この2人大丈夫かな?
まぁすぐにくるだろう。
窓を開けて巻き上がる幻想的なホコリに嫌気を感じながら、便宜上司書室と呼ぶ部屋を眺める。
机の上にはバンサ伯爵記録……すごい埃っぽい。
窓の外で軽く降ってホコリを落とす。ついでにバンサ伯爵家の誇りも落ちていった気もするが気にしなくてもいいだろう。
ここまでして隠すものとはなんだろうか?
まだ暗い。明かりが必要だ。
壁を眺めるとなんとも言えぬ不思議な形をしていた。
私はそっと顔を寄せてそちらを見る。
なるほど、埋めてはあるがここから応接室を覗き見ることができたわけだ。
とっても……『貴族的』だな。
この場所にいたのは腹心の誰かか。
図書室の司書という閑職のようで実は……。いいじゃない、私好み。
それにしてもひどいな、顔を寄せた際にホコリが顔についたらしい。
くしゃみはできない、もっと舞うだろうし。
一度出よう、差し込む光から見えた絵画はおそらく家族の集合したものだろう。
とにかく確認は後だ、そもそも暗すぎる。
おそらく他にも遮光してるものがあるか、この壁の穴のように塞がれているのだろう。
くしゅん!
まったく、あとはいいか……。バンサ伯爵記録でも見ながら待つとしよう。
オドニー時代か、つまりオズワルド時代はまだあの本の塔の中か、あの司書室っぽい場所か……。
くしゅん!
「あーら、本当に隠し部屋があるじゃありませんの……」
可能な限り速読をしながら情報を漁っているとエリーたちが図書室に戻って来た。
「ベス?なにがなんだかわからないんだが……」
誰もわかってないよ、アン。
「はー今どきやるんだね。こんな隠し部屋なんて、私室以外で」
それね。
「なんですこれは?」
見ての通りだよキャス。
「あほらしい(小声)」
大体そうでしょうに。
「ロマンあるやろ」
それはそう。
「この屋敷にこんなスペースがあったんですね」
気が付かないあたり全然出入りしてないよな……。多分私室にしか本がないな。
「まぁ!王墓を暴いたようなドキドキ・ワクワク感がありますわ!一番乗りですわー!」
ごめん、先に入っちゃった。
「あら?そうですの?というかなんかホコリ多いですわね。掃除しちゃいましょう。メイド服で清掃ですわ!」
流石にこの時間からはやめたほうがいい。明かりさえあれば確認はできる。
「マッセマー商会がやりましょう、おい!」
「直ちに!」
「清掃の手配もしておりまして、ただいま空き室の掃除をしていますので急いで引っ張ってきます」
いつ呼んだんだろう?国家一の商人はこれくらいでもないとだめなのもしれない。
有能商人が先手を打って商機を掴む話か。うーん、ありきたりかな。もう少しパンチがないと。最初から子持ち設定でいく?
「ドキドキですわー!ワクワクですわー!」
エリーはたまにこうなる。この1年はあんまりならなかったあたりアーデルハイドのことが尾を引いてるのだろう。
なんだか王領の代官の不正を見つけたときもこんな感じだった。
いきなり代官の顔面を掴んで机に押し付けて脅迫してたときもこんな感じで。
アーデルハイドも押し付けられる代官の横で不正内容を朗読したりしてイキイキしてたなぁ……。
楽しかった。小説にも使えたし。別名で出してる『二人は異常令嬢』シリーズ。
残念ながら続きが出ることはもうないけど。
「ワタクシも手伝えませんの?ダメ?そう……。ではワタクシではないとしたら?ダメ?」
ごねてるエリーは置いといて……。
バンサ伯爵家記録には色々と書いてある、せいぜい新しい題材として役立たせよう。
ふぅむ……なるほど。
バンサ伯爵家としての仕事で姉が嫁いだことなどが書いてある。
当時のキンゼー男爵家はたいそう羽振りがよかったのか、ここで大枚はたいて側室で娘を送り込む。
アーチボルト・キンゼー男爵は計算ができる人物だったようだ。末弟のジャックがリッパー男爵家の婿になることが既定路線だったから全財産を吐き出してでも勝負にでたわけか。
だがリッパー男爵家の応急部署追放で潮目が変わって右往左往と。もしや当時のアストレア妃暗殺にでも関わったか?流石に病死扱いなあたり違うか。クラウですら病死扱いだったしな。
そしてキンゼー男爵家はジョージ第2王子殿下死後は完全に落ちたと。翌年のキンゼー一家暗殺に関してジャックを問い詰めるがしらないと断言。暗殺ね。
ん?これ順番が前後してる部分があるな。
ここは……。いや、抜き取られてる物を挟んでいる?
ちょっと、この本のページがあったら急いで持ってきて!
「ジグソーパズルでも始めましたの?」
違う、ページ修復。順番が違うの?わかる?
バンサ伯爵家の成り立ちや仕事、実は初代バンサ伯爵は初代国王の弟に当たることなどを説明する。
そしてキンゼー一家全滅は暗殺でジャック・リッパーが疑われてたことやキンゼー男爵家の事情などを話す
「ふーん、そうですの……ふーん……。驚きですわねクラウ?」
「そうっすね、驚きっす。でもなんで弟だったんすかね?」
「えー…………隠し子でしょう」
「ん、あー……そうっすね」
こいつら建国の成り立ち知ってるな?
初代の手記の表装の中の愚痴を2人だけに見せると哀れなほど狼狽してた。
本当に公爵令嬢と諜報家か?
「あ、うーん。意義深いですわね。あー興味深い、ほーなるほどねぇ。クラウ的にどうなんですの?家的に。あ、レズリー伯爵的にですけど。じゃなかったレズリー伯爵家的にですけど」
「あ、そうっすね。そこはかとなく。こう理解力が試されるっすね。いや、これは名著の書き出しのような。名著名文、散文的な……あれっすね。アレなこう良さを醸し出してるっす」
じゃあ農民反乱か。なるほどね。
エリー「農民にできたことがどうしてこの公爵令嬢であるワタクシにできないと言えましょうか?」
アーデルハイド「その農民の親戚でしょ?」
エリー「なるほど血は争えないと」
アーデルハイド「弾圧された農民が国を興して、子孫が農民の反乱を抑えるために実家を潰すなんて出来の悪いジョークね」




