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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
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パウエル子爵

「え?先生が来ていらっしゃる?」

「はい、先ほど新バンサ伯爵の話をしていらっしゃいました」


 ブロンテ先生は今日の王国図書愛好家協会の集会は休みではなかったのだろうか?

 忌々しいクソみたいな会議がなければ私も……あっ!

 慌てて『先生来たる』と書き上げた紙を4つ折りにして連絡に来た当家お抱えの作家であるキャヴェンディッシュ先生にお願いをする。


「キャヴェンディッシュ先生、申し訳ないが私の家の馬車にこれを渡してきていただけませんか?それと、ブロンテ先生は?」

「少し席を外しています」

「妻が来るまでに引き延ばせないだろうか?」

「それは約束できかねます」


 そうだよなぁ、先生のお話もなんにも聞けないのか。どうせバカ王子の王太子就任に反対するだけのくだらん……。


「新バンサ伯爵?」

「ええ、私は手紙を渡してきますので詳しくは他の方から。アンドンキャス先生もそれで遅れたらいやでしょうし」

「たしかに、頼みます。私はあまり離れられないので」


 キャヴェンディッシュ先生の退室後に何らかの情勢が変化したことを悟る。

 昨日の裁判か?いや、あれでひっくり返るようなことはないだろう。

 超法規的措置に関しては触れられてなかった。

 バンサ伯爵?ジャックか?まさかピア?


 コンコンと響くノックに冷静さを取り戻し、入室を許可する。


「お忙しいところ申し訳ありません」


 モレル伯爵か。

 さて何用かな?大事でもなさそうだが。


「いえ、会議までまだ時間はありますから。なにかございましたか?」

「いえいえ、面白い話が聞こえたもので……。なんでも新バンサ伯爵が公爵派に降ったとか」

「……なるほど、面白い話だ。それはどこから?」

「エリーゼ公女殿下からご連絡をいただきまして、今日の王太子選定会議で王太女になるから根回しをよろしくと」

「ほう、なるほど……それは驚きましたね」


 エリーゼ公女ね、国王の信頼が厚い男とは思えんな。

 もっとも誰であろうとあのような沈む船に殉じる気はないだろうがな。

 となると新バンサ伯爵はジャックか?とうとう見放したか。

 そうなると医師団のもとへ行くべきか。

 詳しく事情を聞いたほうが良かろう。


「はい、その場で全財産を公爵家の事業に投資なさったと」

「ほう、全財産を……」


 リッパー男爵家の財産なぞたかが知れているだろうに、必死だな。

 今更危機感でも持ったか?どうしてそちら側に舵を切ったのかは知らないが……ようやくだな。


「バンサ伯爵家のすべてを売り払いました。小さな邸宅へ移るそうです。それとライエン侯爵家の財産も大半を注ぎ込んだと」


 ライエン侯爵家の!?まさか、ピアを殺したのか?

 やるかやらないかではやる男だとはおもうが、正気か?


「…………新バンサ侯爵はどなたかな?」

「ピア・バンサ伯爵です」


 ピアか!

 どうしてそうなった?

 なにがそう判断させたのだ!


「ピアの独断だそうです。勝利があちらからやってきたと大喜びでしたよ」

「そうでしょうな」


 ピアがバンサ伯爵就任したということは、バンサ伯爵家の財産が動く。

 そしてそれはもう投資済みというわけか、仮に王家がごねたところでもう金はない。

 バンサ伯爵邸すら売却できたということはそちらの権利では問題はあるまい。

 ライエン侯爵家の財産と合わせると……ライエン侯爵家の財産のほうが主体だろうが恐ろしい金額になるだろう。

 なにを持って公爵派閥に降ったのかは全くわからない、モレル伯爵も教える気もなさそうだ。


 が、別に構わない。


「では私はエリーゼ公女殿下を推薦するといたしましょう」

「ほう……」

「意外そうですな」

「ええ、正直意外でしたね」

「おそらくリッパー男爵あたりなら意外とも思わないでしょうね。とうの昔に」

「いつ頃からですか?」

「さて……いつからだったか……。ハーバーから頼まれたことをすべて断った後か、それとも失敗後も方針を変えなかったことか」


 忘れたな、少なくともここ数年でというわけではない。

 惰性だ、この感情と動かぬ理由はそれ以外にない。

 頼まれたから、どれだけ手を差し伸べても忠告しても聞く耳を持たなくても離れなかったのは友人の息子だからではない、惰性だ。


「ハーバー……ですか」

「友人です、死後くらいは気軽に名前で読んでもいいでしょう。それに今日王朝が変わるのでしょう?王家に敬意が保たれていればこうはならないでしょう?先代国王を呼び捨てにしたと告発しますか?」

「いいえ、今日の会議は参加者が多いので一人二人が反対したところで……やがては飲まれます」

「自主的な判断ができた自分に乾杯したいところです」


 1年だ。

 たった1年で拮抗していた、あるいは王家側に有利だった状況はすべてがひっくり返った。

 どちらが良かったのかあるいはどちらも間違いだったのか。

 もしもブランケット侯爵令嬢が生きていたらどうにかできたのだろうか?

 あるいは1年が半年に縮んでいたか。


 なにが間違いだったのか。

 あるいは生まれたことが間違いだったのか?

 モレル伯爵は知るまい、どちらにせよ……。

 詮無きことか。


 どちらにせよ、王太子があの馬鹿者になることはありえないのだ。

 お手並み拝見といこうじゃないか。

 今日のことをブロンテ先生がどう小説のネタにするのか楽しみだ。

 私の楽しみなどもはやそのくらいのことしかない。

 こんななら先に言っておくべきだったな、くだらぬ希望を持った。

モレル伯爵「(何だこの平静さ……)」

パウエル子爵「(もう知らん)」

キャヴェンディッシュ「(入りたくない空気だから集会に戻ろう)」

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