王国の金庫はいただくでー
儲かりまっか?
ぼちぼち?ええことや。
身の丈に合わん利益と身の丈を維持できない利益はええことないからな。
儲けすぎてもダメ、儲からなくてもダメ。
これは別に商人だけやない、どこの業種も同じやな、出過ぎた杭は打たれるし、杭が低ければ使い潰されるか責任押し付けて引っこ抜かれる。
ようはバランスが大事ってことやな?
なんでこんな話をしてると思う?
儲かりすぎたからや、そのうえ厄介事が押し寄せてきたわ。
困ったもんやでほんま。
「なにをブツブツ言ってるん?はよ手動かし!」
「せやかてな、親父?ウチとてうら若き乙女やで?睡眠不足はお肌の大敵や」
「なにを言うてんのや!これほどのええ話で寝るなんて油断大敵や、お肌は1日くらいなら取り戻せるけど儲け話は取り戻せへんで!」
「ウチ寝とらんし……」
「1日寝ないだけで大金持ちになれるなら誰だって寝ぇへんわ!弛んどるやろ!」
「本番までに仮眠とっとかんと流石にキツイで……」
「ワシの若い頃は数日不眠不休なんてザラや!ええからやらんかい!」
「あーい」
ほんま眠い、日が昇ったのを見た時流石にきつくなってきたわ。
6か5か見分けつかんわ、7と1もわからん。
「……あん?もしかして最後のトドメ親父が刺すんか?」
「ドアホ!ワシとお前どっちが御用商人として今後の付き合いが長くなると思っとるんじゃ!お前はこの功績でな、もうマッセマーの次期商会長に決まっとるやろが!」
「ああ、決まったんやな。ほー、そらめでたいわ」
「できれば利益方面で勝ち取ってほしかったわ、ほんま……まぁええわ!コネもまた利益やしな!」
「ちなみにウチがエリーと敵対してたらどうしたん?」
「どうもせんわ、ワシだってエリーゼ公女と繋がっとるからな!」
「あー、そうやな……。たしかに公爵家自体の取引は親父の管轄やし」
「ドアホ!そうやない!エリーゼ公女自体と繋がっとるんや!」
「下ネタか?エリーそういうの嫌いやで?」
「ドアホ!取引の方や!」
「はーん……」
あかん、眠くてしんどくなってきた。
こんな仕事だけなら別に2徹くらい平気やけど、バンサ伯爵邸で結構動き回ってたから体力も完全に消費しきっとるんよなぁ……。
ちょっとだけ、本当にちょっとだけ……。
「蛮族の物品を売り飛ばしてたのはワシやぞ!お前が介入する前からワシが食い込んでたんや!北方組合は蛮族に売るものを仕入れるようにして、蛮族領域の物品はワシが捌いとったんじゃ!」
「ほな北方組合に不正に気づいとったんやないの?」
「気付くか!ワシが直接行ったとしても気づけんわ!事実上の公爵として内情を把握してるエリーゼ公女ですら気がつくまで時間かかったんやぞ!そもそも気がついてたら教えたほうがこっちの信頼になるやろ!商人が信頼をなくすと北方組合見ればわかるやろが!」
「はー」
「ホンマに頭回っとらんな?」
「あーそうかもな」
「…………お前いくつやっけ?」
「12」
「あ、そうやったわ。寝ろ!」
「うん」
「ここで寝るな!部屋で寝ぇ!」
「ん……」
こらアカンから寝るわ、ちょっとだけやから……。
寝過ごしたかもしれんわ。
「そろそろ時間よ~」
「ホンマ?寝坊してへんか……」
「だから起こしに来たのよ、ほら悪趣味な服着て王宮にいきなさい」
「あんがとな、オカン!」
「お母様ね」
「お母様!」
悪趣味な服いうても、金かけてないと貴族はうるさいからな、もう金貨で服でも作ったらええんちゃうか?どうせ見る目のないやつだと質素に金かけても軽んじられるしめんどくさいことこの上ないわ。
「親父!」
「おう、ほな行くで」
「え?結局親父も行くんか」
「そら行くで?でも最後のトドメはお前が刺せや、ブスリと一撃でな」
「どやろな、ウチが出る前にもう刺殺体になってるかもしれんで?」
「そしたら生きてたけどとどめを刺しましたうねん、相手もバカやないんやから認めてくれるで。他に顔立てなアカンときは介錯しましたとか、最後に皆様のお手を汚してしまうわけにはいかなかったのでとかうまく言うんやで」
「ホンマに殺すわけやないよな?」
「当たり前やろ!捕まるやないかい!」
「それもそうや、納得!」
「……」
「……」
「おい、どうした?」
「いや、なんでもあらへんわ。メイドさん案内頼めるか?」
「はい喜んで」
なにやっとんのやクラウ?お前そんなことする余裕あるんか?
「こちらのお部屋です」
「おおきに」
「これがこれはどうもありがとうございます。メイドでは大変でしょう、少なからずチップを……」
「親父、ええから……知ってるやつやからええんや」
「知ってるからこそだろう」
「そういう意味やない、そいつにとっては端金や。後で恥かくで」
「渡さないで恥をかくくらいなら渡して恥をかいたほうがいい、それが商人だ」
「ほうか、ならええわ」
「ありがとうございます」
親父はクラウに金貨を1枚渡したけどそいつ伯爵令嬢やぞ?
大して価値なんかないんちゃうかな?
「ジーナ……」
「遅かったな(小声)」
「これはスペンサー司法大臣」
「これはこれはマッセマー商会長、ということは?」
「せやね、そういうことや」
親父が出した書類をバーッと確認してくジーナ。
コイツ早いなぁ、面倒くさい言い回しの法律よりは読みやすいやろうけどな。
「これいつ使う?(小声)」
「…………」
「……?」
あ、ウチか。
「最後の一撃にでもしようと思っとるわ」
「どれが最後の一撃になるんだか、穴だらけになるだろう」
「その時はそのときや」
「ふーん、これエリーに?」
「まぁどう出るかはわからんけどな、王家の分の借金は払わんのやしええやろ」
「…………まぁいいか」
ホリー・マッセマー「あなた?オカンと呼ばせるのはやめてといったわよね?」
ローレンス・マッセマー「ごめんて、でもそのほうが客受けがええんや……」
ホリー「あなたは普段は標準語でやってるのに?」
ローレンス「だって、その場合はこっちのほうがええからで……」
ホリー「あの娘がオカンはおらんけど母上がおるでとか言ってたせいで複雑そうに私が接されたこともう忘れたのね?」
ローレンス「戦略なんや、堪忍して」




