないでしょうね、計画を知れば暴露して兵を挙げてしまったほうがいい。
王家に味方する家は極めて少ないでしょう。
宰相ですら……。
クラウディア嬢のいつも笑顔の顔は今や嫌悪感の塊のようであり、国土を売り飛ばす行為を容認した私への軽蔑が一目見るだけでわかる。
自嘲気味に笑えばさらにその嫌悪感が濃くなる。
国を売るような王家の片棒を担ぐ元侯爵家嫡男の平民。
まるで地位を取り戻すために国土を売ったとしか思えませんからね。
国土を売ることは知らずともロバツに国を攻めさせる時点で売国奴でしかないですからね。
王家に忠誠を持っている家からしたら滅ぼすしかないでしょう、殺したいが聞き出すまでは生かしてやるといった感じですかね。
「さて…………どれから聞くべきっすかね?」
「さて答えられるかどうか」
「なにをしたら答えるのか楽しみっすよ、どこまで答えられないかも……ね」
「相手の説得には寄り添う心と愛情が必要だと聞きましたよ?」
最も拷問される可能性のほうが高いですけどね。
国土を売る片棒を担いだ平民なんて配慮に値しないでしょう、私でもそう思います。
ましてやレズリー家なら尚更でしょうね。
半ばあきらめのように、すがるように発言した言葉は少しの間をおいて拳で回答された。
それはメキッというような音で、椅子ごと倒れそうになった私は踏ん張れずに流れるがまま床に叩きつけられると思ったところでもう一発殴られ、まるで起き上がりこぼしのように元の位置に戻った。
「必要っすかね?」
「口を軽くするためには」
答えはお気に召さなかったようでクラウディア嬢は私の後ろに回り込み、後ろ手に縛った手になにをかを差し込むとそれをクイッと動かしたようで激痛が走る。
「あああああああ!」
「防音だから好きなだけ叫ぶといいっす。本来はじっくり動かすもの何っすけどね、特別っすよ」
後ろから小さく聞こえる声に少し恐怖を感じながら考える。
どこまで把握されてるのだろうか?この拷問はどこまで続くのだろうか。
選択を一つ間違えただけで王城の一室で拷問される自分い嫌気が差しついつい笑ってしまった。
あるいは限度を超えた痛みでできた行動が笑いだったのかも知れない。
「は、は……はは」
「…………」
聞こえないほどの声量で何事かを呟いたクラウディア嬢は、後ろに立ったまま椅子を蹴り上げた。
謎の激痛が走る、これは振動で痛みを与えたのか?
諜報を司るということは拷問を司ることなのだろうか?
私は泣いていたのかも知れないが出てきた言葉は情けないヘヘヘ……といった言葉だったと思う。
「…………」
残念ながら聞こえない。
聞かせるつもりもないのだろう。
私の強度を測ってギアを上げていってるのかも知れないがもう限界だ。
勝手に痛みから笑いのような声が漏れるから勘違いしてるのかも知れない。
なんでもいい、質問してくれ。
こんな痛い思いをするのならなんでも言う!
だが痛みから口から出る言葉は先程のような言葉で、今回はククク……といったところか。
まるで挑発してるかのようだが私はそんな気はない。
先程の拳で再現された起き上がりこぼしの真似だけで十分苦しい。
頬が腫れ上がってうまく話せないのかも知れない。
私の後ろで無言であったクラウディア嬢が縛られた手に差し込んでいたものを引き抜くと、それを私の耳に当ててきた。
鼓膜を破るのか?
「なかなか強情っすね」
先に質問をしてくれ!
ジョン「は、は……はは」
クラウ「この状況で笑うとかやっぱ痛いのが好きなのか気持ち悪……」
ジョン「ヘヘヘ……」
クラウ「こんなのに好かれてたってだけでだいぶキツイ、ベスと趣味が合わないってそういうことか」
ジョン「ククク……」
クラウ「(拷問で喜ぶとかこれは方法を変えたほうがいいな)」




