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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
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ゲハルトと悩みのタネ

 娘の様子が変だ。

 いや、いつも変なんだが。

 機嫌がいい時の妻のような気配を感じる。


 大抵ろくなことにならないやつだ。

 妻がサプライズでなにかを仕込んで、うまくいかなくて私を怒る予兆を感じる。

 だったら言ってよ、とでも言おうものならへそを曲げてしまうあの感じを今まさに肌に感じている。

 娘の機嫌を伺う父親としては猫の背を撫でるかのごとく優しく接したほうが良い。

 妻もなにが原因かはわからないが怒ると怖いしな。


「エリー、本当になにをするつもりなんだ?」

「昨日も言った通り、夢への第一歩ですわー!」


 これほど上機嫌なエリーを見るのは久々だ。

 アーデルハイド嬢が亡くなってからはあまり見せなくなった表情。

 語尾を伸ばして喋るのも最近は少なかった。

 これがなにを意味するか……。

 ろくなことが起きないな、こういうときは妻にそっくり。

 いや、父上か?


「~♪」


 上機嫌だ、これは最悪だ。

 尻拭いが必要なときだ。


「お・と・う・さ・ま~」

「……なにかな?」

「今日は素敵な日になりますわ、宰相と仲良くしてくださいましね」

「…………」


 あれ?王城襲撃するつもりか?

 私は聞いてないんだが、流石にそれくらいは伝えてくれるよな?


「ちょっと驚かせるかも知れないですけど……きっと喜んでくれますわ。今日の会議引き伸ばしてくださいね?」

「引き伸ばすもなにも……」

「ああ、そうだ!近々ワタクシの部下たちが数人帰ってきますわ。うまくやれますけど一応伝えておきますわね」

「誰だい?キサルピナかい?」

「重大事に重しを動かすほど愚かではなくってよ?まぁ一応動かすのかしら。でも問題ないわ。勝利するときというのは確信を得るまで半信半疑なのですけども、確信を持つときもありますわ。まるでワタクシが物語の主人公のごとくすべてが手の内にあるのですから」


 何なのかは教えてくれないんだね?

 教えてくれないということは知らないほうがいいな、反応を読まれるかも知れないということか。

 手強いからな……。


「我が世の春ですわ……」

「もう夏だよ」

「比喩だからどうでもいいですわ」


 部隊の女優のごとく、くるくると周りながら喜びを表現するエリー。

 これほどの上機嫌は私でも見るのはいつ以来だろうか?


「ところでその格好は?」

「王城に行くのはふさわしい格好がありましてよ?」


 豪奢なドレスに身を包み、まるで……初めてあった時の妻のような傲慢さと美しさを輝かせたエリーは余り好きではないという宝飾品を身に着け……。

 ん?


「そのロケットペンダントは……」

「お守り、と言いたいんですけどね。まぁあんまり信じてないんですけどいるなら見守ってほしいじゃないですの」


 あれはアーデルハイド嬢の遺品。

 あれを受け取ったのか?


「中身は変えましたけどね」

「それは怒られるだろう、フリードリヒ殿下の肖像を差し替えるだなんて」

「……?」

「違うのかい?」

「ワタクシの肖像でしたわ」


 なんで?


「亡くなったときに持っていたものだよね?」

「そうですわよ?」

「一応聞いておくけど……エリーは……異性は愛せないってことはあるかい?」

「え?まだバカ王子との婚姻を?」

「異性ね、あんなものはどうでもいい」

「わかりませんけど、同性に向いてるというわけではありませんわ」

「女の子ってそういうものなのか?」

「お母様に聞けばいいではありませんの」


 アリアに聞けるわけ無いだろう、どうやって聞くんだそんなことを……。


「お父様もご友人の肖像をロケットやブーチに入れたりしませんの?」

「しないね」


 それはもう、そういう関係だと言ってるようなものだからね。

 そう言えば女性間だとないのか?聞いた覚えもないな……。じゃあやはり私が疎いだけなんだろうか?

 いや、女性同士のそういう話が男に入ってくるわけがないか。


「やってみたらいいではありませんの」

「やらないねぇ」


 妻の耳にでも入ったら帰ってくるか、私を呼び出すかのどっちかだからねぇ。

 妻を怒らせるなんてとんでもない!エリー、私はね……命はまだ惜しいんだよ?できれば孫もひ孫も見たいからね。


「親しいご友人がいないのですか?」


 どう説明しようかな……。

 さすがに、うーん……娘には言えない。

 巡り巡って妻にでも報告されたらなにを教えているの?って怒られることが目に見えている。


「男とはそういうことをしないものだ」

「ふーん、そういうものですの」


 いや、待てよ?エリーは演劇に造詣も深いし、自らが劇団を運営して女優も演ってるな。

 本当に知らないなんてことがあるのか?


「お母様に報告することはなさそうですわね」


 見栄張ってたりしたら危ないとこだったな。

 たまにカマかけてくるな……。

 普通に浮気するにしても相手が男のほうが激怒しそうだしな。

 しないけどね!?しないぞ!?


「でもお母様はお父様の手紙が仕事の要件や報告ほうが多いことに不満を持ってましたわ、もう少し書くことを増やしてくださいね」

「いや、根回し関係だからあれより多くの量を書くとしたらもう書籍みたいになるし、それにそんなことアリアは……」

「言わずに察してこその男ですわよ、夫ならなおさら」


 世の男達はこんなに大変だったのか?

 それとも私が特別鈍いのか?


「それと、お母様には今日の結果次第では一度戻って来て貰う予定ですわ」

「良いのかい?」

「ある程度は終わってるでしょうしね。いっそ迎えに行くのも良いかも知れませんわね」

「公爵領かい?」

「いいえ?アーバサダーまで」

「ロバツの首都まで行くのかい?何の工作をするつもりだい?」

「工作?いいえ、まさか!」


 ──懲罰戦争ですわ。


 この家でまともなのは私だけかも知れない

ゲハルト・ライヒベルク公爵「くそ!皆まともじゃない!」

ガルニ先代公爵「貴族相手にあの立ち回りして派閥に入れたり処理したりまともじゃねぇな」

アザト先代公爵夫人「あーら、社交界の華であった伯爵夫人のダイヤが偽装だって暴いて暴露させたみたいよ、怖いわねぇ」

アリア公爵夫人「あらあら?帝国と関係が深い貴族を容赦なく失脚させちゃって。まぁ使い道は失脚したあとの方があるからね、さ、帝国皇女が救いの手を差し伸べて差し上げましょう」

エリーゼ公爵令嬢「今回没落した人間が大っ嫌いだった皆さまー!ワタクシとともにパイの切り分けをしませんことー?(美味しいところは持っていったから鶏肋を奪い合うとよろしいですわ)」

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