アンドンキャス先生とブロンテ先生、おまけのアン
昨日の裁判を元に『愚物検事の失墜(仮題)』を書きつつ足りないところを探す。
うーん、困りましたわ……。
知りすぎると余白で遊ぶ余地が無くなる、知らなすぎると別物過ぎてかえって面白くなくなる。
バランスが大事なのよね、私の作品は。
半分は確かなことがある方が元ネタがある作品は楽しめるものですからね。
こんなときはブロンテ先生と話したい、もう情報を仕入れているかしら?裁判のことに関してどこまで知っているかしら?もうライヒベルク公爵令嬢からお聞きになられたのかしら?
でもさっき新聞で読んだけどバンサ伯爵邸で何か売却関係であったみたいだし、そっちのほうが面白そうね。
マッセマー商会だけかしら?公爵派閥かしら?ブロンテ先生はいらっしゃったかしら?
ブロンテ先生はどちらを仕入れたかしら?ブロンテ先生、嗚呼、ブロンテ先生……。
私の才能は先生の足元にも及ばない、もう少し私の才能があれば共作で小説を書けるのに!
筆の進みが落ちた『愚物検事(仮)』を書く手を止めて、次の茶会をいつ開催するかに思考を変える。
たしか、先生は明日はライヒベルク公爵家のお茶会に行くんだったかしら?
そうなると連日はさすがに作品が書けなくなってしまう。
私は先生の作品を読みたいから過度な茶会をして時間を潰させるような真似はしたくない。
してはいけない。
……そういえばルーデンドルフ侯爵令嬢が私の作品のファンだったとブロンテ先生がおっしゃっていたはず。
お茶会に呼んでみようかしら?もしかしたら色々と話してくださるかもしれません。
招待状でも書きましょうか?そうすると最短で……いえ、もう少し気楽なものなら今日でも……。
流石に当日は関係性が薄いですし、爵位だけだと非礼ですね……。
アンドンキャス名義で出したら来ていただけるかしら?
そんな事を考えていると夫からの連絡だと4つ折りの紙を執事が持ってきた。
ありがとう、なにかしらね?緊急?とうとうライヒベルク公爵令嬢が民衆をつれて王政打倒の演説でもしたのかしら?この前のは素敵だったわ。
思わず小説に取り入れてしまったくらいに。
うーん、だとしたら知らん顔するわね、わざわざ伝えには来ないでしょう。
別に王家が倒れたところで痛くも痒くもないし、民衆だけの革命でない限りはそう騒ぐことでもないわね。
どれどれ?
『先生来たる』
ブロンテ先生が!王国図書愛好家協会に!今日は欠席のはずでは!
王国図書愛好家協会を執筆を理由にしてサボらなければよかった!なんてこと!
登城用のドレス!は時間がかかる!そうよ!王国図書愛好家協会は服装自由じゃない、執筆用の姿でもいいわ!野暮ったいけどお茶会ではなく愛好家の集い、大事なのは本を愛する心よ。
それがあるなら全裸だった歓迎するわ!
早く馬車を!この姿でも入れるくらいに顔は売れてるわ!
王国図書愛好家協会の集会と伝え王城を進む。
急がないと、帰ってしまってらどうしましょう!
速歩きで進むと軍人と話し込む女性が見える。
軍人?なぜここに?今日は……。
いや、あの話してる方は!
「ブ……ベス先生!」
「アンド……ニー先生……。今日は欠席では……?」
「夫が今日先生が来ていらっしゃると!もしかしてもうお帰りですか……?」
「今は……席を外しているだけです……」
「よかった、ではまだいらっしゃるのですね?ところで今日はなにがあったのでしょう?」
「新バンサ伯爵のことで……少し……戻ったら続きを話す予定です……」
「まぁ!バンサ伯爵、新バンサ伯爵ということはどなたが?」
「ピアです。王城メイドの」
「まぁ!昔はよく私のお茶会に来てましたわね!」
「ライエン侯爵令嬢として……?」
「ええ、だってライエン侯爵はお金目当てで国王から殺されたのでしょう?もっとも領地や一部権利はともかく財産没収はかないませんでしたが。直前にほら、あの……シャハト大臣からの提言で債権化していたものが多かったから派閥の崩壊と混乱の割には全く儲からなかったようですけど、短絡的なところはあの方らしい。私も最初は真面目に捜査してるかと思いましたけどね、途中でっ謀反をでっち上げたから思ったのですよ、どうせリッパー家に尻拭いさせるために殺させたんでしょうねって」
「ジャック・リッパー男爵……?」
「ええ、ジャック。だって夫の友人でもありますもの、今の王城ならまだしも警護の厳しい王宮内で暗殺なんてできるのは……いえ、当時だとできるかも知れませんわね。緩んでましたし、だから最初は夫から国王陛下の慌てっぷりを聞いてそう思ったんですもの。でも捜査で犯人不明ということはそういうことでしょう?リッパー家が暗殺して握りつぶしたのでしょうね」
「前は……リッパー男爵の暗殺の話を噂だと……」
「ええ、実際見たわけでもありませんし。お茶会ではそんあこといえませんしね、リッパー家がまだ力を持ってるかどうかまではわかりませんから。でもリッパー家の仕事は知っていますわ」
「王宮部署監督官の……?それとも……」
「明言は避けますわ、それ十分でしょう?ベス先生、それよりバンサ伯爵の話を聞きたいですわ」
「ちなみに……なぜ……その話を……?」
「アレクサンダー女伯爵令嬢が王城で武装して、欠席のはずのベス先生といらっしゃる、そして今日は王太子選定会議。バンサ伯爵が公爵派閥になった、ならば……」
「……」
「乗ると……?」
「ベス先生がいる側が私のいる場所です、できれば未来の女王陛下に便宜を図っていただければ幸いですが、主に王都の出版に関して」
「それは……シャリーに言っておく……。おそらく私達が見ている王都書籍物流の方向は同じ……はずですから……」
「頼もしいですわ」
「それとエリーは……アンドニー先生のファンですから……」
「それでも読者に作家としての地位を利用して頼み込みたくはありませんわ、ベス先生のように読者には読者として作家には作家として接していただいた時の嬉しさは忘れていません。同じ接し方をしてくる人間が多いと結局売れた部数と爵位で堅苦しくなってしまいますから」
「爵位で気楽に書けてはいますけど……爵位が才能を保証するわけではないですから……」
「ライヒベルク公爵令嬢も劇の本は名作を書いていますけど?この前の『ほら、ご覧!天使が舞い降りた』はいい劇でしたわ、その前の『誓いの山』とかいい脚本だったと思いますわ」
「あれはあっちが本職じゃないかな……?それを言ったらアンの詩集は下手だし……」
「おい!」
「そうなのですか、少し気になってきましたが……。少し夫のもとにいって今日の会議のことを先に伝えておきます、その後は図書室ですか?」
「もう少し話したら……戻る予定です……」
「では、それより早く図書室に向かわないと、失礼いたします!」
ああ、急がないと!
夫にはライヒベルク公爵令嬢の推薦をするように伝えないと、いよいよ船が沈む。
「ベスはなんの先生なんだ?」
「先生と……呼び合うのが……王国図書愛好家協会のきまり……」
「ほう、そうなのか」
危ない危ない、ブロンテ先生は作家を隠していますからね。
私も結婚前に本名で数本書いてはいるからごまかせたとは思いますけど。
これは楽しくなってきた!
アンドンキャス先生「作家にとって大事なものはネタと作品、国ではない」
ブロンテ先生「同感ではあるけど……」




