まぁ?乙女は小腹が空くものですし?
「まぁ、実際嫁にするのはしんどそうだしな、ハハハ!」
よりによってアンに言われた……?アンに?アンですわよ?
「んふっ……。アンもこういって、ふふ……ふふふ……」
「ジーナ、ダメですよ……。さすがのエリーでも傷つきます」
「これ笑えるのか笑って良いのかわかんねーし」
「マーグ、そういうときは我慢や。無でいるんや」
「…………」
キャス、黙り込んで笑うのを我慢してるのはわかってますわよ?
ベスを見てご覧なさい、ほら……無ですわね……。
クラウ?
…………無ですわね。
「アンに言われたくはありませんわ」
「…………?」
え、なんで心底不思議そうになんでって顔してますの?ワタクシが間違ってる?
あれ?世界丸ごと変わりましたか?おかしいですわね……。
「……エリーの負けっすね」
「もう、それでいいですわ……」
なんでしょうね、この敗北感は……。とても複雑で、とても不本意で……とっても……。
「疲れましたわ……」
「お腹すいたか?(小声)」
「ワタクシをなんだと思っていますの?」
「ハラペコ大食い令嬢(小声)」
「この抜群のプロポーションで?」
「デブとはいってないけど?(小声)」
「なら別にいいではありませんの」
「ハラペコ大食い令嬢と言っただけ、気にしすぎ(小声)」
「たしかにエリーはよく食べる時がありますね」
「お腹が空いたら食べる、当然のことでしょう!」
「そこまで……声を張り上げること……?」
「当たり前ですわ!」
なんか余計お腹がすきましたわね。
なにか持ってこさせましょうか、夕飯までの繋ぎで……。
あれ?呼び鈴どこでしたっけ?えーと……。
あら、ありがとうマーグ、持っててくれましたのね。
「お呼びですか?」
珍しいみたいな顔しないでいただけませんか?お茶のおかわりかもしれないじゃないですの。
「軽くつまめるものを」
「……かしこまりました」
ふむ、なんか不思議そうですね。なんでかしら?
「そういえばお菓子もうないな……」
「そこそこ……摘まんだし……」
「なんかクラウがよく食ってたな」
「空腹っすからね」
「え?」
「空腹っすからね」
なんか軽く食べてきましたわね?
なにかしら、そこそこ軽食、大きめのサンドイッチかしら?パニーニ?いや、敢えてのリゾット。
「どうぞ、合鴨です。切り分けますので……」
「え、いや、ワタクシ達この後ピアの……バンサ伯爵家で夕飯を取る予定ですけど……。いつ焼いてましたの?」
「…………急に予定を変えたので処理を持て余していただけです」
「……申し訳ありませんわ」
勝てない戦いで失うものもないなら頭はとっとと下げるに限りますわ。
食を握ってる人間には下がる他なし、所詮貴族といってもそのようなもの。癇癪を起こして首にしても敵しか喜ばない、むしろ弱体化ですわ。
あと、この状態で癇癪起こしても勝てないですわね。
「まぁ、この人数だ。私もマーグも食べる方だしな。食べれなくはないが……」
「あーしは七面鳥でもチキンでもいけるよ~」
「そうか、うん……今日は大変だったんだな」
「俺は……そこまでは食べれないかも……」
「私は……どうかな……お肉メインだと厳しいかも……」
「ああ、当家での料理の量は調整しますから……」
「あ、ワタクシは通常量でいいですわ。色々疲れてますし」
「エリー……お前……朝……」
「朝?朝食がなにか?」
「裁判前に……食べてただろ」
「ああ、軽食ですわね。おかげで昼はまともに食べられなくて、あの後ずっと喋りっぱなしでげっそりですわ」
「よく太らないな……(小声)」
「女優は太らないものですわ、太る役は私生活に支障があるから今は受け付けてませんわ」
「女優?」
「ワタクシはすべてを演じてみせますわ、それこそが一流の女優というもの」
「貴族です、公爵令嬢です」
「兼業ですわ」
「生まれながらの地位を業務扱いしないでください」
「欲しかったわけではありませんわ。ほしければ勝ち取る。それがワタクシ、そうでしょう?」
「らしいっちゃらしいわな……」
「それでこそ、エリーっすね」
「なにもいえないな……」
「やっぱそれくらいじゃないとね、惰性で騎士とかやってるようなのはダメだよね~」
「貴族を職扱いか(小声)」
「多分天職だよ……転職かもしれないけど……」
「それくらいの気概でいればよかったんですかね?」
「あれは辞めてください、もう少し現実的な……」
給仕が皿を配る、茶会ではないですわねこれ。
まぁ、このあとはメインディッシュがあるしいいですわね。バンサ伯爵家の料理、ピアの個人料理でしょうけど楽しみですわね。
あれ?給仕いつ入ってきたのかしら?気が緩んでますわね。
「それでは下がりますが、追加が必要なら……」
「多分大丈夫ですわ、ありがとうモリー」
下がるモリーに感謝しつつ合鴨を貪る、もとい優雅にいただく。
「美味しいですね、この合鴨」
「そうでしょう?こちらの……」
「あっ……」
「どうしましたの?クラウ?」
「足りないのか?」
「私の分……食べる……?」
「いや、あの……入口の横の絵は……?」
「ああ、あれは大道芸人オートリカスですわ。昔にアーデルハイドが絵を書いたものですわ、流石に自室とかに置くのもどうかと思ったので……。まぁ今となっては遺品みたいなものですし、やっぱりワタクシの客間か自室にでも移動させようかしら、それがなんですの?」
「これアーデルハイドが書いたんっすよね?これ前からありましたかね?」
「前からあったと思いますわ」
「ピア先輩これ」
「え?これがなに?」
「よく見てほしいっす、よく見て」
「…………?」
「ちょっと近くで見ていいっすか?」
「いいですわよ?」
今更あの絵になにか驚くことでもありますの?まぁあれがオドニー・バンサ伯爵だったら笑いますけどね。
「そうっすよね!」
「ええ、これはオドニー・バンサ伯爵かもしれません」
笑えませんわね。
アーデルハイド「(カリカリ)」
オートリカス「(パントマイム)」
アーデルハイド「(カリカリ)」
エリー「(やりにくいでしょうねぇ……。あ、その動き良いですわね)」




