ゲルラッハ伯爵父娘とルーデンドルフ侯爵父娘
「それで私に会議に出ていただきたいと?」
「問題はありませんでしょう?ルーデンドルフ侯爵が有力貴族ではないとでもおっしゃる方がいらっしゃいますかな?」
「国王陛下はおっしゃりそうですなぁ」
「おや?今の国王陛下にご配慮を?」
「ああ、なるほど!そうでしたな!次代の王が大事でしたな!」
「「ハハハハハ!」」
規則的な貴族の会話を終わらせて本題に入ろうとすると、娘から早くしてほしいとの目線を受け付けた私はさてどうしようと思うもののルーデンドルフ侯爵令嬢も同じようで微妙な間があく。
「お父様?王太子選定会議の打ち合わせに私達が必要なのですか?」
「もちろん必要とあらば公爵令嬢派閥の私も働きますが、お急ぎなのでしょう?ライヒベルク公爵令嬢は理解者には迂遠な会話や行動より迅速な行動を好まれます。理解者である我々は即座に行動を起こさなければ重臣はともかく功臣の位置にすら座れません」
「アレクシア、迂遠なやり方は捜査の近道でもある」
「これは政治です、しかも今日、今から始まるものです。根回しの必要が今この場に至っても必要なほどお二人は不仲でしたか?」
「アレクシア嬢、そのようなことはありませんよ。検察に頼もしい人材が増えたくらいですからな」
「シュテッチ子爵は……」
「検事総長は検察次長の件がありますからな、今回のことで出張ることはないでしょう。ねぇ?」
「私のことですかな?」
「いやいや、前任の……はて何でしたかな?」
「さてさて、私も名前も覚えておりません、誰でしたかな?」
すっとぼける私達にイラッとしたのか娘は再度尋ねる。
「お父様、それでなにをするのでしょう?」
「学院にいくのですか?それとも王城でなにかをするのですか?」
「やれやれ、急かしおる。ここでのんびりするということは学院にきまっているだろう。早くから行っても待ち構えているみたいではないか」
「たしかに、少し急いていたようです」
「そこでどれを話すのですか?王太子選定会議でライヒベルク公爵令嬢が王太女になるとでも話せばよいのですか?」
「そうだが……。ロゼリー、知っていたのか?」
「知るもなにもこの情勢であの馬鹿者を本気で王太子にしたい人間がいるのですか?もしやあれを王太子にするとでも?」
言われてみればそうだが、同い年の娘から見ても絶望的なのは救いようがないな。
我々から見てもだめな男女が同世代では希望にも代表にも見えるなんてことはよくあることだ。
逆もある、我々から見て有望そうな人間が同世代から浮いていたり、同世代から排斥されて王都には必要最低限しか寄り付かなくなるようなことが。
これが我々からも同世代からも頼もしいフリードリヒ殿下であったのならよいが、よりにもよって我々からも同世代からもおぞましく信望もなく期待も持てないヴィルヘルムであるから全く笑えない。
いいところがまるで見当たらない。
「公爵家もしれんであろう?」
「内務大臣が私が次期国王になると言って纏まるものではありませんでしょう、それでまとまるのであれば1年以上も決まらないことはありえません。王太子選定会議には様々な制約がありますが、会議を開かないという選択もあるではないですか。それでも開いて決まらないのであればどこかの誰かが開催を強行して反対するのも面倒くさいから、なぁなぁで流しているだけでしょう」
「だ、そうだが王国最高裁判所長官殿」
「あなたはどう思われますかな?元王国警察長官殿」
「「ははははは!」」
娘にもバレバレなほどかと思うと今の王国は本当に末期なのだなぁ……。
フリードリヒ殿下の死は痛すぎた。
もう無理やり笑うしかない、入学したての子どもにすら破綻が見える現状がいかにまずいか。
私もルーデンドルフ侯爵も笑っているが目が全く笑っていない。
完全に虚無だ。
多分私も同じ目をしている。
「お父様?」
「……とぼけてる場合ですか?」
若さか……。
そりゃあ、そんな人間がこの国の国王になるかも知れなかったんだ。
私達より娘たちのほうが長く付き合わねばならない、しかも無差別の女好きではな。
誰だってすげ替えるために動くか。
この熱意は国家への閉塞感とかで持ってほしかったが、王子がバカだから熱意を持って打破しようとするあたり役にはたったとも言えるな。
ルーデンドルフ侯爵もちょっと複雑そうだ。
まぁ、元々は反公爵派だったしな。
一歩間違えたら泥舟に乗ったまま降りる機会もなくズブズブと……。
危ないところだったな。
「アレクシア、もしも私が警察長官を辞任しなかったら公爵派閥についたか?」
「はい、もちろん。当主の座を蹴落としてでもついたでしょう。そもそもアレは元々の評判が悪すぎました。ライヒベルク公爵令嬢が令嬢として接しても横柄だったと聞いておりますし、婚約から顔合わせでいきなり無体な要求を押し付けたこともその日のうちに話が出回りました。それで……一体誰が次期王太子にしたいと?誰が婚約者の代わりに名乗り出たいと?側室でどうにかしようと?まともな良識があるのであればわざわざ女好きの馬鹿者の妾になって公爵家からも恨まれるか感謝されるように立ち回るしかない状況に追い込まれ、そこまで苦労までして何が得られるのです?公爵家に感謝されれば殺されはしませんが、命の安全以外得るものはないでしょう。なら確定した婚約者の座に割り込んでもしかたがありません、たとえ公爵家が割り込んでくれと言ったところで御免被ります。第1王子殿下が亡くなった時点で即座に公爵派閥に寝返ることこそが最善でした」
「……頼もしい、それでこそルーデンドルフ侯爵家の跡取りよ!馬鹿者の教育担当を1年も粘った私のようなものではダメだな、お前の意見を聞いてとっとと鞍替えしておくべきだったわ!」
どうやらあちらの父娘は意思の統一ができたようだな。
「ロゼリー?」
「ほぼ同意見ですわ、唯一違うのはフリードリヒ殿下が生きていても私はエリーゼ様派閥だったでしょう」
「慧眼だ、どうやら家の娘も頼もしいようだ」
「いやはや、子ども成長はいいものですな」
「ええまったく」
「ではお父様」
「私達は学院に」
「「失礼いたします」」
アーデルハイド「権力闘争じゃなくて王家を見放してる結果じゃもうある程度は好きにさせるしかないわね」
エリー「よし」
アーデルハイド「座ってろ」




