ジョンの計画
「グリンド侯爵は知らなかったか?それとも伝えてなかったのか?」
「どちらかわかりませんが……グリンド侯爵家も歴史はそこまで古いわけではありませんし……もとは子爵家から上がった家ですし、大臣職についたのは父が初ですから……どうなのでしょう?」
知っているか知らないかどちらでしょうか?
正直わかりかねますね、父はたまたま財務大臣になったとしかいえませんし……。
私のことで無役になってしまいましたが……。
「ふむ、そうか。レズリー伯爵家はな……王家の間諜なのだ。レズリー伯爵は王家に忠実だ。表向きは敵対することもあるが、それは王家を支えるため敵に通じているのだ。そもそも公爵家に令嬢が近づいたのも公爵家を探るためだ。もっともアーデルハイド嬢のことで色々忙しくなったようだが」
「本当ですか!それでは公爵家は常にスパイを抱えていたということになりますが!」
それではそれがバレていたら筒抜けになるのでは!?
「公爵家はその事を知らないのですか!?」
「知っているとは思うがな、表向き公爵家よりのレズリー伯爵家を遠ざけるということは他の事情を知らない貴族からどう思われるか?そういうことだ。歴史も爵位もあるから遠ざけるわけにもいかぬだろう?だから必ず主要なお茶会に参加して情報収集をすることができる、呼ばれぬお茶会は少ないが……そのでられなかった茶会でのメンツを見ればなにを考えているかはわかるであろう?」
それが事実なら公爵家の内情はともかくエリーゼ嬢の交友関係や行動は筒抜け、公爵家がそちらから働きかけることは非常に難しいことになる。
「公爵家はどう動くのですか?」
「わからぬ、わからぬということはあの令嬢ではなく公爵が動くということだ。少なくともあの公爵令嬢から働きかけることはないだろう。公爵主催のパーティーでもそばにいて監視をしている。公爵が誰とあったかも確かだ。公爵派閥には日和見な貴族が多い、この1年で公爵に状況は傾いているが、新顔は重用しないらしい。そこを考えれば今回のことで失脚すれば大半は戻ってくるだろう、日和見は使えんが数は力だ。それなりに使えそうなやつを重用すれば公爵家と違ってと王家側に戻るものもいるだろう」
それが確かならたしかに可能性はある。
数だけの貴族でも多少はやり様がある、数を使えば中立派、消極的公爵派も公爵の状況や王家の工作次第では……引き込めるかも知れない。
エリーゼ嬢を動かせないということは裏から動かせることはない。
「情報は確かなのですね!?」
「忠誠心厚きレズリー伯爵だぞ?実際のところ公爵家の政治は1年以上前はうまくいなせていた。この1年はそもそも動きようがなかったが、財務大臣への追求にせよ何にせよ知ったところでどうにもならなかったかったからな」
「つまり、公爵家がああ出ることは把握していたと?」
「報告を聞く父上はな、だが立ち回りを失敗してしまった。父上が言うには失敗しなくても在任は厳しいからかばう姿勢を見せる他なかったということだが……」
なるほど、それはそうでしょうね。
事実の時点で早めに切るしかないのは父も王家も同じか。
かばう姿勢を見せただけ温情か、モンタギュー司法大臣のときはかばうのもまともに出来ていなかった。
中立とは厳しいものですね。
「少なくとも公爵家の立ち回りがわかるのであれば公爵家の痛手を追わせることができなくてもやりようはありますね」
「何?」
ここだ、ここで最悪のパターンを説明しておく。
そうすれば、もう少し対策があるかも知れない。
「最悪を考えましょう、蛮族もロバツも撃退してしまっても無傷というわけにはいきませんでしょう?」
「できるとは思えないがな、まぁ……貴様の言うことだ。聞き入れようではないか」
少しは信頼があるな、先程だったら罵声で終わってたことは確信できるがな。
「公爵家が立て直すとしたら間違いなく物資の仕入れをするでしょう。マッセマー商会を使って。マッセマー商会とて仕入れねばなりません、ですが公爵家より王家が利益を提示できるなら?公爵家は危機に至って値切らず買うことができるのでしょうか?」
「だが、王家にも予算は……」
「なんでもいいから空手形を斬りましょう、確実なら御用商人でもいいでしょう。公爵家と切り離せば良いのです、むしろ王家の財政を委ねてしまっても良い。商人です、いずれは汚職を働くでしょう。公爵を倒せたら処断すればいよいのです、公爵を倒すのに手を抜けばそれを理由に処断して財産を没収すれば良いのです。匂わせれば真面目に働くでしょうし、本当に汚職すらしないのならそのまま大臣につけ当代が亡くなった後でも御用商人にすれば良い、脅威になったら処断すれば良いのです。公爵家を倒すまでは不正すら働かせて後で処断理由を作ってもいいでしょう。マッセマー商会を握れば仕入れを担当してる軍も騎士団も、逆らえません。無傷で公爵家が勝つ可能性は流石にありません」
たとえ蛮族を抑えてたとしても全域ではないでしょう、ロバツ側に蛮族の他地域にも働きかけるように伝える。
王子には言わずともよい、なぜ今気が付いたのかと言われて疑念を持たれて先ほど気がついて言わなかったと思われたらおまりだ。
この方は疑心暗鬼がひどいところがあるからな。
これで蛮族戦線は公爵家が勝つとしてもダメージを与える、あとはロバツ側がどこまで頑張るかだが、蛮族側を本命として支援して注力すれば……公爵家に打撃を与えることは可能だろう。
ここまでうまくいかなくてもどちらかからか妥協さえ引き出せれば……。
「なるほど、商人に王国の命運を委ねるか……」
「商人が王国の財政を牛耳っても王国を統治する理由はありません、担保に土地などを与えず返済一択でゆっくり返していけばよいのです。返済額を上げたりすれば売ってしまえばよいのです、国政を牛耳ろうとしたでもとしたでも簒奪しようとしたでも」
「…………よし、それでいく」
王子は部屋の片隅のチェストから短剣を取り出し私に渡した。
装飾は見事な龍が彫られており、王家の家紋が入っていた。
これは……。
「預けよう、私……余の名代として……頼む」
おそらく1年前にこの気遣いができれば……。
いや、過去はよい、今だ。
クラウ「そもそも知ってるほうがおかしいんすけどね、私が言うまで知らないほうが多かったっすよ」
アーデルハイド「私は知ってた」
エリー「はー(知ってたけど敵なら潰せばいいだろうと思って記憶から消してた)」




