悪趣味な美術館ですわね
「これも顔がよくわからない、パス」
運び出して確認しつつもメイクが濃すぎて確信が持てない。
肖像画って美化しますからね、この前も壮年の肖像画の子爵とあいましたけど実際がガマガエルでしたし。
ガマガエルのほうが美形だったかも……。
「持ち出し続けてるけどどうなんだ?」
「玄関合わせて金貨500枚くらいやろな、まぁ古いやつは親父たちに任せるわ。トリンクス画だけはまだ査定を下せるけど。これ誰が描いたんや?」
「署名がないですわね、でも結構お上手」
「裏に書いてあるっすよ」
「あら、額にこれ見よがし描かないのね、他にはあったのに」
「えーと『自画像』」
「もっと自画像に良い構図あるだろ(小声)」
「玉乗りしてる自分をどうやって見ながら描いたんですの?」
「心の目……?」
「知らないっす」
「知らん(小声)」
「価値不明で置いとくな」
まぁ上手いけどどうなるかはわかんないですわね。
何考えてるのかずっとわかんないんですけど。
「伯爵子息時代の絵ですか、これもトリンクス……大盤振る舞いですわね」
「いくら金が出てくかわからんわ!その分好事家にも売れる!トリンクス愛好家も道化師愛好家も少なくはないで!」
「道化師愛好家……?なんか変な方々ですわね」
「演劇愛好家は黙ってくれや、同じようなもんだろ」
「いや、実際に演じるものとそれを切り取った絵画は別物ですわ。いわば楽曲の譜面だけを持つだけで満足してるか、その演奏場面の絵画を見て満足してるだけの人みたいな……」
「あーはいはい、今忙しいから後でな」
解せませんわ……。金貨愛好家に言われても……。
シャーリーに私が金貨の絵を描いて送ったら喜ぶのかしら?舐めてんのか!って怒りそうですわね。
「図書室を先に見ていい……?多分同じ人物画で……役に立てそうにない……」
「ああ、こちらです。隣の……はい、その家の絵のかかっているところです」
「じゃ、先に……漁って来るね……」
「はい、同じく道化師の絵が2枚ほどありますがあとは湖などの風景画です」
「まだ……あるの……?」
「はい」
「……わかった……」
不承不承ですわね……。多分一生分の道化師の絵画を見ましたわ。
つまりこのまま増えれば来世分に……。
「これはどうっすか?」
「孤児院で踊ってますわね」
「ん?これトリンクスやないで?」
「では誰ですの?」
「パドって署名があるっす」
「知らんな、無名の画家か?それとも孤児院出身のやつか」
「パド家令?」
「まさか、と思うけど家の関係で仲がいいのか(小声)」
「描かせるのが好きだったのか?にしては……全部道化師だしな」
「アーデルハイドみたいな感じで描くのが趣味だったのかもしれませんしね。まぁ見るものではありませんわ」
「これも親父の判断待ちやな」
これ若い肖像が多いですわね、なんか敢えてみたいな……。よっぽど顔を見せたくないのかと思うくらい。
でも応接するときは素顔。まぁそうですわね、登城時もパーティーもメイクしてたら流石に話に残ってるでしょうし。
道化師の自分は好きだけど素顔の自分は嫌いとか?だったらなおさらメイクか何かをするでしょうね。この部屋で道化師オドニーがでてきても客だってああそうかと諦めるでしょうし。
「慰問好きの話くらいは聞いてたっすけどあらためて見ると莫大な量っすね」
「あ、これも平民街の孤児院、さっきと別。治安があんま良くないとこだった」
「幅広いな、これ孤児院か?」
「昔摘発された貴族邸の流用だってさー」
「これも孤児院っすか……。この屋敷の庭だと思ったっす」
「ここの柱がその孤児院と同じ、あとこの木もねじれてるのが同じ。年数考えてもこれだと思う」
「ちなみにこの小さいのはどこだ?」
「これはライヒベルク地区の孤児院ですわ、ワタクシが運営してますの。5歳の頃に経営権をぶんどりましたわ」
「しれっと地区を乗っ取った(小声)」
「……幅広いな」
「どっちが?エリー?オドニー・バンサ伯爵が?」
「どっちもだ」
それにしてもこのときは貧相でしたのね。この時の経営権はまだ王家でしたっけ?地区長でしたっけ?忘れましたわ、どうせ気にする価値もないですし。
「これはうっすら似てますわね、壁にぶつかってるみたいな感じの絵画」
「これ絵画から出ようとして失敗してるようにも見えるな」
「呪いの絵画みたいですね」
「こういうのが高く売れるんや!」
「おもしろいんじゃね?」
「まぁ、一番いいかもしれないな」
「センスはある(小声)」
「なんかこう、壁にぶつかってるみたいな感じの頬のぺったり具合とかがなんとなくオートリカスの劇で見たときを彷彿とさせますわ」
「これはトリンクスやな、これだけで金貨100枚いくか……?芸術性合わせても……」
ワタクシのセーターと同額……!?
いや、そんなもんでしょうしね、ちょっとショックですけど、絵画はそう言うもの、肖像画に負けるのは悔しいですけどこれは芸術品。芸術品の絵画、惰性で作る肖像画とは違う……違いますわ……。
気を落ち着けようと窓を見たら……なんか大勢こっちに来ましたわよ。
「シャーリー?あれマッセマー商会の方々?」
「ん?ああ、せやなちょっと迎えてくるわ、そのまま頼むで」
「……わかったっす」
運び続けるクラウがとっても嫌そうに答える。
面倒ですものね。
馬車から馬を外してマッセマー商会本社に来た御者「商会長!お嬢様が目利きが出来る人間を全員連れてこいと!」
ローレンス・マッセマー「あいつも甘いな、私だったら買い叩くくらいするぞ?エリーゼ様相手ではこちらも悪くはしないが……手数料は取る。支社とは言え商会長だ、自分でカバーできないような……」
御者「お早く!」
ローレンス「そう慌てることもあるまい、せいぜい焦らして……」
御者「お嬢様のご友人が揃っております!伝令も男爵令嬢のマーガレット様でバンサ伯爵家自体を売り飛ばすと」
ローレンス「早く言わんか!全員バンサ伯爵家に集合!どんな物品があるかわからんぞ!」




