最後の一手は小部屋の中に
狼狽して困惑する2人を眺める皆。
道化師を演じるのか。まぁいつもやってるようなものかな。
「なにが書いてあったのです?」
「いや、ちょっとまだアレですわよ。そりゃもう、その……まだ知るべきではない真実とかそういうものですわ」
「伯爵家でもか?」
「そりゃもう」
「クラウは伯爵家だが?」
「こら!クラウなんで見てますの!」
「え、あー見ちゃったなぁ!あー困った困っちゃったすねぇ!」
本当に女優やってた?
空いてる部屋で話す?まぁ応接室の会話多分あのホコリまみれの司書室では聞こえるけど。
「え!悪辣!」
エリーがいう?
「なるほどな、密会に使うのか」
「んなわけないやろ。なにをどう考えてそうなったんや」
「聞くなよ……(小声)」
「それはもちろん……」
「いいですわ、言わなくて……」
うまく話をそらしたな。これも演技のうちか?応接室の会話が聞こえるし覗けることに興味津々だ。
ただ応接室の会話が聞こえるのは私の勝手な想像に近い。
あるいは覗き穴が空いているからこそ聞けた可能性もあるが。おそらく声も通るだろう。
「応接室に人をやって会話させます」
「じゃ、司書室?でええんよな。そこちょっと入って」
「お前は待っていろ。お前の悪口を言うように伝えたから」
「クソ親父……」
「確かめやすいだろう?」
仲の良い親娘だ。
何度か試したが聞き取れないらしい。
とりあえず封じてある部分を引っ剥がして見たが向こうからは見えないらしい。そんなのばっかだな。マジックミラーの応用かな?
まぁ大きく穴が空いてるわけでもないからいいのか?
再度穴を開けて実験するとよく聞こえたらしい。
ローレンス商会長がニヤニヤしながら戻ってきてシャーリーに話しかけていた。
「ダメじゃないか、大人向けの本を一冊顧客が購入したことにして自分が買ったら。やるなら欲しがってる職員の分もひっそり取っておくものだぞ」
「(ブン!)」
いいビンタだったがさすがは父親、スラリと躱して微笑んでいる。
「まぁ、その程度でしか言われない分だけ良い経営をしている。立派になったな」
「ここで褒めるんか……」
「家で褒めたらなんか気まずいだろ」
「それは直前の内容のせいやろ!」
キャスも目が泳いでる。買ってるな。私の書いたやつだったらご購読ありがとう。それも別名で書いてるやつかも。
「それでベス?その手記は直りますの?」
さぁ?全部あるかわからないし。マルゴーの……ライエン?
あれ?この時期はオドニー・バンサ伯爵は亡くなってるはず。
違う?
「うーん、他になにがあるんですの?」
と、いわれてもまだ修復中だし。
家族関係は良かったみたい。そもそもシャルロット・ライエン侯爵とも仲が良かったみたい。今後の政治の方針の相談とかもある。
えーと、キンゼー男爵家の縁談は一度シャルロット侯爵から持ちかけたみたい。
今のうちに握っておけば安心だからみたいな。
ライヒベルク公爵家の正s買うに関してもあるけど蛮族支援は反対派だったみたい。
「賢いですわね。まともで助かりますわ」
追加を、そうありがとう。
シャルロット侯爵と相談して身を隠さねばならない。
らしいよ?
「なんで身を隠すかは書いてないんですの?」
「まだ抜けてるのでしょう。急いで続きを」
「これは?」
えーと……。要約するね。
私は偽装自殺をしてバンサ伯爵位を空位として権利をすべて不変のものとする。これはシャルロット侯爵と相談して決めたこと。
ジャックには絶対に空位にするように伝えた。
おそらく察してはいそうだが……。
適当な政争を使い自殺として処分される。棺桶の蓋は閉じたままで同じ重さでごまかす。おそらく暗殺だと疑うだろうし、それもいずれもみ消されるがなんの問題もないだろう。
「そこまでしなければいけない理由とはなんですの?」
まだわからない。修復中。
今後の偽名としては孤児院で演じた役柄から取ってオートリカスと名乗る。
「オートリカスでしたわね!よし!全部解決ですわ!」
「そうか?」
「別になにも解決してないだろ(小声)」
「じゃあ孤児院に寄付金おいてくオートリカスはバンサ伯爵ってことっすね」
「あー孤児院の寄付ってそれか」
「なるほど、趣味に生きてるともいえるわけですね」
「なんかエリーみたいな生き方してるっすね」
「ワタクシ……?」
「ぽいねー」
「孤児院の寄付するくらいなら経営側に回るやろ」
「たしかにそうだな(小声)」
「そもそも立場捨てないだろう」
「想像もできません」
「奪う側ですしね」
「ワタクシの扱い……?」
エリーはそうやって生きてるほうがいいよ。
「そうですの?」
そうだよ。
「あ、この宝石も売却で」
関係なく売却話も進めてるな。ピアもどちらかと言えばこちら側の精神だな。
「ありがとうございます。皆様、多少は入れるようになりましたよ。どういたしますか?」
冊子のページは?もうない?大事なところなんだけど?
「今探していますので……。もうしばらくお待ちを」
「えーい、我慢できませんわ!入りますわー!」
「エリー……」
「まぁ面白そうだしな、仕方あるまい」
「早く……遺失ページを……」
「狭いし……」
「なんだか昔から同じようなことしてた気がするな(小声)」
「それがいいところっす」
「なんやこの後死ぬみたいなフラグ立てんなや!」
中に入るとすでにろうそくへ明かりが付けられ、応接室側の一部の壁も崩されていた。
それにしてはくらい。おそらくこの絵画があった部分が図書室側の明かり窓だったのだろう。綺麗に埋めたあたり隠す意図だけはある。
もう少し明るいうちならはっきり見えたであろうが……。
絵画には貴族が書かれている。おそらくオドニー・バンサ伯爵であろう人物を中心に……。最も私では人物まではわかり得ない。
「ああ……そういうことでしたのね……。この絵が答えでしたのね……。なるほど、確かに……そうでしょう」
エリーはなにかを理解したようだった。
「……この絵はどうしましょうか?大公女殿下」
「丁重に、まだ売らないように。警備を厳重に、人ではこちらも出しましょう。これこそが……」
絵画を下ろそうとはしごに登り、額を持つ商会員が外そうとした時、1枚の紙が落ちてきた。
なるほど、やはりわざと切り取っていたのか。
わざわざ額の裏に仕込むとは。
明かりの下でその隠されていたページを一瞥した私はそれを読み、もう一度絵画を見た。
なるほど、そういうことか。
事実は小説より……。
これが真実であれ、偶然であれ、虚実であれ、疑惑は……。
「ワタクシの、いいえ……『私たち』の勝ちですわ」
ほんの少しの意趣返し。
後を託した人間が殺されたことも。
悪手を続ける王家にも。
気付かぬ弟にも。
恨みつらみの捨てる場所。
「もう戻ることはない、長年の忠勤ご苦労。もしもこの地位を継ぐものがいたら支えてやってくれ。多分まっとうに貴族としては働けないだろうが」
「旦那様……」
「オートリカスだ、旦那様は何年か前に亡くなっただろう?」
「ですが、今後は……」
「給金は出るはずだ。私が来たことも、もう来ないこともジャックに伝えなくていい。いや、伝えないでくれ。私が私であるものはすべて置いてきた。一から道化師としてやり直すさ。所詮この世は悲劇と喜劇しかないのだ、それなら喜劇を演じたほうがよほど良いからな」
おどけた動作で頭を下げたオートリカスは立ち去っていった。
これ以降この屋敷に彼が来ることはなかった。




