キャスリーンの得意なもの
今頃それぞれができることをやっている頃でしょうね。
思うところはあれど不安はない、不満はいつもあるが。
私は皆の中ではぱっとしない、いうなれば政略結婚の駒にはできるがそれ以外での使い道はないような女。
朝起きて鏡に映る自分はいつ見ても理想の自分であったことはない。
なりたかった自分は見えず、いつでもうつろに寂しげで何処か自信のない女がうつろで寂しげで何処か自信のない女を見つめている。
今日もまた自分がどこかで消え去るような日が始まる。
出る先では父の知り合いに会い、エリーに便宜を図ってもらいたい人間をあしらう。
私を見ていない誰かが私を褒めそやし、去っていけば指を指し金魚のフンであると嘲笑う。
エリーの友人たちで私が最もパッとしない。
エリーのように破天荒で行動力があるわけでも、領地の差配をして自国どころか他国へ介入すうるために色々やっているわけでもなく……。
アンのように軍人としてなにかをしているわけでもなく、マーグのように騎士として市井の情報収集も仕事をしてるわけでもなく、ベスのように明らかに普通に貴族が知っているか怪しい情報を持ってこれるわけでもなければ弓で戦えるわけでも、優雅に会話で相手を負かせるわけでもない。
私はベスより顔が広いかも知れないがベスより活躍した記憶はない。
ジーナのように詰将棋のように相手を潰すこともできず、クラウのように裏で動けるわけでもなければなにか家の秘密を握っていることもない、シャーリーのような稼ぎどころも投資どころもわからない。
アーデルハイドのようにみんなをまとめられるわけでもない、アーデルハイドがいたら……茶会の重要ごとなどすぐに終わってお茶を楽しむ時間の方が長くなっていただでしょう。
私は友人たち以外からは軽んじられている。
宰相の娘にしてはと舐められている、だからこそルールで武装した。
だがルールの武装はときに強力で時に最も無力であった。
それはエリーも見ていれば確かで、クラウやジーナを見ていれば確かだった。
私はどっち付かずで使いづらかっただろう。
おそらく父ですらそう思っているだろう。
アーデルハイドに言わせれば私は悪役令嬢の取り巻きAといったスタンダードな人間だという。
エリーから言わせれば大衆食堂のテーブルにある塩で、ベスから言わせれればいるだけで引き立つ派手な取り巻き、ジーナからは判例の前例、シャーリーからは商会の受付、アンやマーグからは襲撃役の教官らしい。
クラウからは上司となんとも反応しがたいことを言われた。
それぞれひどい評価だが、他にもひどい批評だったから対等ではあるだろう。
私が私につける批評とすれば量産型平凡令嬢だろうか?
私に家柄と駒以外に使い道があるのかはさっぱりわからない。
アーデルハイドからは無理して変わらなくていいとは言われたけど……。
エリーもそのままでいいのですわー!なんて言っていたけど……。
この1年で私が役に立てたことはあったのでしょうか?
「ごきげんよう、ジェラルディン様」
「ごきげんよう、キャスリーン様」
「珍しいところでお会いいたしましたね」
嘘だ、互いに時間を調整して鉢合わせただけだ。
どうせ噂好きのマイヤー子爵令嬢だ、昨日の裁判かバンサ伯爵家の出入りでとかでなにかを嗅ぎ回っているのだろう。
ただ単に御しやすいという理由で私に目をつけとぼけてここで待ち構えていた、それだけのこと。
ただ私もそれを読んでわざわざ早く出てきた。
結果的に示し合わせたようになったが、おそらく彼女は私を待ち伏せてしめしめ呑気に網にかかりに獲物が来たとでも思っているのだろう。
「ええ、実は昨日のことで大騒ぎでしょう?ですので早めに学院に向かって誰かから情報を聞こうと思いまして。ほら、噂というものは大事でしょう?今後の家にも関わりますし」
よくもまぁペラペラと口が回るものだ。
おそらく昨日のうちに知っている人間には手紙を出してある程度は掴んでいるだろう、バンサ伯爵家は掴めていないだろうが。
バンサ伯爵家のことすら昨日の時点では知らなかっただろうからおそらく逆に尋ねたりもしたのだろう、把握してるとしたら少し引っかかる。
手紙を出した家や、逆に情報を知りたい家がマイヤー子爵家か彼女にでも手紙を出してどうなのかとでも聞いて確認を取った結果だろう。
別に聞きたければジーナにでも聞けばよいのに、シャーリーでもいい、何ならエリー相手でも教えてくれると思う。
こいつらはその程度の覚悟も度胸もないのだ、私程度から情報を仕入れて聞き出してきてやったと周りに吹聴し恩を着せている。
そのうち私が危機に陥ったら私から重要情報を聞くことがあった、口が軽いなどと後ろ指を指してとどめを刺すのであろう。
だから私はルールを遵守する。
だが守っているだけではどうにもならない、それだけは父の派閥の瓦解を中から見ていてわかった。
「ええ、実はそのことで色々ありましてね」
「あら、イデリー伯爵家でですか?」
「まさか、めでたいことですよ。なにせバンサ伯爵家がライヒベルク公爵家に旗幟を鮮明にしたのですから」
「と、いうことは?」
鈍いな。
いや、これは私が軽視されているのだろう。
この期に及んでライヒベルク公爵家にて期待した家が出て喜ぶ可能性もないわけではないとすら思われているのだ。
これが私の正当な評価ということか。
「バンサ伯爵家はライヒベルク公爵家、正確にはエリーを支持します」
「つまり、また公爵家にバランスが傾いたわけですわね?」
また?もう天秤は傾ききっている。
アーデルハイド「キャス、いい?キャス?あなたは無理をしないことがいちばん大事なのよ?」
エリー「無理してるのがなんか言ってますわ」
アーデルハイド「あなたは少しは無理をしろ!」
キャス「……よくわかりません」
アーデルハイド「そのうちにわかるわよ」




