心の声はワタクシが勝手に代弁してますわ
「これもにてるけどなんか似てないような……」
「そもそもどんな感じっすか?」
「もう少し顔がわかるメイクでしたわ」
まぁ、壁のぶつかったみたいな絵を考えれば間違いないとは思いますわ。クラウもピアもこういうのであれば多分あってはいるはず。
せめてメイクが落としてあればわかるんですけどねぇ……。
これに関してはおそらく多分での判断は危険な気がするんですの。
なんて絵を眺めていたら大勢を引き連れて返ってくるシャーリー。
悪徳商人の差し押さえみたいですわね。
「これは大公女殿下……。ご機嫌麗しゅう……」
「気楽に、ローレンス会長。友人のお父様ですからそう気を使わなくても結構ですわ。ねぇ皆さま」
「ええ、友人のお父様ですので、お久しぶりです」
「軍がいつもお世話になっている」
「友人の父親として接しろってことだよ(小声)」
「シャーリーにはよく世話になっています」
「俺もよく世話になっている、いい友人を持てたと思っている」
「よろしくねー」
「よろしく願いいたしますわ」
クラウがネコ被りましたわ。かえって不気味なんですけど?
「ベスは今外してますわ、でもお気になさらず」
「これはこれは……お気遣いをさせてしまうようでは一流の商人ではありませんね、申し訳ないくらいです。それで……」
「こちらはピア、ピア・バンサ『伯爵』。ワタクシたちの友人ですわ」
「──これはどうも、マッセマー商会で商会長を務めさせていただいております、ローレンス・マッセマーでございます。今後ともご贔屓に……」
「こちらこそ今日は無理を言って来ていただいて申し訳ありません。ピア・バンサと申します。ライエン侯爵家の直系です」
「ほう、高貴な方のお相手が私のような人間で申し訳ないのですが……。よろしいのでしょうか?」
「いえいえ、ライエン侯爵家など実質取り潰しのような家ですから。財産だけは継承されたので断絶とごまかされていますから。ただのバンサ伯爵家当主でしかありません」
「ハハハ、バンサ伯爵家と言えば空位であったと記憶しておりましたが……。ご復権おめでとうございます。たしか先々代の御代には大層活躍されておられたと……」
「いえいえ、いまでは没落貴族ですから。みなさまのお力が必要でこうして相続した品を泣く泣く手放そうと……」
「御心中御察しします。お力になれるよう頑張らせていただきます」
「エリーとシャーリーが間違いないとおっしゃる方ですどうしてお疑いしましょうか?」
「ハハハ、次期女王と次期商会長候補の推薦では手を抜けませんな。適切な金額でよろしいのですね?(こいつ次期女王になろうとするやべーのだって知ってる?あと俺の言い値で買うってことか?)」
「もちろん、数年後にはこの国を統べる方と司法大臣の前で不正をしてくれと頼む方がいるでしょうか?もちろん商会は従業員のために利益を出さねばならぬもの、適正価格より少し下がることもあることぐらいは存じておりますのでシャーリーも適切な算出をしたうえでもっと詳しいものはぜひ頼ってほしいとのことでしたから不安い思うことは何一つありません。全て言い値でお売りします(知ってる。ある程度はいいけどちゃんと適切な値段で売れよ、シャリーから大まかな基準は聞いてるぞ。カモじゃなくて本当に友人ってことだよ、じゃ任せるから)」
「それは危険ですね。例えばこの道化師の絵を金貨1枚と言ったら?(できんのか?この高そうな絵を金貨1枚って言ったらどうするんだよ、お?)」
「どうぞ、金貨1枚でお売りします。手続きを今しましょう。たかだか金貨1枚で良い関係が築けるのです、もう数枚お売りしましょうか?(今後仲良くするなら売ってやるよ、金貨1枚位安いもんだろ。もっと欲しいならそれくらいいくらでもくれてやるぞ)」
「────いいでしょう、喜んで買わせていただきます。そのかわりそちらの絵を金貨300枚で買いましょう、軽口の非礼をお詫びします。アーノルド、金印を(わかったよ、言い出したからこれ金貨1枚で買うよ、その分はこっちに多めに上乗せしとくからさ、謝るしお前上客として扱うから降参降参)」
「こちらに……」
「マッセマー商会ご利用の際はこちらをどうぞ。最優先で対処いたしますので……。年を取ると軽口がひどくなってしまうのです許していただけますか?(本当に友人だったんだね、許して)」
「会談にも商談にもユーモアというものがあります。さすがは商人だと思ったくらいです。一体なにを謝ることがあるでしょう?これからもよろしくお願いいたしますね(気にしてないからいいよ)」
「ええ、もちろん。諧謔のわかる方とはいい商談ができるのでありがたいですね(ありがと)」
「ええ、会話は明るく楽しくちょっとした脱線が必要ですからね(どういたしまして)」
「全くそのとおりです」
多分心の声はこんな感じですわね。うーん、やり込められましたわね。
というか貴族的な雰囲気すら一切出さずに口からは貴族の会話をするなんとも言えぬアンバランスさ。
これは多分ワタクシも騙されますわね。
ジャブと言うよりカウンター食らった感ですわね。
いかにも騙しやすいかもみたいな立ち回りで騙せない当たりやっぱり貴族ですわね。
こっち側に来てよかったですわ
キャス「(エリー脳内で演劇やってそうですね)」
アン「(ぼーっとしてるな)」
シャーリー「(騙されてやんの)」
クラウ「……(胡乱な目をしながら部屋から絵を運び出す)」
マーグ「(諜報員に向いてそう)」
ジーナ「(しれっと俺を出したなぁ)」




