人が想像できることは、すべて現実に起こり得ることなのだ、それがどのような形かは置いておいて
バンサ伯爵家記録の棚から本を出すようにマッセマー商会の人間に頼む。
一応確認もしているが一旦すべて出す、床に直置きでも致し方ない。どうせ廃棄する可能性が高い本だし。
あれよあれよと壁にあった棚はすべて空っぽになり、虚ろさを見せる。
棚を動かして本棚に細工がないか確かめるが見当たらない、マッセマーの鑑定士たちも調べているが棚自体は何の変哲もない棚だ。
とりあえずもう棚はいらないだろう、売却でいいと思う。
棚も運び出したが特になにもない。カーペットに変な跡もない。
考えすぎだったか?やっぱり小説家ってくだらないことばかり考えてしまうのかもしれないわね。
そこら中に積まれたバンサ伯爵家記録を確認した後で次々と運び出していく商会員。
こうなると書籍のほうか?だがわざわざこんなくだらない本を作る意味が見えない。
これはどこで買った?記録にはない。
背表紙でも年代の差があるように思えない。ということはかなりの数があってこの棚に放り込んだはず。
まぁこんな感じで本作ってくれとは頼みづらいしどこかしら漏れるな。
つまりこれ自体は元から保管されていたバンサ伯爵家記録用でいつごろかは知らないが購入されていた白紙本だったのだろう。
代が変われば記入していったかなんかだろう。鑑定士たちはそれぞれ思い思いに記録を手に取り、調べ、売却に持っていく。
書かれてるページを剥がして白紙本で売るのだろう。
バンサ伯爵家記録が白紙やスカスカか、皮肉を入れたエンプティ・ブックの類みたいだな。
よく見たら商会員が本を3つに分けているみたいだ、丁重に置かれているものと雑に置かれている2つ、丁重なものはなんだろう?
どれどれと眺めてみるとまともな記録だ。
これこそ読ませたらだめなやつだろう?バンサ伯爵家の役割に関してだ。
各貴族間のバランサーとして活躍していたというか家職自体がそれか。常に2番手くらいの位置でうまいとこ調整していたらしい。これは100年くらい前の記録か。
最新刊はどこだろう、これは売らないように……わかってる?そう、ごめんなさい、ありがとう。
白紙、白紙、これは変則的なもの。とりあえず運んでいる人間に渡す。
白紙は貯まるとすぐ持ち出されるがまともな記録と中途半端なものは残っている。
まぁ、中途半端に重要なこと書いてあると困るしな。
一応もう一度真面目に読んでみるが、ふむ……。
やはり適当なバンサ伯爵の記録だ、表紙に仕込みがないから運ばれてきたのだろう。
もう1冊、全く同じことが書いてある……。面倒くさかったんだな。ああこれも同じだ。1冊残して処分で。
そうこうしていると歓喜の声が上がる。
どうやらとうとう見つけたらしい、バンサ伯爵初代の記録の表紙に何か仕込んであるらしい。
ドキドキワクワクだ、どんな秘密があるんだろう。
『クソめんどくさい仕事押し付けやがって!バカ国王が!だったら侯爵位くらいよこせ!なにが婚姻政策だ!あんな頭の足りない男爵家と家の娘が婚姻だと!子爵程度ならまだしも活躍してその程度で冷遇して謀反が怖いから抱き込めとかふざけんな!土地よこせ!なにが宮廷貴族だ!領地なし貴族なんて侮られるに決まってるだろ!能無しが!』
めっちゃ悪口書いてあるだけだった。多分初代バンサ伯爵だろうか?
周りが引きつってる中で裏表紙も剥がす。
『まーたくだらない尻拭いだ!公爵を抱き込めとか無茶なことばかり言う。子沢山だから嫁がせて王家を支えろ?俺が寝返ったらどうするんだ!認められてないだけで血筋だけなら俺だって公爵家くらいは名乗れるんだぞ!お前の親父が愛人と作ったのが俺じゃないか!俺の親父だって薄々気がついてるんだぞ?明らかに顔が国王に似てるからな!お前は兄として俺を助けなかったくせに都合の良いことばかりいいやがって!都合と良いときばかり弟して余を助けよ……とか抜かすな!お前だってもともとは農民の三男だろうが!』
闇が深かった。封印しておくべき歴史だったな。秘密にしても大きすぎる。
実際のバンサ伯爵家記録の中では該当部分が兄のため娘を男爵に嫁がせたこれも国のためとかすごい忠臣っぽい書き方をしてる。他にも色々とあるが表紙両面の想定裏に書いてあることはよほど腹に据えかねたのだろう。
なんならこの記録書だと初代国王は伯爵家の三男で悪辣な兄から放逐された事になっている。
農民から伯爵家は盛りすぎだろう……?さる伯爵家って書かれてないのがもうおかしいが国王就任後に家ごと抹消処分したらしい。汚名であるからとか書いてある。
もしかして建国史って農民反乱だったのか?
私達の中で建国からの歴史があってなおかつ伯爵以上なのはライヒベルク公爵家とレズリー伯爵家くらい。アレキサンダー女伯爵家は建国時にはなく直後の対外戦争かで寝返ったからだったはず。イデリー伯爵家も子爵からの奨爵。我がアルベマー伯爵家も元々は外様で建国初期に内政の功績あって伯爵位を授爵されたはず。
一応建前はサミュエル王国建国時、つまり王国として対外的に完全に完成したときにはいたことにはなってるが、家の本当の記録だとサミュエル王国に~だったから建国前にはいないはずだ。
ブランケット侯爵家も建国からいるのだが……アーデルハイドはいない。
”ワタクシ達貴族なんてもともと蛮族みたいなものですからね、同じようなものですわ”
え、そういうこと?建国前のもとを辿ればそもそも農民か蛮族みたいなものって話じゃなくてそもそも建国したときからってこと?
エリー「下が騒がしいですわね」
キャス「呼びに来ないのであればただの運び出しでしょう」
ローレンス「あの絵はいいのですか?」
エリー「風景画ですわね、なんか応接間がやはりおかしいだけなのでは?」
ピア「売却で」




