気乗りしないジョン
「いかに公爵派を崩せるか、いや、公爵を失墜させた後でいかに復権させないか……。一撃で葬り去ることはその情勢では無理だろう」
それには気がつくんですね、先程は一発で落とせると思っていたくらいですが。
それなら公爵家が負けるという理想も捨てていただきたいところですが、自分で気がついていただかないと癇癪持ちに戻るでしょうね。
「軍権が王家に味方していないとは……。公爵家が疲弊し、王国軍もひと当て程度はする予定だった、反抗的な連中を処分するために。だがそれでは……」
「王国軍で王家寄りの人間は……」
「いないだろうな、つくづく自分の失言のせいか。近衛騎士を信用した自分がつくづく阿呆だった」
「あの失言まではアレクサンダー女伯爵令嬢のアン嬢も王家に忠誠を誓ってはいましたが、いまやそれを口にすることはなく……」
「失態であったか、せめて令嬢の方はアドマインは繋ぎ止められるか?」
「ポート伯爵子息は婚約者に会うのを断って逃げ回っていることは有名です。とうとうアン嬢も話題に出さなくなったので婚約破棄は秒読みかと」
「馬鹿者が……。いや私もそうだったな。だが私のようにアレクサンダー女伯爵家はポート家を乗っ取ろうとでもしてたのか?」
「軍務大臣の地位もライヒベルク公爵令嬢とブランケット侯爵令嬢のことで転がり込んできたような家です。わざわざ婚姻で抑えなくても次代ではアレクサンダー女伯爵家ゆかりの人物が就任したでしょう。つまり……」
「普通の手頃な婚約者だっただけか、乗っ取られるわけでもないのにどこまで愚かなのだ!それに比べて王家は……」
ポート伯爵子息が愚かであるのは否定しない。
貴族学院に入れるかも怪しいと言われる男だ、アレクサンダー女伯爵家との婚姻と父の職でかろうじて引っかかっている程度の男だ。
平民であれば少し賢いか普通よりマシ程度だが貴族ではそうはいきませんからね。
「王家は、いいや……私があの公爵令嬢を制御できるとは思えない。あの女は頭がおかしいのだ。何を考えているのかわからぬ、王配ではなく国王の座を狙っている……と思う。兄上がどうあの公爵令嬢を抑える予定だったのか検討もつかぬ、どうやって……」
それは私もそう思います、昔のあの方はですわー!と言いながらアーデルハイド嬢と問題を起こし続け、アーデルハイド嬢に罪を押し付けられてケロッとして違う罪を押し付けてたりしていて、どちらが取り巻きなんだか全くわからないほど貴族的に戦っていた。
あるいはじゃれあっていただけかも知れないが、あの規模のじゃれ合いを起こされるならドラゴンが来たほうがマシだろう。
「アルベマー伯爵は……どうだ?」
「私は令嬢と不仲なのでお役に立てません。条件もわかりません。アルベマー文部大臣は交友関係が広いので引き込めれば大きいですが……。公爵派になって長いですからね、なんでも大昔に王宮部署のゴタゴタで一部権益を手放した際にアルベマー伯爵家は別派閥に移り、その派閥が崩れたときに公爵家についたので……」
「それは王家が関係あるのか?」
「引き剥がしは王家の独断だったらしく、このとき離れた家も多いので」
「父上はろくなことをしないな」
「いえ、先代国王陛下の治世だったはずです。当時の王妃殿下が差配したとか。ただ病気でご逝去したので権益を引き剥がして王妃様の子飼いに与えたところで亡くなったので……」
「ああ、なるほど。お祖母様の母国とつながりのある貴族がお祖父様のために働くかと言われると怪しいな」
「それを処断したのが公爵家だったので」
「…………なぜ公爵家が?」
「今のように完全な破綻を迎えていなかった…………のではないでしょうか?当時の第2王子殿下であられたジョージ王弟殿下がご逝去なされたあと対決姿勢を出したのですが……」
「公爵家が害したのか?」
「先代国王陛下を害したことを堂々と宣言するような家が否定を貫くのが怪しいと感じるのでしたらそうです。ただジョージ王弟殿下の後見が公爵家、先代公爵であるガルニ公と仲が良かったので信じてる貴族はいません」
「ではなぜ祖父は害されたのだ?」
知りませんよ、流石にそれを知っていたらまずいやつでしょう。
父も当時は一財務官僚に過ぎませんし。
ジョージ王弟殿下の死にはきな臭いものが多いのは確かですが、我々世代では知りません。
「すくなくとも……中立貴族が多かったことから先代国王陛下が誰の目から見ても……そうなってしまう程度の落ち度があったということではないでしょうか?」
「…………お前がそばにいてくれたらもう少し打つ手が広がったかもな。そうか、祖父の頃から貴族は離れ始めたのか」
そもそもなぜ知らなかったの……。
フリードリヒ殿下が継ぐからか……比較のためとはいえ最低限の事を教えぬとは酷いことをしますね。
そうなると教育担当時代に宰相はそれを教えなかったのか、それとも……。
いえ、やめておきましょう。
どちらに転んでもよいことにはならない、宰相が粛清されても王子が理解力がなかったとしても、宰相の教え方が下手だった以外の答えは良いことにはならない。
「その後も公爵家と対決姿勢を維持していたので、そうなります」
「──だからといって簒奪されるわけにはいかない。アルベマー伯爵家には……内務大臣を任せる。これなら内務省の権益に手を伸ばせるし即座に拒否することはないだろう。公爵家の敗戦を持って内務大臣辞任を促す事ができれば大きい。最悪の場合宰相を任せても良い。どうしても動かなくても宰相位なら……せめて中立は守れるだろう」
公爵家が敗戦しなかったらの話ですが。
「アルベマー伯爵令嬢はどのような人物だ?」
「頭でっかちで本ばかり読んでいます。普段も部屋で本を読む意外何もしない令嬢です。つまらぬ恋愛小説しか読んでいないようですが」
「恋愛小説、か……。私の側室にするという手法は使えるか?」
「いっそ文部大臣にして発売した書籍を令嬢に納めさせるとでもしたほうが喜ぶのではないでしょうか?」
「ビブリオマニアとかいうやつか、それくらい安いものだ。それで説得できるか?」
「私にあの令嬢が会う気があればですが。別のものを使ったほうがよろしいかと」
「アドマインが説得できるか?」
「…………………………私がやったほうが合わずに断られるだけ会って敵対されるよりマシかも知れません」
「では、頼む。これは公爵家失脚前からでも問題ないか?」
「順当に行けば文部大臣を継ぐ可能性が十分あるので良い条件にはならないかと」
「ではこれも公爵家失脚後だな」
失脚しても会ってもらえるかわかりませんがね。
宰相「ただ単に匙を投げただけです」
宰相「A=Bだとしてこの時対応する手は?」
フリードリヒ「つまりC、もしくはD。策があればE~Gが使える」
宰相「結構」
宰相「A=Bだとしてこの時対応する手は?」
キャス「C」
宰相「少ないもっと考えろ」
宰相「A=Bだとしてこの時対応する手は?」
ヴィルヘルム「知らん」
宰相「……(せめて質問とか色々聞けよ)」




