アレクサンダー女伯爵と困った娘
「ふむ、なるほどな」
私室でレズリー伯爵令嬢から届いた手紙を読み終えた私は娘を呼び出した。
「アン、それでどこまでが計画通りだ?」
「計画?」
「…………会議ではどうするのだ?ライヒベルク公爵令嬢から何か伝えられてないのか?」
「いや、特には伝えられておりませんが?」
本当か?妄想に浸って聞き逃したのではあるまいな?
娘はそういうところがあるからな、この前も部屋で本を朗読し始めたと思ったら……ハァ……。育て方間違えたか?
誰ににたんだ?アンドリューか?
「なにも言っていないのか?だが今日の会議で……」
「昨日の時点で明日王太女になると」
「いってるではないか!馬鹿者!」
「前から言っていたのでは?」
「前から言っていても王太子選定会議の前日にいうのであればまた違うわ!軍人だろう?報告連絡をしっかりせんか!」
「はっ!」
「それで他には?具体的になにをするとかは?」
「宰相に任せておくとか言ってました」
なんで宰相?
こいつまた何か伝え忘れてないか?脳みそピンク娘め。
もう平民でもいいから適当に婿にするかなんかしてくれないかな?
軍の仕事はこれでできるんだがなぁ……。
家族での連絡となるととたんに駄目になる。
あるいはライヒベルク公爵令嬢の影響で感覚が麻痺してしまったのか。
「本当に宰相に任せると?」
「この期に及んでは寝返ることはないと」
「…………寝返っていたのか?融和ではなく?」
「はい、らしいですが」
だめだ……。家族としてのふれあいで会話主体にしたがコイツは前みたいに報告書にして報告させないとダメだ。
家族だからいいかみたいな感じで報告が悪い、軍務優先しすぎて家庭を蔑ろにするな、しかも違う意味で……。
「アンドリューを呼んで……」
「父上ですか?はい、わかりました」
出ていった娘を見て明らかに育て方間違えたと思う。
ライヒベルク公爵令嬢の影響でと言ってやりたいが……間違いなく関係ない。
なんなら手綱握ってくれているまである。
ああ……どうしましょう?
「お呼びとお聞きして参上しました」
「家庭内ではいいのよ、宰相がライヒベルク公爵家に寝返った話は知ってる?」
「スペンサー男爵令嬢が司法大臣になった際にアンから聞いたが……」
「私初耳」
「えっ?」
これアンドリューに報告したから私に伝わってるって思ってるわね。
あっ、そういうことか……。
家族として接してるんだから父親に伝えた話が母親に行くだろうと思ってたのか。
なんでまた……恋愛小説バカだからか……。
こんな重大ごと夫婦間で確認し合わないし、アンドリューも知ってると思ってるわよね、それは。
夜の睦言でそういえば宰相が寝返ったねとかロマンのかけらもないこというと思ってるのかしらあのバカ娘……。
え?家庭内をまた軍みたいにするの?
正直嫌……。
アンドリューのお出かけの誘い方がロマンのかけらもなくてイラッとするようになるから。
宝石店の番地を言って偵察に行きましょうとか!糧食の時間です!ってレストランい誘うの普通にイラッとするし。
やっぱアンドリューの教育でアン育てたの失敗だったかも……。
ギャル伯爵みたいに夫婦円満が一番ね、夜会でも妻から全く離れない夫。
いや、逆?どちらにせよ夫婦睦まじくて羨ましいわ。
アンドリューもあれくらい甘えてほしいものだけど。
「?」
無理ね、まぁそこがいいとこだから。
帝国軍最強の武人に成り上がっただけはあるわ。
チャラチャラしてないだけ良かったと思わないと。
「──軍の支度をして」
「軍の?まさか……」
「違うわよ、王太女が決定したらパレードをするの、近衛騎士より軽んじられている王国軍がきっちりと手引しないとね。王太子に慣れなかった大馬鹿者に見えるように、聞こえるように。私は王太子選定会議に出てくるわ」
「なるほど、人数を増やして全会一致にするのか」
「軍務大臣がネックだけど、実働部隊を抑えてる状態でどこまで足掻けるかしら?先代ヘス伯爵が亡くなってから統制は崩れ、ヘス伯爵が辞任に追い込まれた際に完全に失墜した。まぁそもそも母の代にあったロバツとの戦争の頃には怪しくなってったけどね。先代ヘス伯爵はその統制をライヒベルク公爵家を叩いて王国自体の成果にしたかったけどやり返されて対立、そして蛮族支援で逆鱗に触れて殺された。まぁ原因はほかかも知れないけど蛮族支援は明らかに失敗でしょう」
だからライヒベルク公爵家が暗殺したとわかっても、いいえ、喧伝してもそこまで動かなかった。
ああも大規模に家の人間を殺されて族滅に等しい状況になって、しかもライヒベルク公爵家側にも理があって、王家には功績に報いない落ち度があった。
私でも殺してるわね、さすがに他人に責任を押し付けるようにするけど。
王家は蛮族支援の責任を先代へス伯爵に押し付ければいいだけ、押し付けた後やってないわよね?
いや、やってるかもしれない、期待できない。
「パレード部隊は私が」
「いえ、アンにやらせます。王城部分に詰めて騎士たちとともに先頭を歩かせる。王城でバルカレス男爵令嬢と打ち合わせをするでしょう」
「近衛騎士は参加しないのかい?」
「ええ、彼らにはお仕事があります。バカ一党の監視と暴発時に切り捨てる仕事がね。近衛騎士に切られたのなら文句もないでしょう」
もっとも、この情勢でなんとかできる能力があればこうなってはいない。
おそらく数少ないライヒベルク公爵と和解が不可能な貴族の子息を地位で追い詰めて動かすのが精一杯。自ら動くことはあるまい。
動いたところで信望がなさすぎるが……。
仮にバカ王子が動けば絶対に勝つだろう、あれは我々の誇る最高の将軍だろうな。
連中からしたら祭り上げる他ない疫病神だが。
リンジー・アレクサンダー女伯爵「うおおお!誰でもいいから結婚しろ!こんな娘じゃもらいてないぞ!」
ゲーム版アン「私と婚約したいとどうしても言うのでな、地位も違うがそれでもと」
気絶したゲーム主人公「……」
リンジー・アレクサンダー女伯爵「よし、今のうちに捺印を済ませろ!サインは?できるやつに偽造させる。よし結婚おめでとう!式は盛大にやってやるからな!」
ゲーム版アン「よかったな!お前の熱意で母上を説得できたぞ!」
気絶したゲーム主人公「……」
リンジー・アレクサンダー女伯爵「(済まないが貴族とはこういうものだ、浮気したら殺されるだろうけど頑張って生きてくれ婿殿。……この子、彼女いないよな?アンのやつ略奪して相手殺してないよな?)」




